巣ごもり社会情勢下でのグローバル教育の行方
2010年代から、日本の学校では国を挙げてグローバル教育と総称される取り組みが推進されています。スーパーグローバルハイスクール(SGH)、国際バカロレア「日本語DP(ディプロマ・プログラム)」、スーパーグローバル大学(SGU)、官民協働留学促進事業「トビタテ!留学JAPAN」などです。20年近く続くスーパーサイエンスハイスクール(SSH)も、国際性を身につけながら高度科学技術人材の育成を図るという取り組みです。筆者は長らくSSH全国発表会の助言指導ボランティアをしています。近年は英語でのポスター展示やプレゼンテーションも増え、海外研修報告や海外の学校参加も定番となりました。
そして2020年、世界は一気にニューノーマルへの模索を余儀なくされることとなりました。アンチ・グローバリズムの台頭と相まって、コロナ禍へ突入した結果、地球規模の巣ごもり社会化により、教育のあり方にも難題が突き付けられました。対面での授業、あるいは登校自体が制限され、また海外と行き来する研修・留学は当面不可能です。堅調に進んできた日本でのグローバル教育に関する取り組みにも大きな制約が生じてきました。
EdTechを活用したグローバル教育の変容と深化
そこで以前から進化の途上にあったEdTechの力がますます脚光を浴びています。オンライン授業と対面授業とのハイブリッド形式が、学校でも一気に当たり前となりました。一方で、どうしても他者との五感を通じたコミュニケーションが不足し、学校生活全般から学び取っていくような、いわば人間力である「ソフトスキル」養成の機会が乏しいという課題が浮き彫りになっています。
従来、グローバル教育分野は、プロジェクト型学習(PBL)の導入などの経験的学習と共に発展してきましたが、もとよりスキル型学習と連動して個の内省と実践を日常的に繰り返す深い学びへの道筋は限られているのが現状です。
こうした状況下で、学習支援ツールとしてのEdTech活用を超えて、日々の学びを補完しながら学習のあり方自体を、深い学びや世界標準の学びへと変容・深化させるためには何が必要なのでしょうか。
本稿では、元SGHで現ワールド・ワイド・ラーニング(WWL)コンソーシアム構築支援事業カリキュラム開発拠点校である宮崎県立宮崎大宮高等学校に焦点を当てながら考察していきます。
宮崎大宮高校におけるグローバル教育の取り組み
宮崎県立宮崎大宮高等学校は、1889年創立の県内屈指の伝統校として、政治・経済・学術・文化をはじめ多くの分野に多くの人材を輩出してきました。創立100年目にあたる1989年には国際化・情報化による社会の急速な変化を見据えた文科情報科を設置し、こうした実績の積み重ねが2015年のSGH指定へと受け継がれ、学校全体で探究学習に取り組んでいます。
そして、学校のスローガンに「オールみやざきで育てるグローバル・リーダー」を掲げ、郷土を起点にしながらも、グローバルな視野で地域社会や海外を含む多様な人々と協働しながら、創造的な解決方法を提案できる協創力(Co-Creation)を持つグローバルリーダーの育成が推進されました。国内大学(慶應義塾大学SFC、一橋ビジネススクール、東京大学i.school)、地域産学官金(宮崎商工会議所、宮崎県庁、宮崎大学、宮崎銀行を中心としたオールみやざきネットワーク)との連携や、海外高校・大学研修(シンガポール、ベトナム、台湾)を駆使して、創造力と協働力を養う課題研究を展開してきました。 2020年度からは新たに、全国で12校しか指定がないWWL拠点校の1つとして、イノベーティブなグローバル人材育成に向けたさらなる探究が続いています。
プロジェクトを推進する研修部主任の猪股秀一先生は次のように話します。
「SGHでは地域トップ校として世界に通じる地域発リーダーシップ人材の育成に努めました。WWL拠点校では、多様な連携校・機関とともにSDGs実現に向けた国際協働のプロジェクト、イノベーティブな課題研究の研究開発などを含めたカリキュラム開発と実践に挑戦しています。これらの取り組みを通して、自分たちと地域と世界を結びつけて、グローバルな課題を発見・設定し、多様な人々と協働して社会に変化を起こすイノベーティブな人材育成を目指しています。
そのためには主体的に、より多様で深い学びができる環境の整備が必要です。また海外連携校との協働プログラムや短期留学など、新しいグローバルなプログラムの開発も目指しています」(猪股先生)
同校のWWL拠点校としてのテーマは、「食」を通じてゆたかな世界を協創するイノベーターの育成です。その資質・能力には、次の3つが挙げられています。「(1)イノベーティブな課題解決策を構想・設計する能力」「(2)高度かつ学際的な知識にもとづき、課題の理解や解決策を提案する能力」「(3)多様な人々と課題解決に向けて協働する能力」です。
これらを育成するため、同校はすべてのプログラムの開発を校内で進めていましたが、その過程で、英国の名門校・イートン校の教育哲学をオンラインで取り入れられるプログラム「EtonX」と出会い、導入に至りました。「本校が理想とする学びの環境との共通性が多く、外部のプログラムであってもこれなら協働しうるものだと思いました」と語る猪股先生。どのような学びが実現するのでしょうか。