学校現場における探究学習の実情
現代社会は、VUCAの時代と呼ばれ変化の激しい社会と言われています。VUCAとは、Volatility(変動)、Uncertainty(不確実)、Complexity(複雑)、Ambiguity(あいまい)の頭文字をあわせた造語で、現代社会が困難でかつ予測不可能な時代に直面しているということを表す言葉です。
こうした社会において、自律して自らの意思で進路選択を行うほか、社会で生き抜くために必要な資質や能力を育成することへの重要性が高まっています。また、自己の在り方や生き方と学習への結びつきを通じて、教科学習への意欲を高める必要があるとも考えられています。
そこで、文部科学省は2022年に「総合的な探究の時間」を本格的に実施し、社会で求められる力=「生きる力」の育成を求めています。本連載では、「総合的な探究の時間」がなぜ今必要とされているのかということを主軸に、30校以上の高校訪問を通して分かったこと、現場の総合的な探究の時間に向けた実情をご紹介します。
今回は、学校現場で探究学習に対してどのような問題が発生しているのかを、高校への訪問やオンラインでの面談を通して感じた実情の中から2つ紹介したいと思います。
「総合的な探究の時間」での2つの問題とは?
(1)教科学習と切り離された探究学習
多くの高校では、教科学習と探究学習を完全に切り離して授業を行っている実情があります。その多くは、カリキュラムの作り方が不明確であることや、探究の時間で学校行事(修学旅行や文化祭準備等)に時間を割いているのが現状です。
また、学校ごとに指針がバラバラなため、どこの学校に在籍するかで教育格差につながっています。
(2)進路実績を上げることだけにとらわれており、探究学習の重要性が伝わっていない
現在、高等学校では進路実績を上げることへのプライオリティが高いのが現状です。こうした中、探究学習では国から現場へ指導方法やオペレーションが正確におりてきていないことにより、探究学習へのプライオリティをあげられていません。
そのため、学校側としては、従来のように「進路実績向上のため」を軸に総合的な探究の時間のカリキュラムを作成しているため、文部科学省の求める探究学習や生きる力とのギャップが生まれてしまっています。
本来あるべき探究学習の姿
私が高校訪問で感じた本来の探究学習との差に対して、「京都市立堀川高等学校」での探究学習は文部科学省が求める「生きる力」を育むことが可能なカリキュラムであることが、マナビラボ「堀川流「探究」のひみつを探る!」の記事から読み取れます。
堀川高等学校での探究学習のキーとなっているのは「生徒にいかに考えさせるか」ということです。あくまで生徒が主体なので、生徒にいかに考えさせるか、生徒自身が学びを広げ深めていけるか、という2点が重要になります。教員側であれば、生徒に対していかに問いかけるか、興味関心を引き出せるか、という2点が重要です。
生徒の探究心をくすぐり、生徒が本当に知りたいと思えることを発見するために多くの工夫が必要です。例えば、生徒は「知りたい軸」と「できる軸」の2つを持っている中で、生徒は「できる軸」を優先して探究テーマを決める傾向にあることを意識し、本当に探究したいと思っているのか、生徒が「知りたい軸」を優先できているかを意識するようにしているようです。
これらの探究学習を通じて、生徒が「学ぶとはどういうことか」を理解し、日々の教科学習に活かすことができるのが「堀川の学習スタイル」とのことです。
堀川高等学校では、探究学習に対して学校としての共通意識や理念・目標を定めたうえで、生徒主体の学びを促進することや、それらの探究学習を通して日々の学習への動機づけまで関連付けられており、これから始める「総合的な探究の時間」の先行事例の一つとなるものであるといえるでしょう。