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エンジニアの校長、S高等学校の吉村総一郎氏が目指すものとは?「ソフトウェアで人を幸せに」のその先へ!

EdTechビジョナリーインタビュー 第13回

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2020/12/11 07:00

 2016年4月、オンライン教育を軸にした「ネットの高校」として開校し、多方面から注目を集めてきた角川ドワンゴ学園 N高等学校(以下、N高)。2021年4月には2校目となる「S高等学校」(設置認可申請中/以下、S高)が開校し、初代校長にはN高の副校長を務める吉村総一郎氏が着任する。エンジニアとしてN高の創設に関わり、現在も「現役のエンジニア」と語る吉村氏が目指す「次世代の教育のあり方」とはどのようなものか、これまでの経緯や今後の展望と併せてお話しいただいた。

逆風の中で設立、オンラインで日本最高峰のプログラミング教育を

角川ドワンゴ学園 N高等学校 副校長/(2021年度より)S高等学校 校長 吉村総一郎氏
角川ドワンゴ学園 N高等学校 副校長/(2021年度より)S高等学校 校長 吉村総一郎氏

――先日、角川ドワンゴ学園2つ目の「ネットの高校」であるS高の開校が発表されました。N高の設立から5年が経過し、環境の変化も実感されているように思われます。これまでを振り返っていかがでしょうか。

 N高の設立が2016年なので、少々隔世の感がありますね……。かつて「ネットの高校を立ち上げます」と宣言したときには、「オンラインで高校教育ができるわけがない」と散々叩かれ、「テクノロジーで教育は変わらない」とも言われました。

 しかし私は「オンライン教育によって救われる子どもはいるはずだ、いやむしろ効率化することで、新しく、より良い学びの選択肢ができるはずだ」と確信していました。常に熱い信念を持って取り組み、特にプログラミングでは日本一の教育を行っている高校になったのではないかと誇らしく思っています。

 実際に、技術情報共有サービス「Qiita」の2018年のアドベントカレンダー(注:毎年12月に行われる記事投稿イベント)のランキングは、「いいね!」の取得数、投稿数、閲覧数ともに学校部門の中で最も多いですし、プログラミングによるインターンやアルバイト、就職についてもかなりの実績があると思っています。さらに近年注目される小中高生クリエイター支援プログラム「未踏ジュニア」では通常1校1チームが採択されるだけでもすごいことなのに、2020年のN高の採択者は3チームと多いんです。

 2021年度のN高・S高への志願者数は昨年同時期の3倍にもなり、注目度が高まっている実感があります。しかし、それは本校への期待だけでなく、既存の学校が自分に合わないと感じる子どもたちが増えていることの裏返しでもあると思っています。インターネットやスマートフォンが普及し、デジタル化により社会が大きく変わっています。この20年間で社会と学校のギャップが広がっている部分があるのではないでしょうか。

2021年4月に開校する「S高等学校」のキャンパス(茨城県つくば市)
2021年4月に開校する「S高等学校」のキャンパス(茨城県つくば市)

 今年はコロナ禍により、にわかにオンラインで授業をせざるを得なくなって、「実はオンラインでもできるんじゃないか?」と感じる方が増えているのでしょう。その流れで本校が自然と注目されるようになってきました。

「ソフトウェアで人を幸せにすること」の延長に現在がある

――エンジニア出身で教育者への転身というのは、EdTechの世界でも珍しいのではないでしょうか。なぜ、教育の世界に関わられるようになったのか。また、どのようなご決断があったのか、お聞かせいただけますか。

 転身と言うより、私自身は今でも「現役のソフトウェアエンジニア」だと思っています。ですが実は、最初から「ソフトウェアエンジニアになる!」という確固たる意思があったわけではなく、大学~大学院で生物物理化学を学ぶ中で画像分析プログラムを作成する必要が生じて興味を持ったからなんです。

 研究室の友人が製薬や精密機器のメーカーに就職する一方で、私はプログラミングを続けたくてメーカー系のシステムコンサルティング会社に入社しました。そこでソフトウェアエンジニアとしてのキャリアをスタートしたのですが、2年後に会社が倒産してしまい……。その後、2012年にドワンゴに入社しました。以前からニコニコ動画でゲーム実況をしていたこともあってドワンゴには親しみがあり、最先端のテクノロジー会社として憧れがありました。

 入社後は「ニコニコ生放送」開発チームのリーダーとしてモダンなWeb技術に切り替えるなど、さまざまな改革や新機能開発などに携わりました。社内のプログラミング研修にも関わっていたのですが、ある日、理事の川上量生に呼ばれ「N高のプログラミング講師をやってくれ」と依頼されたんです。その際のオーダーが「中学卒業者がプロのエンジニアとして仕事ができるようなカリキュラムや体制、教材を整えてほしい」というものでした。

 つくりながら学ぶことをコンセプトとした「通学プログラミングコース」のカリキュラム作成をはじめ、学習アプリ「N予備校」のプログラミング教材についてもScala(注:プログラミング言語のひとつ)やAndroidアプリ開発などはすべて自分で執筆しましたし、iOSアプリ開発や機械学習分野も監修で関わっています。さらに、コンピューター部やコミュニケーションツールであるSlackの校内マネジメントも担当し、講師をしながらあらゆる活動に関わってきました。そのあたりは教科や手法は違えど、高校の先生の仕事としての範囲内のことを行っていたのかもしれません。

 それに加えて私の場合は、学校内のシステムの構築・改善、ITの活用やセキュリティなどについて「IT戦略部長」として取り組み、実際にコードも書いてきました。ほかにもiPadの導入など、ITが関わることすべてにおいて中心的な役割を果たしてきたことが評価されたのだと思います。

 だから、副校長や校長になったからからといって、決して「教育者に転身」ではないんです。ソフトウェアエンジニアとして、実現させたいことに粛々と取り組んでいたら、責任の範囲が広がってきたというところですね。従来の学校の校長先生に求められるものとは異なり、「ネットを駆使した未来の学校を実現すること」がN高の副校長・S高の校長としての自分に期待されていると受け止めています。


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著者プロフィール

  • 伊藤 真美(イトウ マミ)

    エディター&ライター。児童書、雑誌や書籍、企業出版物、PRやプロモーションツールの制作などを経て独立。ライティング、コンテンツディレクションの他、広報PR・マーケティングのプランニングも行なう。

  • 森山 咲(編集部)(モリヤマ サキ)

    EdTechZine編集部/CodeZine編集部所属。映像系美大生、組み込み系ソフトウェアエンジニアを経て2016年10月に翔泳社へ入社。好きな色は青色全般。

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