はじめに
「KidsVenture」は「電子工作・プログラミングを通じてつくる楽しさを学び、挑戦意欲溢れる次世代の創出に貢献する」ことをミッションに掲げ、2015年から子ども向けのプログラミング教室を開催している。キットには安価な子ども向けパソコンである「IchigoJam」を採用。より大勢の子どもたちにプログラミングの楽しさを伝えるべく、日々活動している。
前回の記事では運営委員会の方々にKidsVentureの発足経緯やミッションについてインタビューを実施し、その模様をお伝えした。今回は講師として活躍する株式会社ナチュラルスタイルの松田氏、さくらインターネット株式会社の大竹氏、同じくさくらインターネットの尾村氏、さらにテレビ会議を使用して札幌で講師を務めているビットスター株式会社の照井氏と戎屋氏の5名に話を伺った。
自分の子どもだけにプログラミングを教えても、社会は変わらない
IchigoJam販売元のナチュラルスタイルの代表でもある松田氏は、現在KidsVentureの代表講師を務めている。2014年に福井でPCN(プログラミング クラブ ネットワーク)という子どもたちにプログラミング教育を行う団体を立ち上げたことをきっかけに、講師として活躍中だ。
「自分の息子が10歳になったタイミングで、どうやってプログラミングを教えたらいいか考えるようになりました。プロのプログラマーになってほしいわけではなかったのですが、十数年後、彼が大人になったときのことを考えると、ちょっとプログラミングを嗜んでから社会に出てほしいと思ったんです」(松田氏)
しかし、いざ教えようとしたところである考えがよぎったという。
「自分の子どもだけに教えても、社会を良くすることにはならないんじゃないかと。『世の中の子どもたちに広く教えなければ』と気が付きました。そこで、まずは自分が住んでいる福井の子どもたちを集めてプログラミングの楽しさを伝える活動をスタートさせたんです」(松田氏)
その光景を見たKidsVenture代表の高橋氏と副代表の若狭氏が感銘を受け、KidsVentureが発足した流れは前回の記事で紹介した通りだ。そして、松田氏もPCNだけでなく、KidsVentureへ活動の幅を広げていく。
しかし、全国各地で開催される教室全てで松田氏が講師を務めることは難しい。そこでKidsVentureでは講師認定制度を作り、松田氏のエッセンスを取り入れて教室を実施する講師を募ることになった。その講師認定制度をパスし、講師として活躍しているのがさくらインターネットの大竹氏と尾村氏、ビットスターの照井氏と戎屋氏だ。
「たまたま社内でKidsVentureの話を聞いて、サポートをしてくれないかと依頼されたのがきっかけです。それから松田さんが講師をされている教室を数回見学しました。子どもたちが楽しそうに取り組む姿を見て自分自身の心が穏やかになったのと、教えている松田さんがかっこよかったので、僕もやってみたいと思いました」(尾村氏)
大竹氏がKidsVentureに携わるようになったのも、尾村氏とほぼ同じタイミングだ。
「実際の教室を見学するまでは、学校の授業のようにプログラミングの文法を順番に説明するのだと思っていました。しかし、自分の手でコンピューターを動かす体験をしている子どもたちの様子がすごく生き生きしていて、そこに先生として加わりたい、と思って参加しました」(大竹氏)
ものが動く仕組みを理解することは、豊かな人生につながっていく
子どもたちにプログラミングを教える際に気を付けていることとして、講師の方々は声をそろえて「とにかく子どもたちに楽しんでもらうこと」と答える。
「まず僕自身が楽しんで、その姿を見て子どもたちにも楽しんでもらいたいです」(松田氏)
さらに戎屋氏は次のように語る。
「のびのびと楽しくやってほしいこともそうですが、何よりも『失敗しても大丈夫だよ』ということを伝えたいです。壊すことや、間違って入力することを怖がるお子さんもいるのですが『気にしなくていいよ』と言っています」(戎屋氏)
また、大竹氏や照井氏は、ものが動く仕組みを子どもたちに知ってもらいたいと考えている。
「コンピューターがどうやって仕事をしているのか、そのイメージを丁寧に伝えようと心がけています。学校の課題でも趣味でもいいんですけど、何かに取り組むときに、この仕事は人がやったほうがいいのか、コンピューターにやってもらったほうがいいのか見極められたほうが、この先豊かな人生を送ることができると思います」(大竹氏)
「プログラミングに限らず、ものが動く仕組みって大人になればある程度イメージできると思うんです。でも、小学生にはまだ難しいことも多いので、実際に自分が何かすることによって、ものが動く体験をしてもらうのが最初のきっかけなのかな、と。それを積み重ねることによって、逆に動かないものを見たときに、どうすれば動くのか考えられるようになるのではないかと。まずは成功体験が大事だと感じています」(照井氏)
それぞれの子どもが、やりたいことができるカリキュラムを模索
最後に講師として、今後KidsVentureで実現していきたいことを聞いた。
「初めてプログラミングを体験する子どもたちへ教えるノウハウはたまってきたので、そこからもっと深く学びたい子どもたちへ、どうすれば効果的に教えられるかということを研究していきたいです」(松田氏)
「効果的な教室を作るために、秋葉原のパーツ屋さんに出掛けていろいろな部品を買ってきては実験と研究を繰り返しています」(大竹氏)
KidsVentureがプログラミングに触れるきっかけを作りだしているのは前回の記事で紹介した通りだ。子どもたちに教室の感想を聞くと、はんだ付けが楽しかった子ども、プログラミングが楽しかった子どもに分かれるという。そこで、電子工作にも、プログラミングにも偏らない教室のあり方を模索している。
「子どもによって2回目以降にやりたいことは変わるため、何種類もコースを作ったほうがいいんだろうな、とは思っています。ただ、習得スピードはみんな違いますし、何から学べば楽しく思ってもらえるかということも個人差がありますよね。だから、どうすれば嫌いにならないで学べるのか、工夫して準備したいと思っています」(松田氏)