はじめに
今回はまずは初めに、アメリカ・カナダ教育視察の概要についてお伝えします。
第1回の記事でもあるように、私たちは日本の教育の形が当たり前ではない世界各国の教育トレンドから、学べる点が数多くあると考えました。もちろん、社会の仕組みや文化の違う他国での取り組みを、そのまま同じように日本で取り入れれば良いと安易に考えているわけではありません。取り入れていく際には、日本の社会や国民性に合わせて取り入れていく必要があると思っています。しかし、日本の学びの大転換に向けて、世界各国の教育トレンドから得られる新たな視点は大きなヒントになると私たちは考えています。そしてその第一歩として、オランダ教育に着目し、教育視察を行いました。
オランダ教育視察を終え、次の一歩として選んだのが、これからお伝えするアメリカ・カナダになります。
視察先としてなぜアメリカを選んだのか
なぜアメリカ・カナダを教育視察の場として選んだのかということについてです。いくつかの国々が注目されている中でアメリカはEdTechの先進国として注目されています。さらに、アメリカでは未来の産業競争力低下への懸念から、STEAM教育と、教育現場でのEdTech振興を明確な国家戦略としています。STEAM教育については、ハイテク企業や先端技術研究所が提供する実践的なSTEAMプログラムが多数生まれています。
例えば、
- ある小惑星からサンプルを持ち帰ることをミッションとした宇宙探査機OSIRIS-RexのミニモデルをNASAチームと一緒に設計するプログラム(NASAが提供)
- 地域での風力発電量を調査し、風力発電用のタービン翼に重要な変数を確認してデザインし3Dプリンターでオリジナルミニ風車を作成するプログラム(xyzprinting社が提供)
- ハッカーからの攻撃に耐えられる「あなただけが開け方を知っている箱」を作るHACK A BOXプログラム(ボーイング社が提供)
などがあり、子どもたちがより実践的かつ最先端の問いに取り組むことができる環境も増えてきています。オランダでの教育視察で訪問したテクナジウムの教育手法を取り入れている学校でも実際に生じている課題に取り組む時間が設けられており、このような課題を学校教育の中で行うことは今後のトレンドなのかもしれません。
アメリカの教育イノベーションを描く映画「Most Likely to Succeed」の舞台となっているチャーター・スクールHigh Tech Highも教科横断型の授業が多く設けられています。
日本においても「教科横断的な学習」を進めようといわれている中で、このような取り組みを分析することには有益な価値があります。
High Tech Highの校長の「家を建てるのもプロジェクト。学校を建てるのもプロジェクト。映画や本を作るのもプロジェクト。社会に出ると、観察、考察、記録、結果の発表のサイクルで何かを作り出すのです」という発言が象徴するように、知識を活用して何かを創る創造性、批判的思考力、課題解決能力、コラボレーション能力、失敗から学ぶマインドといった非認知能力などを重視した教育をこの学校では実践しています。
教育先進国の多くはこの「非認知能力」の育成に注力していることが分かります。しかし、この非認知能力は「見えない学力」と表現されることもあるように、結果として効果が生まれるまでに長期的な視点が必要です。この長期的な視点を子どもと関わる人たちがどれだけ持つことができるかによって日本教育の大転換がどのような影響を生むのかを左右するでしょう。
「次世代の初等教育」を謳い、EdTechを活用した個別最適化学習に特化した学校であるAlt Schoolでは、EdTechをフル活用することで、「徹底した学習の個別化」という教育体制をとっています。生徒それぞれの興味・関心や強み・弱みに応じた個別プログラムを提供し、例えば「英語は3年レベルだが数学は5年レベル」という生徒に対して、その得意・不得意に合わせた柔軟な学習を可能にしています。日々、EdTechをフル活用して学習することにより個々の学習記録がデジタルに収集されるため、データをAI(人工知能)で解析することが可能になり、こうした個別最適化学習を可能にしています。
そして、カナダでは「国際的な視野を持つ人格を育成する」という理念を掲げているIB校(国際バカロレア)の取り組みを視察できるということで、この2つの国を選びました。視察したIB校では実際に授業を見学させていただき、その学校で働いている先生へのインタビューも行うことができたので次回以降の連載でお伝えしていこうと思います。
少しだけお話しすると、カナダの視察したIB校でも先ほどのキーワードでもあった「非認知能力」、そしてオランダ教育視察の大きなキーワードでもあった「解のない問いへの取り組み」に注力していました。
ここまでを聞いていると読んでくださっている方々の中には「海外の教育は素晴らしい」「日本の教育はどれだけ遅れをとっているんだ」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、実は主要経済国においても日本と同様の課題を抱えているのです。
多くの国で改善すべき課題とされているのは以下のとおりです。
- 知識中心で学科試験により定量的に評価される機会が多く、認知機能への偏重が目立つ。
- 「失敗」の経験が許される環境が十分に整っていない。
- 詰め込み教育に拍車がかかっていることで子どもたちが学ぶ内容が増えすぎている。
- カリキュラムが過密になり、子どもの「どうして?」という疑問に対応できるだけの余裕が学校教育にないため批判的思考力がなかなか育たない。
このような課題を各国が抱えている中で、どのような教育改革をしていこうかと試行錯誤しています。決して日本だけの問題ではないのです。
だからこそ、世界中での教育の取り組みに目を光らせる必要があるのです。