Shoeisha Technology Media

EdTechZine(エドテックジン)

記事種別から探す

アメリカの将来のカギは『脳』が握る!?――北米のブレインテック最新事例紹介

ブレインテック×EdTechの可能性 第2回

  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
2019/02/07 07:00

 前回は「ブレインテック」という新しい潮流の勃興、そしてその背景と、教育分野への活用の可能性について述べました。その中で、アメリカとイスラエルが特に動きが活発であることに軽く触れたわけですが、今回は、その『本場』の一つ、アメリカの現況をお伝えしたいと思います。進取の気性に富んでいる、先端を走っている、という印象をアメリカにもっている方は少なくないと思いますが、では具体的にブレインテック分野ではどうなのか。以下で掘り下げていきます。

国際競争・国家戦略・資本の集中――アメリカはブレインテックで何を狙う

 21世紀も最初の20年が終わろうとしていますが、世界情勢は混迷の度を増す一方です。きな臭い動きもあちこちで見られます。チャンスに沸き立つ国、綱渡りの国、理想と現実の狭間でもがく国、野望を隠そうともしない国、なりふり構うのを止めた国、先行きが不透明な国――。そうした多国間の国力競争は、巡り巡って、各国の国家予算の配分というかたちで顕在化します。競争優位性の確保につながり得る分野に先んじて資本を投下しないと、自国の足もとが危うくなるという現実認識があるからです。

 そしてそれは超大国アメリカも同じのようです。2013年、バラク・オバマ前大統領は「Brain Initiative」という大統領令を発令。2019年度には5億ドル規模に達そうかという巨大予算プロジェクトがスタートしています。この計画は当面、2025年度まで続く見込みです。

 アメリカが脳の解明にこれほどまでに本腰を入れる理由は何なのでしょう? 人類にとってまだ分かっていないもの=『脳』がそこにあるから、フロンティア領域だから研究する、というだけではないはずで、そこに何らかの国家戦略に資する利得が見込まれているはずです。

 その答は「Brain Initiative」の中にあります。オバマ前大統領は演説内で、ヒトゲノム計画が140倍の経済効率を生んだことを引き合いに出して、現在アルツハイマーの解明などのために行われている脳マッピングにさらなる投資をすることへの国民的理解を呼びかけました。つまり、脳の仕組みを解き明かすことで脳疾患の治療技術を飛躍的に発展させ、その結果として高額医療費を国家レベルで抑制する、というのが主目的だといえるでしょう。

 実際、全米神経学会は、アルツハイマーなどの病気が世界経済に及ぼす影響は2030年には6兆ドル規模になると予測しています。この重大な損失を脳の解明によって抑えることができれば、アメリカ経済に多大なインパクトを与えるでしょう。医療行為でないブレインテックツール/アプリなどが疾患を直接治癒することは無理だとしても、しかし国民の日常生活にブレインテックが広く根付くことで、脳の健康の維持および増進に役立つことは十分考えられます。そうして最終的に得られる、医療コストの大幅削減と国民あたりの生産性向上による経済効果――それが狙いなのではないでしょうか。

 このように有望な分野であるからこそ、市場の成長も見込まれています。2018年にZion Market Research社が発表したレポートによると、ニューロサイエンスの世界市場は2024年には約348億ドルに達するだろうとのことです。スマートフォンアプリなどの一般消費者向けテクノロジーはすでに広く世界に浸透しているので、それらスマートデバイス上で展開されるブレインテックサービスには、グローバル規模のビジネスチャンスや投資資金流入も期待できます。そういったリターンの見立てがあるから、国も予算を投じるのでしょう。

 さてこのようにアメリカでは莫大な研究開発予算がブレインテック/ニューロテクノロジー界隈に流れ込んでいるわけですが、では、それをエンジンにして今いったいどのような具体的成果が芽吹き始めているのか。その事例を次節では挙げていきましょう。

大学などで着々と進む脳の研究と地域へのフィードバック

 まず、国家に最も近いところでいうと、インターネットの原型を生み出したことで知られるDARPAことアメリカ国防高等研究計画局があります。DARPAは国防総省の内局で、大統領と国防総省長官の直轄という特別機関です。そのDARPAが国家プロジェクトとして取り組んでいるのが「RAM」プログラムで、脳が著しい外傷性損傷を受けた場合にも、デバイスを埋め込んで記憶を復元させようというものです。

 州立大学ではワシントン大学が挙げられます。ワシントン大には、神経心理学者・Eric H. Chudler博士率いる「Center for Neurotechnology」という脳科学研究機関の拠点があり、旧称「Center for Sensorimotor Neural Engineering」から改称して今後は神経系、ブレインテックに焦点を当てた研究をしていくとのことです。なおワシントン大には独自取材を敢行しましたので、追って本連載で最新情報をお伝えします。お楽しみに!

 私立大学では、ハーバード大の「Center on the Developing Child」が、カナダの「Alberta Family Wellness Initiative」と共同研究を行っています。その成果である「Brain Story Certification」は、30時間の講義形式になっており、すべて受講し終えると認定書が発行されます。中身は、経験が脳に与える影響、人間関係が脳に与える影響、愛情や世話を受けると子どもの脳はどう反応するのか、アルコールや薬の中毒になるプロセスの詳細、ストレスとその耐久力に脳がどう関係しているのか、昨今の技術が脳に与える影響、など。

 大学での研究成果が地域の一般層に還元されているケースを紹介しましょう。まず、前出のEric H. Chudler博士のWebサイト「Neuroscience For Kids」では子どもの脳を鍛えるトレーニングプログラムが多数公開されています。これらは、ワシントン大学の地元であるシアトル近郊の小学校で実際に利用されているものです。

 また、南カリフォルニア大「Creative Media & Behavioral Health Center」は脳の発達をゲーム形式で学ぶことのできる「The Brain Architecture Game」を発表しています。ゲームといってもビデオゲームではなく、4~6人で1つのテーブルを囲み、協力しながら工作を行うグループワークのようなものです。百聞は一見に如かず、参加者がゲームを楽しんでいる様子をご覧ください。1分半ほどの短い動画です。

Brain Architecture Game - Judy Cameron - Canada from FrameWorks Institute on Vimeo.

 脳の発育の基本および、人生経験が脳に与える影響――特に幼児期の経験が生涯にどのような影響をもたらすか――などが学べるようになっています。こちらは残念ながら日本未上陸。


  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加

著者プロフィール

  • 株式会社メディアシーク(カブシキカイシャ メディアシーク)

    メディアシークはカスタムメイドのシステム開発ソリューションと、豊富な開発実績から生まれた教育事業者様向けのスクール管理システムパッケージ「マイクラス」の他、LMS(ラーニング・マネジメント・システム)、各種ウェブサイト、スマートフォンアプリを提供しているIT企業です。 https://www.me...

おすすめ記事

All contents copyright © 2017 Shoeisha Co., Ltd. All rights reserved. ver.1.0