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EdTechZineオンラインセミナーは、ICTで変わりつつある教育のさまざまな課題や動向にフォーカスし、最新情報をお届けしているWebメディア「EdTechZine(エドテックジン)」が主催する読者向けイベントです。現場の最前線で活躍されているゲストの方をお招きし、日々の教育実践のヒントとなるような内容を、講演とディスカッションを通してお伝えしていきます。

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キーパーソンインタビュー

AI時代に必要な「個性を伸ばす」教育とは何なのか? ――モーリー・ロバートソン氏が考える、線路のない自由な学びの場


 AI時代と言われる近い将来、人として幸せな人生を送るためには、どのような能力を高め、スキルを身につけるべきなのか。2018年7月23日に開催されたAdobe Education Forum 2018では、その答えの1つとされる「創造性」というキーワードのもと、高校・大学の教育についてさまざまな視点から意見が交換された。基調講演に登壇したモーリー・ロバートソン氏は、「個性こそ育まれるべき」とユーモアを交えつつ熱く語る。果たして、現在日本の教育の何が問題で、どう変わるべきなのか。日米の教育と受験を経験し、現在は国際ジャーナリストやミュージシャンなどとして幅広く活躍するモーリーさん。講演とインタビューからその提言をお届けする。

自縛して衰退するか、ユートピアに生まれ変わるか

 「個性こそ、その人を幸せにし、社会に求められる力だ!」そう力説するのは、国際ジャーナリストやミュージシャンとして活躍し、多彩な才能で知られるモーリー・ロバートソン氏だ。日米双方の教育を受け、同じ年に東京大学やハーバード大学など7つの大学に合格し、ハーバード大学では電子音楽とアニメーションを学んだというユニークな経歴の持ち主である。フランクな人柄で親しまれながらも、独自の創造性を発揮しながら、分野や国の違いを超えて活躍する様子は、唯一無二の存在感を放つ。そんなモーリーさんには、今の日本がどのように見えているのだろうか。

 「私見ではありますが、日本はまさに時代の節目、『Critical Junction』にあると感じています。Criticalは“臨界”という意味で、パチンコで言えば“確変”。もうその瞬間からすごいことがガンガン起きる、そんなタイミング。つまり、悪い方に転がれば重篤に病んだ状態に、良い方に行けば21世紀のルネサンス、ビザンチン、ガンダーラのような多様性に富んだ文化的、社会的繁栄へとつながっていくのではないかと。『窒息日本』か『どんな夢も叶うというユートピア』か、どちらを選ぶかという瀬戸際にきています」

 その大きな要因は、AIなどテクノロジーの進化、そして加速するグローバリゼーションだという。つまり、AIなどのテクノロジーによって人の知的労働も画一化、均一化、規格化され、数値として測定されやすくなる。創造的な活動すらも消耗品として扱われるようになる可能性があるというわけだ。

 「90年代にIT革命などと言われた頃は、仕事の効率化が進み、労働時間が減り、ゆとりある生活ができるものと考えられていました。ところが、実際にはWebデザイナーのようなITを駆使したクリエイティブ職であっても、強制労働者と変わらぬ状態に陥っている人は少なくありません。1920年代に製作されたドイツ映画『メトロポリス』に描かれた、高度で平和な都市に暮らす指導者階級と地下で機械に使われる労働者階級に二極分化したデストピア。そうならないことを祈りながらも、来るべき未来に備え、生き抜き、繁栄するために、一人ひとりが新しい準備を進める必要があります」

Adobe Education Forum 2018の基調講演にトップバッターで登壇したモーリー・ロバートソン氏。ユーモアあふれる掴みで会場を沸かせる
Adobe Education Forum 2018に登壇したモーリー・ロバートソン氏。
ユーモアあふれる掴みで会場を沸かせた。

モーリーさんが考える、未来を幸せに生きるための4つの要素

 AI時代に生き抜くために必要な要素とは、どのようなものだろうか。モーリーさんは直感的に考えたという4つのポイントを挙げる。まず1つ目が「互換性がないこと」だという。

 「いい街には必ず昔から魅力的な喫茶店があり、住民や観光客に愛されています。ともするとグローバリズムはイナゴの大群のように地域の経済を食い尽くすことがありますが、そうした喫茶店はスターバックスに負けることはありません。目に見えない居心地の良さ、そこにしかない魅力、つまりは『互換性がない』こと。AIに置き換えられない人になることが必要です」

 そう言われると既存の線路を無視し、他者をも脱線させようとする「はみだし者であれ」と聞こえるかもしれない。しかし、モーリーさんが語るのはそうではない。「線路そのものをなくす」というのだ。

 「従来の日本の教育は、『決まった範囲の知識』を完璧に習得することが目的の、いわば“線路に乗った”学習です。その先には受験という、線路内での互換可能な知識だけで合否が決まるシステムがある。だから、日本最難関の東大であっても『比較が容易で互換可能な知識だけ』で合格ができてしまいます。それはそのままAIが得意とする部分です。さらに世界には東大以上の学力偏差値が高い大学は山ほどあり、さらに知識の線路からはずれた“やんちゃ”な人材が山ほどいます。グローバル化が進み、AIや彼らと競争するとしたら、もはや線路内で負けるだけでなく、線路自体の意味が無くなる可能性があります」

 さらに「即興性」も重要な要素だという。「即興性」とは、何らかの刺激にすぐに反応し、新たに作り直す力のことだ。しかしながら、日本は傷口をふさぐのは上手でも、あえて壊して新たに作り直すことは苦手なのではないかとモーリーさんは指摘する。運動によって筋肉が一度壊れ、再生する際により強くなるように、自ら壊し、刷新していく力や指向性が不足しているというわけだ。

 そして3つ目は「文脈=コンテクスト」。日本語では「行間」とも言い、情報として可視化されていないものをも感じ取る力のことである。AIは最後まで完全に受け身だ。情報をそのまま受け入れ反応する受け身AIに対し、受けた情報を自らの価値観や想像力などを介して分析し、自分のものとした上で新しく創造することが人間の本質であり、強みなのだという。

 そして4つ目は「ひらめき力」を挙げた。AIはあくまで直線的だが、ひらめきにはノンリニアな思考の跳躍力が不可欠となる。それを鍛えるのが「自由に考えること」だ。しかし、モーリーさんは日本の教育ではかなり不足していると指摘する。

 「米国では『思想の自由=Liberty』が重視され、中学でも『地球は丸いかどうか』について生徒たちが自らの経験や知識に基づいて、自由にディスカッションを行っていました。ニュートンやコペルニクスは完全無視(笑)。結果として、常識にとらわれず自分の視点でものを見るトレーニングになっていたのでしょう。一方、日本では重力に関する数字や数式を使った、AIが得意な問題ばかり。その数字がどのような考え方から生まれたのかを先生に聞いても『後で』と教えてくれません。むしろ受験に邪魔だと言われる。それでは自由な発想の習慣を身につけることは難しいでしょう」

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一人ひとりの異なる好奇心を羽ばたかせる「自由な学びの場」を

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この記事の著者

伊藤 真美(イトウ マミ)

エディター&ライター。児童書、雑誌や書籍、企業出版物、PRやプロモーションツールの制作などを経て独立。ライティング、コンテンツディレクションの他、広報PR・マーケティングのプランニングも行なう。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です


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