心理学メソッドやEdTechツールを活用し、完全個別指導を実現
――エヌラボスタディを開業するに至った経緯や目的などについてお聞かせください。
もともと私自身は、大手学習塾で指導しており、生徒成績部門で1位を獲得し続けるなど、実績や経験を積んでいる自信がありました。しかし、そこでのカリキュラムでは受験やテストのための一時的な勉強を教えているだけに感じられて、もっと人間味のある教育がしたいと考えるようになりまして……。一生涯を通じて役に立つ勉強法や、子どもたち自身がワクワクしながら勝手に勉強したくなる学びなど、「人生で本当に役立つ学び」のお手伝いをしたかったんです。それで5年前に起業し、エヌラボスタディを立ち上げました。
塾の特徴としては個別指導に特化していることですが、単に紙の教科書や問題集だけでなく、デジタル教材を活用したり、モチベーションアップのための意識付けをしたり、指導は全方位に及びます。メソッドとしては、「NLP(神経言語プログラミング)」という実践心理学に基づく手法を取り入れています。その中でも特に大切にしているのが「五感の活用」と「言葉の重視」です。
同じ経験をしていても、感想は人それぞれですよね。例えば沖縄旅行について、ある人は「暑くてビールがおいしかった」と言い、またある人は「海がきれいだったよね」と言う。体感温度や視覚的な印象など、それぞれ異なる「沖縄」を捉えており、五感から入ってくる情報が違います。
つまり、学習においてもその生徒の得意な五感を刺激することで、より学ぶことへのワクワク感が強まり、興味を持ってもらえると考えて指導しています。
――どの五感が優位なのか、生徒たちをどうやって見分けるのですか。
方法論はさまざまあり、一概には言えないのですが、「目線を観察すること」も方法の1つです。それによって視覚、聴覚、体感などのどれが優位なのかがだいたいわかります。そして、視覚が優位な生徒には、板書を多めにとったり、YouTubeなどの動画を用いたり、といった視覚刺激の多い学び方を優先します。また聴覚が優位な生徒の場合は、発声する言葉での丁寧な解説を心がけ、音声を流しっぱなしで学ぶ方法などを導入しています。
おそらくこれまでの集団学習は、板書や教科書などの“ビジュアル”と、テストなど“書く行為”が得意な子どもが有利だったのだと思います。そして、たとえ聴覚や体感優位の生徒の適切な学び方がわかっても、一度に教える人数が多すぎて、すべての生徒それぞれにふさわしい学びを提供するのはかなりハードルが高いものでした。一人ひとりに家庭教師がつくようなものですからね。
しかし、テクノロジーの進化によって、さまざまなツールがEdTechとして多数登場し、それまでできなかった個別対応も柔軟に実現できるようになりつつあります。EdTechツールが個別指導に有効だと気づいた時、もう使わない手はないでしょう。
自立学習にEdTechツールをフル活用、大切なのは学び方より“理解度”
――具体的には、学びの場面ではどのようなEdTechツールを活用されているのでしょうか。
ありとあらゆるものを試しています。先ほどお話したYouTubeなどの動画アプリはよく利用しますね。あと、すごく内容が充実していて、辞書的に使っているのが「学びエイド」です。ここについては、生徒それぞれにアカウントをもたせており、好きなだけ見られるようにしています。
実際に利用してみて気づいたのが、集団授業でも個別指導でも、そして動画であっても、手段がなんであれ、「教える内容は同じだ」ということです。つまり、大切なのは教える方法ではなくて、理解できたかどうか、なんですよね。動画で理解できればいいのですが、理解できない時に改めて講師がその生徒に合った方法で解説したり、振り返り問題をしたり、フォローが必要です。個別指導ではそこに時間を割くのが大切だと考えています。
そもそもリアルな授業は準備も必要ですし、場所や時間などの制約も大きいです。さらに1講義80分としたとき、なんと板書に20分以上も費やしていることがわかりました。さらにいえば、どんなに熱意あるすばらしい授業でも、生徒にやる気がなければ耳に入りません。それなら少し雑談して、受け入れ体制が整ったところで教えればいい。つまり、授業の質以上に、生徒の状態に合わせてタイムリーに教えることが大切であり、それを見極めて提供できるのが当塾の講師のスキルというわけです。
そして、体感重視の生徒に効果があったのが、「Drop Flip(ドロップフリップ)」です。動く玉落としゲームのようなものなのですが、実際に手を動かしてみることで、空間の認識力が刺激され、抽象的な情報が結びつくんですね。ビジュアル重視の生徒にとっても動きが加わることで、かなり理解が進みます。
これからの学びで大切な、答えのないものに対して仮説を立てて手を動かしながら物事を解決していくスタイルのトレーニングになります。放物線の物理的なイメージも捉えられますし、半分遊びながら勉強ができるものとしても魅力的なツールだと思います。勉強にやる気が無いときのスターターとしても使えますしね。他にも「Think!Think!(シンクシンク)」や「桃太郎電鉄」などゲーム的なものはいろいろと使っています。
――こうしたEdTechツールは、対象年齢はあまり問わないのでしょうか。
エヌラボスタディでは、「通いたい」という生徒に合わせているうちに小学校4年生から大学浪人生まで幅広い生徒に通っていただけるようになりました。それも個別指導ならではといえるでしょう。ですから、こうしたEdTechツールについても「この学年にはこれ」といった縛りはまったくありません。一人ひとりそれぞれのタイプや理解度を見分けて、効果がありそうなものを取り入れていくことが大切です。
ただ国が定めた学習指導要領が学年に応じて設定されているので、それに即した教材は必然的に学年によって異なりますよね。かなり膨大な量になるので、その教材を効率的に管理し、探しやすくするためにもEdTechツールを活用しています。
具体的には埼玉県の松明塾さんの開発した独自システム「EZlink」に、動画を含めた教材をすべて登録し、学年や科目などで階層化して一覧にしています。塾ではiPadが1人1台使えるようになっており、これを活用して生徒が自分で必要な部分を取り出して使えるという仕組みです。
はじめは、YouTubeの動画はYouTubeを開いて探してみればいいと思っていたのですが、小中学生はおすすめ動画を見て遊んでしまうんですよね(笑)。その意味でも「塾に来てiPadを開いたら、勉強モード」といったメリハリがついたと思います。
――導入したけれど定着しなかったEdTechツールもあるのでしょうか。どんなツールを選ぶかは、塾の悩みどころかと思います。
そうですね。例えば「Studyplus」は、いいツールなのですが、モチベーションによって使いこなす生徒とそうでない生徒の差が明確だったため、塾全体として導入するのではなく、個人の活用に任せています。
もちろん、「今日は何時間やった」と学習時間が見えることがモチベーションになって、楽しく使い続けている生徒もいます。一方で、いちいち入力するのが面倒くさい、スマホを開くことで誘惑に負けて遊んでしまうといった理由から、使いたくないという生徒もいました。
他にモチベーションをあげる方法があるのなら、必ずしも全生徒が特定のツールを使いこなさなくてもよいと考えています。