学びは学習者のものである――「学びのオーナーシップ」
五木田氏は、前任校である開智望小学校の立ち上げメンバーとなり、開校後はICT主任や学年主任などを務めた。現在は東京都世田谷区のオルタナティブスクール HILLOCK初等部で、2022年の開校に向けて準備を進めている。参加者からはHILLOCK初等部についての質問も多数寄せられ、注目度の高さをうかがわせた。
セミナーの冒頭、五木田氏は参加者に「皆さんにとって学校とはどのような場所か」と問いかけた。チャットに寄せられた回答には「児童生徒の成長を可視化して可能性を伸ばす」「自分なりの幸せをつかみとるための見方、考え方を養う場」「子どものコミュニティをつくる場」「学びが生成されるところ」「社会に出て困らない予行演習」など、多くの意見が挙がった。
それらの回答を見ながら、五木田氏は「改めて学校のことを考えてみると、広い世界を知ってほしいと同時に、社会の中に自分らしくある自信を持つ場だと感じる。そして、学びにとって一人ひとりが必要なことを実感する場所。学校は子どもを押し込む場所でも、問題を起こさないための画一的な場所でもなく、大事なのは育ちの場であること」と、自らの意見を語った。
その上で「今までの授業者は『いかにうまく教えるか』という論点で仕事をしてきた。しかし今後は『学習者が何を学ぶのか』を意識しなければ、学校はより良い育ちの場にならない」と述べる。
中でも五木田氏が強調したのは「学びは学習者自身のもの=学びのオーナーシップ」ということだ。そして、探究学習やICTを活用することによる子どもの変化・成長について、実際に五木田氏が接してきた児童の例をもとに紹介した。
五木田氏が5年間見守ってきた開智望小学校の1期生である児童の1人は、5年生の探究の発表会で、集大成として2つの「そうぞう力(想像力・創造力)」について発表した(注:同校の初等部は5年生が最高学年)。その結果、この児童は「見たことのないものを想像する力、何かを創り出す力のほかに、人の心を考えることも『そうぞう力』として捉えなければいけない」と感じるようになったという。「このような学びを普段の生活で意識していくことによって、実際に周囲との喧嘩が少なくなったり、相手のことを考えられるようになったりと自分の力にすることができた。これこそがまさに学びのオーナーシップで、自分の話が学びとつながっている」と、五木田氏は探究やICTが当たり前にある環境での子どもの学びの姿を語った。
「立ち戻るもの」とは何か
五木田氏は、今回のセミナーのキーワードとして「立ち戻るものを決める。こまったら、立ち戻る」「その時の『最適』を探す」の2つを挙げた。
その一例が、2020年の一斉休校中に実施した「今日の1日予定シート」だ。子どもたちがそれぞれ自分の1日の予定を立てて学ぶという活動で、「学習、娯楽・趣味、休養をバランス良くとってほしい」という願いのもと実施された。
具体的には、その日自分がやりたいこと・やるべきことを毎朝設定し、夕方にはその日を振り返り立ち戻る。そして、より良くできそうなことを考えたり、逆に難しい場合は易しくしたりするなど、自ら考え、調整する力を身につけることがねらいだ。
この授業を通じて、五木田氏は子どもたちの成長を感じることができたという。
「オーナーシップを持って自分たちで学んだり、ICTを使って個性化を図ったり、他者と交じり合う協働学習の学び合う場があったりしたことで、自分たちで問題をつくり、下級生に教えることもできるようになった。これも『立ち戻る』場をつくったことによって成長できたからこそだと思う」(五木田氏)