本連載の第1回は、世の中の「消費されるモノではなく、体験が欲しい」というニーズの変化を敏感にとらえ、今までにない新しい価値を提供することに成功したテックイノベーターたちの素質や幼少期の過ごし方について分析しました。第2回・第3回では、「Global Teacher Prize 2019」でTop10入りされた立命館小学校の正頭教諭との対談を通し、今後の教育の在り方について、教育者と経営者という異なる立場から論じました。そして第4回となる今回は、これまでの総括として改めて、2030年に活躍できる人物像や幼児教育の在り方について検討したいと思います。
この連載開始当初は、まだ想定していませんでしたが、COVID-19により世の中は大きく変わり、特に教育については、子ども、保護者、そして教育機関といった立場でそれぞれが大きなインパクトがありました。ビジネス的な側面で言えば、EdTech市場の急拡大が予測されていたり、その背景として政府がEdTech関連予算を追加したりと、投資家からの注目も高まっています(図表1)。
2030年に活躍できる人物像と教育について検討するにあたり、今回のCOVID-19で変わってしまったこと、そしてそれによりもたらされた価値観の変化について言及しながら検討します。
COVID-19で変わった、教育に対する見方の変化
【1】学校の在り方
COVID-19により、学校をはじめ、学習塾などが一斉に休校を余儀なくされてしまった結果、これまでの「教育は外で学ぶもの」といった価値観は大きく変わりました。先生がいなくても、また「学校という箱」がなくとも、自宅で優れた教育コンテンツがオンラインで提供されることによって学びを自宅でも吸収することができる状況となり、改めて学校の価値について考えさせられた保護者、先生も多いと思います。
また、学校閉鎖により入学時期が遅れてしまったり、受験を控えた子どもたちが綿密な受験カリキュラムに沿った学習ができなくなってしまったりするなど、カリキュラムに沿った勉強が機能しなくなった際、勉強の目標をどこに置けばいいか考えさせられた人たちも少なくないのではないかと想像されます。
一方、家庭では保護者たちが自分の子どもたちが普段取り組んでいる教育の内容を自宅学習によって知ったり、今まで学校に任せっきりだった教育を、質はともかく無料で気軽に視聴できるYouTubeなどから面白い教育コンテンツを保護者自身が探してきて子どもに提供したりといったように、保護者の子どもの教育への参画度合いも高まったのではないかと思います。
つまり、これまでの保護者、子ども、学校の立ち位置におけるバランスが崩れてしまった今、子どもを中心とした新たな教育の位置づけをそれぞれの立場で考えることが求められたと言えるでしょう。
【2】学校・保護者・子どものテクノロジーへの受容性
COVID-19前は、幼い子どもの日常生活において、スマホやタブレットを見せることについて、ネガティブに捉える人たちは少なくありませんでした。Appleの創業者であるスティーブ・ジョブズさえも、自分の子どもにiPhoneやiPadを使用させなかった、という話は有名です。
ところが、COVID-19は学校、保護者、子どもへのパソコンをはじめとするテクノロジーの受容性を一気に高めました。教育の世界だけではなく、ビジネスの世界でも、今回の緊急事態宣言下での「#Stay Home」によりデジタル化を加速させたという指摘が一般的となってきています。
学校の授業で学ぶためには、プラットフォームやコンテンツを導入できる環境が前提となることも多く、もはや「教育に必要か否か」と迷っている間もなく、テクノロジーが一気に浸透しました。学校はオンライン授業への対応を急ピッチで進め、保護者はパソコンやスマホ・タブレットを準備し、子どもは不慣れな環境の中、先生の部屋や友人の部屋なども見える状況下で授業や講義を聴く、という変化を受け入れざるを得ない状況が発生しました。
その結果、学校・保護者・子どもたちは大変な混乱や不安を抱えることとなりました。OECDの“School Education During COVID-19 Were Teachers and Students Ready?(コロナ環境下の学校教育―先生・生徒は準備できているか―)”(※出典1)というレポートでは、単に「パソコンやタブレット、インターネット環境が整っているか」という観点だけではなく、オンライン・リモート学習で求められる生徒の自己学習意識に関するグローバル調査(図表2)を提示しています。
たとえば、自己学習意識に関する設問の中では、いわゆるアクティブ・ラーニングに関連する設問があり、「自分自身の信念がより学習への意欲を高めると回答した生徒の割合」や「学習を何らかの方法で自分自身で管理していると回答した生徒の割合」がOECD加盟国中最下位となっています。
一方で、「学習に一生懸命取り組む場所=学校」と捉えている生徒も多いことが示されており、今回のCOVID-19によりそうした学ぶ場所(学校)が閉ざされ、自身で目標を定めて、学習を計画・管理することが弱い日本の子どもたちは、世界の子どもたちに比しても、そのインパクトは大きかったと言えるでしょう。
こうした調査から見れば、以前から特異とされてきた日本の教育環境が、COVID-19によって急激に変革を強いられ、PCやネットワークなどのハード面で「これまでの授業」をそのままリモート環境に移しかえるだけではなく、また、先生にそのすべての負担を強いるのでもなく、先生、子ども、保護者、それぞれが「ニューノーマル」に向けて取り組んでいかなければいけない状況であることがわかります。