高速で進んだインフラ環境の整備、活用率も向上
最初に登壇した、文部科学省 初等中等教育局 学校情報基盤・教材課 課長の寺島氏は、GIGAスクール構想の整備状況を共有した。
GIGAスクール構想の取り組み開始から5年ほど経過した現在。コロナ禍の影響もあって、端末とネットワークといったインフラの普及は高速で進んでおり、この令和6年度で小学校1年生から高校3年生までの全校で1人1台端末の整備が完了する。寺島氏は「世界を見渡しても、この規模で1人1台の環境が整備されている国は少ない」と説明した。
学校現場での活用率も順調に伸びている。寺島氏は、昨年度の全国学力・学習状況調査の質問紙調査の結果を示し、小学校では約65%、中学校でも60%以上の学校が「1人1台端末をはじめとしたICT機器を毎日授業で使っている」と回答したと明かした。また、端末を持ち帰って家庭で活用するケースも増加しており、多くの学校で、授業と家庭学習での日常的な端末利用が定着している。
GIGAスクール構想の効果は? 見えてきた課題も
では、ICTの環境整備と活用が進む中、その効果はどこに表れているのだろうか。令和5年の全国学力・学習状況調査の結果と、ICT活用の頻度を見比べても、「教科の平均得点との直接的な相関はあまり見られない」と寺島氏は述べる。
他方で「ICT機器の活用」と「主体的・対話的で深い学び」との関係に注目すると、一定の相関関係が見られる。主体的・対話的で深い学びの視点からの授業改善を行っている学校ほどICT機器を活用している傾向があるのだ。例えば「学習やグループで課題を設定し、その解決に向けて話し合い、まとめ、発表するなどの学習活動を行った」という質問に対して「よく行った」「どちらかといえば行った」と解答している学校は、PC・タブレットの使用頻度も高い。
そして、児童生徒への調査で主体的・対話的で深い学びを実践しているかを尋ねた質問では、「自分の考えがうまく伝わるよう、資料や文章、話の組立てなどを工夫して発表をしていた」という項目に「発表していた」「どちらかといえば発表していた」とポジティブな回答をしているほど、国語・算数の平均正答率が高くなることもわかった。また、主体的・対話的で深い学びを実現する授業を行っているほど、「学校へ行くのが楽しい」「自分と違う意見について考えるのは楽しい」と回答する児童生徒が多いことも示された。
このことから、寺島氏は「主体的対話的で深い学びは、指導要領が目指す『多様な主体と協働して自分の意見を形成する』によい影響を与えている。そのような授業を高いレベルで実現できるのがICT端末ではないか」と考察した。
しかし、ほぼ毎日活用すると解答した小中学校でも「児童生徒が自分の考えをまとめ、発表・表現する場面」「児童生徒同士がやり取りする場面」といった、主体的・対話的で深い学びに寄与する場面での活用は10%台にとどまる。寺島氏は、こうした場面での活用促進を「今後の課題」として指摘した。
また、GIGAスクール構想の効果のひとつとして「PISA 2022」の結果を共有。PISAは高校1年生を対象に、知識や技能を実生活の課題にどの程度活用できるかを問うテストで、2015年より筆記型からコンピューター調査に移行した。「Excel」などソフトウェアを動かしながら答える問題も出題される。
PISA 2022の対象だった世代は、遅くとも中学生3年生のときから1人1台端末の環境で学んでいる。寺島氏は、日本の結果を「数学をはじめ、非常に良好だった」と評価し、「端末を使いこなせる世代だからこその結果では」と分析した。
一方で、PISAのアンケート調査によって高校でもICT活用の場面に偏りがあることが判明した。教科ごとの活用頻度は、国語・数学・理科ともにOECD加盟国の平均を下回った。さらに、探究型教育における使用頻度についてはOECD加盟国で最下位の結果に。寺島氏は「数年すれば、小学校1年生から9年間1人1台端末の環境で育ってきた生徒が高校に入ってくる。そのときに高校の授業がこのままではまずいという問題意識を持っている」と課題を語った。