学生「1人1台」貸与の法政大学情報科学部
現在、全国の大学で行われているオンライン授業。学生ごとの環境格差、出席や成績管理といった課題も多く、withコロナを見据えて対面授業との併用をどのように行っていくかの模索が続けられている。
今回のセミナーに登壇したのは、法政大学 情報科学部 教授の廣津登志夫氏と、東北学院大学 文学部 教授・学長特別補佐の稲垣忠氏の2名。それぞれの大学で行っているオンライン授業の事例をもとに、ICT環境から運用方法、今後の課題を語った。
最初に法政大学の廣津氏が、同大学におけるオンライン授業の概要を紹介した。法政大学では本年度からオンライン授業を全面的に立ち上げ、現在は講義の90%を「Zoom」を利用した双方向型で行っている。
情報科学部は2000年4月に設立された新しい学部で、コンピュータ科学科とディジタルメディア学科、大学院の三者がほぼ一体で連携運営されている。卒業までの4年間、全学部生にノートPCを貸与しており、教育支援環境としては、2013年からLMS(Learning Management System)を運用し、学生に向けたアンケート調査や就活支援などにも活用してきた。
情報科学部は、2011年から2013年にかけて文部科学省による「質の高い大学教育推進プログラム(以下、教育GP)」に採択され、「高度情報処理技術者を目指す学士力の育成」の取り組みとして、学習の定着を目指すための試験「MT」を期中に行っていた。MT(Minimum Requirement/Mastery Test)とは、 1つの科目が前半3分の2程度終わった時点で、8~9割以上の正解を要求する基礎的な内容のテストのこと。このテストでは基礎力を定着させるために、テスト終了後すぐに結果を出して後半の授業にフィードバックする必要があった。当初は紙のテストで行っていたが、教員側の負荷が高くなったため、オンラインでのテストに移行した経緯がある。
廣津氏は、「もともとハードウェア開発やプログラミングなど、情報を学ぶ道具としてPCを使っており、講義の多くはPowerPointをなどのスライドを活用し、LMSで課題の配付を行っていた。さらに2013年からMTをオンライン化していたため、ICT活用の敷居は低かった」と、情報科学部の特性を語った。一方で、「PCがあると学生の集中力が低下する傾向があったため、一部の講義ではあえて使用禁止にするなど、コントロールしながら使用していた」という。
Cisco WebexとZoomを全学で導入
もともとICT環境の整備が整っていた情報科学部ではあったが、全面的にオンライン授業となったのは本年度が初めて。まずは廣津氏を含む学部の有志メンバーが集まり、双方向授業を実現するオンラインツールの検討を始めた。もっとも重視されたのは学生の安全面で、さらには運用のしやすさや機能、技術といった面も考慮した。
「『URLだけでアクセスできるのは困る』『少人数ならまだしも100人規模の講義で全員に参加者リストが見えていいのか』などの問題や、オンラインツール特有の画面共有機能やカメラ機能をいかにコントロールするかといった点も検討した」と、廣津氏は話す。
双方向オンライン講義支援体制として、「Cisco Webex」とZoomを全学で導入し、すべての学生と教職員が時間制約なく自由に活用できるよう供給を行った。「その背景には、学生にフルに供給することで、本学の田中優子総長が語ったように『学生同士のコミュニケーションをはかってほしい』という思いもあった」と、廣津氏は話す。結果として、週に7000~8000セッションの利用があり、深夜でも学生相互の連絡ツールとして有効活用されるようになったという。