リクルートの企業文化を社会に還元すべく教育プログラム「高校生Ring」を開始
──まず、リクルートでの小宮山さんのお取り組みついて教えてください。
リクルートへは2015年に入社したのですが、その少し前からテクノロジーと教育の組み合わせに興味を持っており、本業の傍ら執筆活動などを行っていました。私自身も母子家庭で育ち、経済的に困難なことも多くあったので、すべての子どもたちに教育の機会を提供したいという想いをずっと持っていました。
その中で「スタディサプリ」を立ち上げた山口文洋さんにお声がけいただき、リクルートに入社した形です。入社後はスタディサプリ教育AI研究所の所長として、研究やそれらに関連した広報も担当しています。
また、経団連の「EdTech戦略検討会」では座長も務めており、GIGAスクール構想が決定する前から1人1台端末整備の重要性を政府に訴えてきました。スタディサプリも含め、デジタル教材で個別習熟度別学習を実現するにはそもそもハードウェアが必要です。加えて社会の機運の醸成も重要ですから、テクノロジーを教育に活用するメリットについても啓発しています。
──リクルートが企業として「アントレプレナーシップ教育」に取り組む理由をお聞かせいただけますか。
2016年、東京学芸大学とリクルートは共同で「AI時代に必要な学び」をテーマとした研究を開始しました。また私自身も、2019年より同大学の大学院でアントレプレナーシップについて講義を行っています。
元々、アントレプレナーシップには興味を持っていました。これまでは一部の人にのみ必要なものでしたが、正解のないVUCAの時代と言われる中、ゼロから何かを生み出す力は、すべての人にとって重要になると考えています。
GIGAスクール構想によって個別習熟度学習が普及すれば、より効率的に学ぶことができ、積み上げ型の教科と言われている算数・数学、英語などの学習にかかる時間を短縮することが見込まれます。現に、これまでの半分の授業時間数で全員が学ぶべき内容を習得した学校もあります。
そうなると時間の余裕が生まれ、これまで学校教育で取り組むことができなかったアントレプレナーシップ教育や金融教育、性教育、政治教育などを充実させることができますよね。その中でも、アントレプレナーシップは先ほどお話ししたようにこれからの社会事情の中で必要となる能力です。
リクルートには、スタディサプリやゼクシィなど、「Ring」という社内の新規事業提案制度から生まれた事業が多数存在しており、経営理念の1つとしても「新しい価値の創造」を掲げています。そういった意味でリクルートの風土や仕組みとアントレプレナーシップは非常に親和性が高く「何らかの形で社会に還元できないか、高校生のアントレプレナーシップの育成に活かすことはできないか」と考え、取り組みを始めました。
具体的には「高校生Ring」という学校向けのアントレプレナーシップ教育プログラムを、スタディサプリの事業メンバーを中心にRingの担当者とも連携しながら実施しています。私は学校現場を訪れる機会も多いのですが、数年前より「アントレプレナーシップのコンテストをつくってほしい」と、先進的な先生方からリクエストを頂いていたんです。
高校生Ringは、アントレプレナーシップを身につけるための教育プログラムで、「半径5m」にある自身の視点からビジネスを考えるプログラムを通じて、高校生が自身への理解を深め、興味や目標を見つけるきっかけとなることを目指すものです。本年度は23校が参加しています。
学校単位で参加していただき、学校内選抜を勝ち上がった約500件のビジネスプランを、まさに現在、私を含めたリクルートの社員が審査しています。書類審査を通過したプランは、アイデアをブラッシュアップするための講座やリクルートの事業開発経験者による個別のメンタリングを実施し、その後の動画審査や来年1月に行われるプレゼンテーションを経て、優勝・準優勝が決定する予定です。
学校単位の参加としているのは、まだ課題を発見する楽しさに気づいていない生徒さんにも参加していただきたいからです。意欲のある子は個人でビジネスコンテストにどんどん応募しますが、そうでない子も気づきを得るきっかけとなる仕組みにしていきたいと考えています。
──本年度の高校生Ringは現在審査中とのことですが、去年実施した学校ではどのようなアイデアが生まれたのでしょうか。
決勝に残ったものを紹介すると「左利き用の人に向けたプロダクトを集めたECサイト」がありました。左利きの人がハサミや包丁を購入する際は情報を集めるだけでも非常に手間がかかるそうで、これはまさに身の回りの課題ですよね。私もこれまで気がつきませんでしたし、ありそうでなかった事業の提案で感銘を受けました。大人は高校生のことを下に見がちですが、実際には、ちょっとしたヒントをリクルートの社員が出すと、そこからすごくよいアイデアが生まれるんです。大学教員の立場としても、非常に有意義な取り組みだと感じています。