編集部注
本記事中の「Adobe Spark」は、現在は「Adobe Creative Cloud Express」に改称されています(2022/3/4追記)。
はじめに
現在、文部科学省の主導する「GIGAスクール構想」では、「学習者1人1台」を目指したICT端末の配布が進められており、すでに多くの教育現場でノートPCやタブレットの導入が始まっている。GIGAスクール構想では、このICT端末を活用し、児童生徒の情報活用能力を育てることに加え、授業のスタイルも児童生徒が創造性を発揮し、主体的に深い学びを得られるものへと変革していくことが指針として挙げられている。
ICT端末をフルに活用し、より深い「学び」を得られる授業を実現するには、そのためにデザインされた「ツール」を授業に導入するのも良い方法の一つだ。アドビでは、GIGAスクール端末で、情報の編集、表現、制作といったクリエイティブな作業を含んだ授業を行う際に、効果的に利用できるビジュアルプレゼンテーション作成ツール「Adobe Spark」を提供している。教育機関での利用は無料だ。
「創造的問題解決能力」が2030年の社会で活躍するためのカギ
アドビは、「GIGAスクール以降」に求められる新たな「学び」のあり方についての講演と、その環境作りに生かせる「Adobe Spark」について紹介する「Adobe Spark×GIGAスクール端末活用セミナー」を、全国の教育委員会、指導主事、教育ICT担当者に向けて、2021年2月8日にオンラインで開催した。
セミナーのはじめに、アドビ デジタライゼーションマーケティング本部長の小池晴子氏が挨拶を行った。小池氏は、「GIGAスクール構想」の中で掲げられている「主体的・対話的で深い学びの視点からの授業改善」と「子どもたちの資質・能力が一層確実に育成できる環境の実現」という指針を取り上げ、これらの指針が「学びの変容のための状態目標」となっていることに言及した。
「これらの指針の根底にある、GIGAスクール構想の本質的な目的は、今、教育を受けている子どもたちが、2030年以降の社会で、生き生きと活躍できる力を身につけることだと理解している。アドビでは、これからの社会に欠かせないそうした力を『創造的問題解決能力』だと捉えている」(小池氏)
変化が激しい社会で必須とされる「創造的問題解決能力」は、「創意工夫する力」とも言い換えることができる。こうした能力の育成は、体験、経験、試行錯誤を通じて行え、学校の授業であれば、協働学習での情報の編集、表現、製作といった形で組み入れることができる。また、児童生徒が自分の考えを、ビジュアル表現なども交えつつ、他の人に「分かりやすく伝える」ことや、その内容に対する「フィードバック」を受けるといった過程も、重要な「学び」の一部になる。
「このような学びは、子どもたちの創造性を伸ばし、デジタルリテラシーの土台となる力を養うものになる。アドビでは、そうした環境を実現するためのクリエイティブツール『Adobe Spark』の全機能を、教育機関向けに無料で提供している。今日のセミナーで紹介する導入事例などを参考に、ぜひ創造的な学習環境を作っていくための方法の一つとして検討してほしい」(小池氏)
ICTによって激変した社会で求められるスキルをいかに育てるか
「Creativeな学びが授業を変える~Adobe Sparkが創る新たな学び」と題して講演を行ったのは、文部科学省ICT活用教育アドバイザー、情報通信総合研究所特別研究員の平井聡一郎氏だ。
平井氏は、ICTを活用した「新たな学び」が求められている背景を説明するにあたり、1900年代初頭のニューヨークの街並みの写真を示した。この写真の中で、大通りを行き交っているのは大半が「馬車」で、当時発売されたばかりの「自動車」は1台ほどしか見当たらない。次に示されたのは、同じニューヨークの大通りを「10年後」に撮影した写真だ。わずか10年の間に、「馬車」と「自動車」の比率は完全に逆転してしまっている。この2枚の写真から分かるのは「新たな技術が登場することで、社会の状況も大きく変化する」ということだ。
「世の中が変化すれば、社会で求められる能力、スキルも変わる。仕事の側面で言えば、馬車の御者は失業し、その代わりに自動車に関わる多くの新しい仕事が生まれた。ICTについても、同じことが起こっている。これからの社会では、マニュアルがあれば誰にでもできるような単純な仕事はロボットやAIが担当するものになっていく。今、学校で学んでいる子どもたちは、そうした時代に社会で、人間に求められているスキルを身につけていく必要がある」(平井氏)
ICTが高度化していく社会で求められる新たなスキルとして、平井氏は「コミュニケーション」「クリエイティビティ」「スペシャリティ」の3つを示した。コミュニケーションは、自分の考えを分かりやすく人に伝えるスキル。クリエイティビティは自分のイメージしたものを形にするスキル。スペシャリティは、その人固有の専門性が高い知識や技能を意味する。
平井氏は、これらのスキルが社会に求められるようになっていることを示す例として、慶應義塾大学湘南藤沢キャンパス(SFC)の2020年度実施AO入試において、志願者に「3分間のプレゼンテーションビデオ」の提出を求めていることを挙げた。ICTの発展と普及によって、こうした課題に志願者が独自に取り組める環境は、すでに世の中に整っている。平井氏は「新たな技術で生まれたツールは、人間の可能性を広げる可能性を持っている」とした。
授業で「インプット」「アウトプット」「フィードバック」のサイクルを回す
では、社会に求められるスキルが変化していく中、学校での授業のあり方はどのように変化していくべきなのだろうか。
平井氏は「教員が持っている知識を児童生徒にインプットし、試験でその再生や再現を求めていた『知識伝達型』の授業から、児童生徒が自ら考えてアウトプットを行う『探求型』の授業比率を高めていく必要がある」とした。
知識として「インプット」された情報から、自らの考えをまとめて発表する「アウトプット」に至る過程には、情報を再構成するための「思考」が求められる。アウトプットを前提とした授業には、児童生徒自身が思考することで、より大きな「学び」があるというわけだ。
現在のカリキュラムでは、インプット型の授業が7割、アウトプット型の授業が3割程度の比率になっていると平井氏は指摘する。今後はこの比率を逆転させ「インプット3:アウトプット7」の比率にまで持っていく必要があるのではないかという。
「そこへ、『フィードバック』のプロセスを加え、インプット、アウトプット、フィードバックのサイクルを繰り返していくことで、さらに充実した学びの環境を作り上げることができる。ICTの力でそれを実現していくことが、GIGAスクール時代の新しい学びの形だ」(平井氏)
「アウトプット型」の授業を実現する方法については、ICTにより大きく選択肢が広がっている。「テーマ学習」であれば、従来なら最終的な発表時に、模造紙にまとめるポスターや手書きのレポート作成が行われるケースが多かったが、現在ではデジタルプレゼンテーション、タブレットでの写真やビデオ撮影、Webによる情報発信なども可能になっている。平井氏は、そうした授業の展開をサポートするツールの一つとして「Adobe Spark」を挙げた。
「GIGAスクール構想で、学校にさまざまなタイプの情報端末が導入され、ようやく学習者1人1台の環境が実現しようとしている。その環境とクリエイティブなツールを十分に活用して、子どもたちの創造性を育てる、新しい学びの場を作っていくことにチャレンジしてほしい。こうした経験がないのは、みんな同じこと。まずは始めてみて、現場で子どもたちと一緒に学んでいきましょう」(平井氏)