プロジェクター活用時に気をつけたい「3つのポイント」
――浅見さんがICT機器やプロジェクターを活用する際に気をつけていることは何でしょうか。
対面の授業では3つあります。
1点目は「文字の大きさ」です。どの教室でも、最後列の生徒まで見えることを必ず意識しています。2つ目が「光」です。教室の場所によって、西日が差し込み見えづらくなることもあるため、遮光カーテンや暗幕の使い方が変わってきます。そういった意味での環境の整備は重要です。3つ目が、一番気をつけている「色」です。以前、色覚に特性を持つ生徒に「浅見先生、いつも黄色と言っているけど、僕には黄色に見えません」と言われたことがありました。それ以降、色を調整して、誰にでも色が区別できる表現を心がけています。
――浅見さんの授業実践をうかがうと、かなり生徒からヒアリングしてる印象を受けます。
私自身もパソコンやスマホが好きなので、ICT活用の授業づくりを楽しんでいます。ですが、実際に受けている生徒が楽しくなかったら、独りよがりの授業になってしまいますよね。生徒のニーズがどこにあるかといった点は大事にしているので、時には恥ずかしいこともありますが、聞いています(笑)。
――暗幕や色、距離などの注意点がありましたが、予行演習や場所を想定した検証は重要だと感じました。
はい、慣れないうちは毎日のように検証していました。授業のたびに生徒にヒアリングして、「この教室はカーテンをこの位置まで閉めないといけない」とか「黒板の色が微妙に違うから投影資料の背景色も変えよう」といったことは、実際にやってみたり、生徒に聞いたりしないとわからないですからね。
またPowerPointの操作も、常に教室の前で操作するだけではなく、一番後ろまで移動して話してみるなど、どの手法が最も効果的で生徒にわかりやすいか、試行錯誤を繰り返しています。
――たくさんの活用事例の中で、特に生徒の方々に好評だったのはどのような授業ですか。
やはり映像を使った授業ですね。漢文や古文の授業で説明が終わって、その内容を改めてアニメーションで見た際に、「本文だけではよくわからなかったけれど、アニメーションなら情報や知識が相互にからみあって理解できた」と生徒が話していました。
プロジェクターを活用すれば、教室移動の必要もなく、PowerPointで授業をしながら、さらに映像や音声も一緒に味わうことができます。生徒からも「教室移動なく授業を受けることができて良かった」と好評でした。
対話的な学びを実践するグループワークで威力を発揮
――「主体的・対話的で深い学び」の重要性が高まる中、グループ学習が改めて注目されています。学校現場において、これまでグループ学習はアナログなものが多かったのでしょうか。
アナログですね。グループで集まって紙に書いたものを先生が集めてパソコンで入力したりスキャンしたりしたあとに印刷し、配布していました。ですが、ここ数年で変わりつつあり、生徒がその場で発表したものに対して、全員で共有できる状況が実現できています。
授業中に「あ、この問題ってこうなんだ!」といった「アハ!体験」とでも言うべきひらめきを感じた際、教員が適切な言葉や助言を与えることができると、その生徒は飛躍的に伸びます。でも、問題を持ち帰って1週間後の授業で振り返るとなると、生徒から熱量がなくなっていることも多いのです。ですから、ICTの力でいかにタイムラグを減らすかといったことは重要です。
――模造紙を床に置いていた時代から、これからはプロジェクターを見て皆で意見を出し合いながら資料を作る時代に変わりそうですね。ちなみに、模造紙での発表と、プロジェクターを使った発表では、どのような変化がありましたか。
模造紙による発表との比較では、情報量が圧倒的に違います。模造紙はがんばっても2枚ほどの量で、書いたものをそのまま説明する形です。一方、PowerPointなどのICTを使えば、たくさんの情報を短時間でアウトプットすることが可能です。
さらに任意の箇所へ簡単に戻れるし、補足資料としてインターネットからの情報をその場で引用することもできます。たとえば、発表中に疑問が発生しても、すぐに参照して対応できるので、「それには答えられません」「準備できません」といったことが減っています。「僕たちもわからないので、ちょっと調べてみますか」と、即時性があることは大きなメリットです。
――プロジェクターの活用で先生の負担は減りましたか?
負担は減っていると思います。ただ、これまでICTを活用していない先生は「授業中の負担が減るのはわかるけど、準備の負担は増えそう」とおっしゃることが多いです。使い方を覚えるだけではなく、事前に教材や資料を作る必要もありますから。
私はPowerPointで資料を作っていますが、文字の大きさや色を工夫したり、アニメーションをつけたりしていると、それだけで何時間もかかってしまいます。「それなら手書きで毎日板書したほうがいい」という考えの方もいらっしゃいます。
――そういった先生に、ICTを活用するメリットをどう伝えればいいのでしょうか。
先生によってさまざまな授業スタイルがあると思うので、手書きにこだわりがあれば、それもいいと思います。
でも、「ICTを活用したいけど、ハードルが高くてできない」と考える先生に対しては、私の作った資料をデータでお渡しして、まずはそれを使って授業していただきます。そこで「あ、こんな風に活用できるんだ」と知っていただければと思っています。
――ゼロから資料やテンプレートを作るのは大変だと思うのですが、ある程度慣れてきたら、自分のスタイルが確立されてきて、資料づくりの作業時間も将来的には短縮できそうですね。
その通りです! だから、まず第一歩を踏み出せれば、あとはもう流れでできるようになると思います。最初のハードルをクリアできたら、みんなが使えるようになると考えています。
――負担という観点では、生徒からの反応はどうでしょうか。楽になればなるほど、生徒としてはありがたいのかなと思います。
生徒は「先生、全部ICTでやったほうがいいよ、楽だし」と言っていますね。私は、「国語の授業では使い過ぎてはいけない、文字を手書きで書かせたい」という思いもあるので、ICTと手書きのハイブリッド型で進めています。
一方で、授業外のアンケートなどではスマホの使用を勧めることも多いです。以前、修学旅行の感想集を作成した際はGoogle フォームを使って、「1人400文字」で全クラスの文章を集めました。誤字脱字もありますが、360人分を短時間で集めることができたのは、やはりICTの力だと思います。