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「最高のオンライン授業のつくり方」とは? 離れた世界をつなぐコツ【慶應義塾大学 井庭崇教授によるパターン・ランゲージ】

「最高のオンライン授業のつくり方」オンライン・セミナー レポート【前編】

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2021/09/13 07:00

 コロナ禍のもと、あらゆる学校でオンライン授業が行われ、授業の組み立て・運用に試行錯誤した方も多いだろう。いまだ苦戦している人も多い一方、オンライン授業のメリットも明らかになりつつあり、うまく活用する方法が研究・模索されている。慶應義塾大学SFC(湘南藤沢キャンパス)総合政策学部の井庭崇教授もその1人。研究室のプロジェクト・メンバーである学生と、数十人の教員にインタビューを行うとともに、自らの試行錯誤・試みから得られた知見やコツを交え、パターン・ランゲージのかたちにまとめた。今年春にオンラインで行われた成果発表の内容について、前後編にわたって紹介する。前編では「離れた世界をつなぐ」ためのパターンを紹介する。

慶應義塾大学 総合政策学部 井庭崇教授とプロジェクト・メンバー
慶應義塾大学 総合政策学部 井庭崇教授とプロジェクト・メンバー

「パターン・ランゲージ」の手法でオンライン授業のコツを紹介!

 セミナーは最初、プレゼンテーションソフトのKeynoteなどの画面シェアは、フルスクリーンのスライドショーではなく、作業画面をうまく使うといいという話から始まった。前後のスライドがナビゲーション欄に表示されるため、流れを踏まえて話しやすい上、マウスカーソルが見えるため、Zoomの操作やリアルタイムでの資料上の追記や修正も行いやすくなる。ただし、フルスクリーン表示の場合に比べてスライド部分が小さくなるため、上部のツールバーなどを消してなるべく大きく表示することが重要だという。そんな「ちょっとしたTips」で始まったことで、すぐにでも役立ちそうな内容に期待が膨らむスタートとなった。

 井庭教授は「学びの実践・活動の研究において、2020年に行った試行錯誤や試みで得た知見やコツ、考え方などを取りまとめ、オンライン授業づくりを支援したいと考えた」とセミナーの目的を述べ、「ぜひ、気になったもの、いいなと思ったものがあったら試してみてほしい」と語った。

 研究の素材となっているのは、慶應義塾大学SFCの大学教員13名と、小学校・中学校・高校の教員を合わせた計25名へのインタビューだ。得られた知見は「パターン・ランゲージ」という手法でまとめられている。

 パターン・ランゲージとは、良い実践事例の背後にある「本質的な型」(パターン)を言語(ランゲージ)化して体系化し、共通言語として利用できるようにしたものだ。一つひとつのパターンには、良い結果を生むためには「何をすることが大切か」(What)、「それをどうやるのか」(How)、「それがなぜ大切なのか」(Why)という3つのエッセンスが含まれている。そして、そのエッセンスをもとに「状況」「問題」「解決」「結果」の4項目からなる文章として記述し、それに名前(パターン名)をつける。

 このとき、具体的過ぎると実践者が自分なりに考える余地がなくなり、思考や主体性を奪ってしまうが、逆に抽象的過ぎると実践のイメージが持ちにくい。そのため、「具体的と抽象的の間の『中空』レベル」で表現することがコツだという。このようなちょうどいい抽象レベルにまとめた言葉を、井庭教授は「中空の言葉」と呼んでいる。

パターン・ランゲージは、良質な結果を繰り返し生み出していくための実践の言語 パターン・ランゲージは、良質な結果を繰り返し生み出していくための実践の言語
パターン・ランゲージは、良質な結果を繰り返し生み出していくための実践の言語

 こうしたパターン・ランゲージの形式によって、オンライン授業のつくり方をまとめたのが「最高のオンライン授業のつくり方:新しい学びの場づくりのパターン・ランゲージ」なのだ。このようなパターン・ランゲージを用いると、(1)パターンをヒントに実践することができ、(2) パターン名を用いた対話や学び合い、協働活動を行うことができ、また、(3)パターンを「認識のメガネ」として、実践の本質を認識することができるようになる。「最高のオンライン授業のつくり方:新しい学びの場づくりのパターン・ランゲージ」の全体像は、次の図のようになっている。

最高のオンライン授業のつくり方:新しい学びの場づくりのパターン・ランゲージ
最高のオンライン授業のつくり方:新しい学びの場づくりのパターン・ランゲージ

 このパターン・ランゲージは、井庭教授と研究室の学生でプロジェクト・メンバーである、林聖夏さん、柴田爽水さん、井上絵里加さん、足立紗英さんが、2020年度後半に毎日オンラインで集まって作業・議論したり、Slack上で非同期でもやりとりをしたりしながら作成したものだ。今回のセミナーの進行や発表でも、プロジェクトの学生たちが活躍していた。セミナーの途中で、参加者同士3~4名ほどのブレイクアウトルームに分かれて感想をおしゃべりする時間もあり、このパターン・ランゲージの内容を体現するようなセミナーだった。

 これまで20年近く大学教育に携わってきた井庭教授だが、授業の多くは、学生たちと空間をともにする、対話やワークショップ、グループワークを多く取り入れた「クリエイティブ・ラーニング」(つくることによる学び)型の教育を行ってきた。そのため、昨年コロナ禍でオンライン授業に切り替えなければならないとなったときには「それらの授業をどのように実施すればいいのか、工夫しなければならなかった」と回想する。

 その後、春学期の授業を試行錯誤しながら組み立てた結果、学生からは「オンラインでも人を感じることができた」「オンラインの可能性を感じた」といった高評価を得た。さらに「リアルとは違うけれど、オンラインだからこそできることもある」として、新型コロナウイルス終息後もオンライン授業の続行を希望する学生は89%にも上ったという。さらに井庭教授の授業は、キャンパスの「オンライン授業 Good Practices」にも選ばれ、ホームページで紹介された。

 昨年秋には春学期に試したオンライン授業の方法をシェアしたところ、大きな注目を集めるようになり、2020年9月に本プロジェクトを立ち上げ、ほかの教員のオンライン授業の知見・工夫も参照・反映しながら、今回のパターン・ランゲージとして取りまとめた。プロジェクトは現在も進行中で、内容・表現を磨いたフルバージョンを今後公開する予定だ。

 それでは個々のパターンを取り上げながら、セミナーの内容を紹介していこう。


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著者プロフィール

  • 伊藤 真美(イトウ マミ)

    エディター&ライター。児童書、雑誌や書籍、企業出版物、PRやプロモーションツールの制作などを経て独立。ライティング、コンテンツディレクションの他、広報PR・マーケティングのプランニングも行なう。

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