「ないのであれば作る」からスタート
鍋谷氏が勤務する渋谷区では、GIGAスクール構想に先駆けて、自治体として児童生徒に1人1台のWindows端末を整備し、現在はダッシュボードによる教育データの活用を行うなど、ICTの活用を推進している。そうした渋谷区の取り組みに着目した鍋谷氏は「デジタルを活用する学校現場に行きたい」と考えて異動の際に希望を出し、2019年から現在の渋谷区立千駄谷小学校に勤務している。コロナ禍におけるオンライン授業の推進や、プログラミングの授業をはじめとしたICT活用の取り組みを先頭に立って進め、全国の自治体等で教員向けのワークショップや講演なども行っている。2023年には、EdTechZineオンラインセミナーでも「児童と教員の自走力」をテーマに講演していただいた。
現在は算数向けのデジタル教材を開発している鍋谷氏だが、もともとのきっかけは、1990年代後半に担当した図工の授業だったという。当時はまだ「クラウド」という概念がほとんどなく、学校ではコンピュータ教室などで買い切りのソフトをインストールして使っていた。
青森県の小学校で図工専科として常勤講師を務めていた鍋谷氏は、「図工の『お弁当づくり』という授業で、アイデアスケッチをする際にお弁当のサンプルをたくさん子どもたちに見せたかったが、当時は適した教材がなかった。そこで、子どもたちが校内ネットワークの中で見られるホームページのような形で、さまざまなお弁当のサンプル写真を見られるカタログ教材を作った」ことが始まりだったという。
その後、東京都の公立小学校教員として町田市の小学校で勤務するようになってから、算数のデジタル教材を作り始めた。しかし、最初は「役立った感がなかった」と話す。教育におけるICT活用がまだ受け入れ難い雰囲気の中で使い始めたものの、「板書に比べて大きな効果を得られていない」と感じていたという。
そのような状況であっても、鍋谷氏が算数のデジタル教材を作り続けた理由は2つあった。「もともとあった教材だけでは足りない、『かゆいところに手が届く』ものがほしかった」ことに加えて、「アナログ教材の管理は難しく、経年劣化していく」ことだ。