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すべての子どもに最適な学びを届けるために――個別指導進学塾メイツ代表・遠藤尚範氏が語るICTへの期待と続ける決意

EdTechビジョナリーインタビュー 第6回

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2019/04/01 07:00

 生徒一人ひとりに合った学び方やレベルに応じた指導を行うという個別指導塾が人気だ。その中でも、タブレット指導によるアダプティブラーニングを積極的に導入し、大きく成果を上げているとして注目を集めているのが個別指導 進学塾メイツだ。そこで培われたメソッドや教材はアプリ「atom」として2017年より、他の事業者にも展開されている。あえてノウハウの塊とも言えるアプリを提供するのは、どのような意図があるのか、また今後はどのような展開を目指しているのか。株式会社メイツ 代表取締役社長の遠藤尚範氏に、これまでの経緯と教育におけるICT活用、そして今後の展望についてお話を伺った。

株式会社メイツ 代表取締役社長 遠藤尚範氏
株式会社メイツ 代表取締役社長 遠藤尚範氏

おざなりな塾に怒り! 理想の塾を目指して学生起業をはたす

――遠藤さんご自身がなぜ教育業界に携わることになったのか、メイツの設立やこれまでに至る経緯までお聞かせください。

 私が教育に関心をもつようになったきっかけは、実は学校ではなくて「学習塾」なんです。小・中学生の頃に通っていたのは地域密着型の塾で、友達と一緒に勉強するのは楽しいし、先生に認めてもらえることがすごく嬉しくて、それもあってか成績がぐんと上がりました。その自由で明るく楽しい学びの場で、その中心にいる先生は憧れの存在でした。

 その後、高校生になって仕事について考えるようになり、自由に生きるためには起業家になりたい、自分のアイデアを世の中に提供して生きたいと考えるようになりました。そして、起業するなら早いほうがいいし、理系で優秀な人と知り合いになっておくといいだろうと思って、早稲田大学理工学部に進学したんです。ところが、とんでもなく忙しい学部で実験レポートだらけ、起業するどころではなくて……。それで時々聴講していた商学部の授業が面白かったこともあって、入学早々3か月で自主退学して、翌年の入試で商学部に入り直しました。3年生で転入という手もあったんですが、待っていられなかったんです。

 それで、いざ何で起業するかと考えた時に、やはりすごくお世話になった塾のことが思い浮かび、まずは大学の近くの個別指導塾でアルバイトをしてみました。ところが、これがひどかった(笑)。「早稲田の学生ならできるでしょ」と完全に丸投げで、ノウハウもなく、講師を指導するつもりもない。単なる場所貸し状態でした。研修があるときいて参加してみれば、形ばかりの座学で内容もいいかげん。がっかりして肘をついて聞いていたら、態度が悪いと叱責されて昇給しませんでした。もともと研修代もなかったですけどね。

 それまで自分の中の塾像は、楽しくてやる気が出て、先生もイキイキしているステキなところだったんです。それが丸ごとひっくり返されるような衝撃を受けました。

――その体験が、理想の塾を作ろうという想いにつながったんですね。

 そうですね。原点は子どもの頃の幸せな塾の体験だとしたら、起業の原動力は「なんだこれは! とんでもないぞ!」という悲しみ、怒りだったかもしれません。今はけっこう業界も変わってきていますが、当時は労務的なものもいろいろ問題があって、準備や指導報告などで授業以外も仕事があるわけですが、それが一切賃金として支払われない。残業も多くて終電で帰る先生も多いんです。

 「塾での教育はもっと良くできるはず、いや、自分たちがやらなくては!」と思って、教育関係に興味のあった早稲田大学の友人たちと一緒に塾を立ち上げたのが、大学に入り直して1年目の2010年6月のことでした。ただ、当時はICTも何も考えておらず、紙の教材で個別指導をしっかりとやることを目標にしていました。

アップルも注目した自前のアダプティブラーニングアプリ「atom」

――塾での指導にICTを活用しようと思われたのはどのような経緯からですか。

 個別指導はとても手間のかかる指導法です。通常なら先生1人あたり生徒3人まで、どんなに慣れてきても5~6人が限界でしょう。だからこそ、どんな先生でもハイレベルな品質を保ったままで1人に対し10人に指導ができれば、他の塾との差別化につながるのではないかと考えました。そこで目をつけたのが「アダプティブラーニング(生徒に個別最適化された学習内容を提供すること/仕組み)」と「テクノロジーを使うこと」だったんです。

 2013年の2~3月くらいだったと思いますが、iPadが出てしばらくたったくらいで、銀座のアップルストアに教育セミナーを見に行きました。結論としては自分たちで作る方がはやいと判断し、理工学部の友人に依頼してアダプティブラーニングのためのアプリを作ってもらったんです。すでに現場でのノウハウは溜まっていましたし、アイデアも山程ありました。それをどんどん盛り込んで、アップデートを重ねていきました。

 2014年末にある程度固まってプレスリリースを出したところ、アップル社からも連絡があり、それから対外的に紹介する機会が増えていきました。まだそんなに他のところがやっていないなら、どんどんアピールしていこうじゃないかと。そうした経緯もあって、教育界でのICTの使い手として注目されることが多いのですが、実はたまたまなんです。時流に乗ったといわれることもありますが、自分たちとしては欲しいものを作るために使っていたら、いつのまにか周りが変化したという感じですね。

個別指導を一新するアダプティブラーニング教材「atom」(サービス説明資料より抜粋)
個別指導を一新するアダプティブラーニング教材「atom」(サービス説明資料より抜粋)

――近年は自社内だけでなく、他社にもソリューションとして提供されています。

 はい、2017年から正式に外部販売も開始したのですが、そこでまた新しい視座というか、業界のさまざまな課題も見えてきました。もともと自分たちは自分たちが欲しいものを作りたいように作ってきたので、いわばなんの柵もなくスクスクと育ってきたところがあります。でも、他社さんでは、Wi-Fi環境などのインフラもさることながら、ICTを使う理解もない人も少なくないですし、パソコンの文化も根強いです。ICT以外では少子化による経営難や後継者不足などの問題もあります。一方、学校はまた違っていて、ざっくりいえば働き方改革と教育成果の両立が大きな課題です。公立・私立でも、小中高でもまた異なる問題があるでしょう。

 それぞれ教育界では解決すべき課題ですが、自らも塾を経営していることもあって、個別指導塾の個別指導に絞ったソリューションとして取り組んでいこうと思っています。そこは堅実に丁寧に、「安定的にサービスを提供したい」という気持ちが強いですね。最近、資金調達を行ったのも、社内体制を整えて安定的に継続できる組織になることを目的としてのことでした。

 おそらく一般的なITベンチャーでは、事業化も早ければ撤退の判断も早いのでしょう。でも、メイツの自己認識は教育事業者です。絶対に潰れられないと思っています。そもそも学校への提案は1年ごとですし、予算確保も検討も数年がかりです。その意味では教育界とITとの相性は悪いんですよね。まだ塾はもう少しサイクルが早いのですが、いずれにしても腰を据えてやらないとお互い不幸なことになりかねません。そこはしっかりと意識して丁寧に事業を進めていきたいと考えています。


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著者プロフィール

  • 伊藤 真美(イトウ マミ)

    エディター&ライター。児童書、雑誌や書籍、企業出版物、PRやプロモーションツールの制作などを経て独立。ライティング、コンテンツディレクションの他、広報PR・マーケティングのプランニングも行なう。

  • 斉木 崇(編集部)(サイキ タカシ)

    CodeZine/EdTechZine編集部 編集長。1978年生まれ。早稲田大学大学院理工学研究科(建築学専門分野)を卒業後、IT入門書系の出版社を経て、2005年に翔泳社へ入社。2005年6月の正式オープン以来、ソフトウェア開発専門のオンラインメディア『CodeZine(コードジン)』の企画・運...

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