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プログラミングは自分を発信するためのツール 『ルビィのぼうけん』のリンダさん講演録【前編】

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2019/01/23 07:00

 フィンランドのヘルシンキ出身のプログラマーで、作家・イラストレーターとしても活動しているリンダ・リウカスさん。国内ではプログラミングやコンピューターについて学べる絵本「ルビィのぼうけん」シリーズ(翔泳社)の作者としても知られているリンダさんが、2018年12月27日に聖心女子大学敎育学科の学生に向けて講演を行った。今回は、プログラミングとの出会いや絵本作りを始めたきっかけなど、ご自身の歩みを語ってもらった講演の前編をお届けする。

中編「大切なのは言葉ではなく行動して学ぶこと 『ルビィのぼうけん』のリンダさん講演録【中編】

後編「プログラミングを教える大人に伝えたいこと 『ルビィのぼうけん』のリンダさん講演録【後編】

プログラミングを始めたきっかけはアル・ゴア元副大統領

 こんにちは、リンダ・リウカスです。最初に私自身のことを紹介したいと思います。私は今プログラミング言語を利用していますが、言語を学ぶということは、たとえば文法、語彙、言葉を学ぶのではなく、実際にどう使うかを学ぶということです。これからお話するコーディングやプログラミングについて、知ってもらいたいのはどういう言語が使われているかではなく、そして特定の人たちが使っているものとしてでもなく、ツールとして使うものであるということです。私は昔からそういったコンピューターに対する意識を変えたいというパッションがありました。

 私が十代のとき、すごく夢中になった人がいます。皆さんはアル・ゴアを知っていますか? アメリカの元副大統領です。私は彼のファンになったんです。個人的なスクラップブックを作っているだけでもよかったんですが、自分の想いをもっとさらに発信したかったんですね。でも、当時はFacebookもないし、Tumblrもないし、インスタグラムもありません。だから、自分自身でウェブサイトを作りました。

 ウェブサイトを作るにはたコーディングやプログラミングの技術が必要です。ですが、私はそのやり方を一つひとつ学んだというよりも、アル・ゴアに関する自分の想いを発信するための、そして表現するためのツールとしてプログラミングを使ったことを覚えています。

プログラミングを理解してもらうため、ゼロから始めた絵本制作

 ウェブサイトを作ったとき、自分の周りにプログラマーのロールモデルがいなかったので、自分がプログラマーになろうとは思いませんでした。ただ、数年後に友達と一緒にRails Girlsというウェブサイトを立ち上げて、プログラミングについて発信する機会ができました。当時の自分たちにはお金がなく、イベントを運営するノウハウもありませんでした。

 それでも、プログラミングのことをもっと伝えたいという強いパッションがありました。ある日、そのイベントをやっているときに、「シンガポールでぜひ発信してくれませんか」とお声がけをいただきました。10年ほど前の話で、私は22歳か23歳です。自腹でチケットを買ってシンガポールまで行き、発表をしました。

 それがきっかけでTwitterなどでイベントや私のこと、Rails Girlsのことがたくさんシェアされたんです。一気に世界中に広がって、全世界でイベントが開催されていきました。日本でも7、8か所で開催されていて、東京でも年に2回ほど開催されています。本当に急激に規模が大きくなりました。

 このRails Girlsのイベントをきっかけに、私でも世界の人たちが気になっているトピックを発信できるかもと思い始めました。自分が気になっていることは世界が気になっていることでもある、だからからできるかもしれない、と。そんなときに、「ルビィのぼうけん」シリーズの主役となるRubyというプログラミング言語に出会いました。

 でも、いざプログラミングを勉強しようと思ったとき、教科書や参考書は文字だらけで全然イラストもなく、なかなか理解ができなかったんです。もし6歳の女の子がプログラミングを理解するにはどうすればいいでしょうか。たとえば、アルゴリズムの仕組みや専門用語などを理解するには、どういう方法がいいのでしょうか。そういうふうに考えていって、絵本を描こうと思い至ったんですね。

リンダ・リウカスさん

 実際、私自身も何か物事を理解するときは、理論的にというよりもストーリーを通して理解するほうがわかりやすいんです。なので、プログラミングやコンピューターについても、ストーリーを通して伝えていきたいということで、絵本に辿り着きました。私は子供向けの絵本なんて人生で一度も描いたことがなかったし、絵にも自信がなくて下手くそでした。プログラミングを幼稚園児や小学生の子どもたちにどう伝えたらいいのかもわかりませんでした。でも、そういう大きな問題に向かい合ったとき、まず一つひとつ小さな問題をしっかり見つけ出して、それを解決していくという根気強さが大事なんだなと気づきました。

 だから、どんどん絵を描いてSNSで発信していったんです。すると、世界中の人たちからたくさんアドバイスをもらうことができました。Instagramである女の子から私のキャラクターの手作り人形を送ってもらったこともあります。そういう支えもあって自分の絵がだんだんよくなっていったとき、「絵本だけではなく、その絵本を使って教える教材のようなものを作ってみたい」と思ったんです。

 そこで、私はクラウドファンディングに挑戦しました。まだそれほどクラウドファンディングが普及していなかったんですが、あっという間に目標金額が集まって、さらに1か月も経つと世界中の方々から支援をもらうことができました。ヨーロッパ、アメリカ、南アフリカを始め、もちろん日本からも応援の言葉をいただけるようになって、気づいたら自分が子ども向けの絵本作家と呼ばれるようになりました。

 そしてその4年後、『ルビィのぼうけん(原題:Hello Ruby))を出版することになります。日本では現時点でシリーズが3冊まで出ています。テーマは、1つ目が「プログラミング」、2つ目が「コンピューター」、そして3つ目が「インターネット」です。小さな発信から始まったことが、今では世界中で絵本を出版する状況になってしまいました。

 私には絵本を描くスキルがなかったので、そもそも最初に何をすればいいかすらわからなかったんです。でも、新しいものを作ろうというとき、必ず自分の中でフラストレーションや課題に立ち向かわなければなりません。頭で考えていることと、実際に手で動かしてでき上がるものがなかなか一致しない、どうしても考えていることがそのまま目の前で形とならない。そういう感覚は絶対に発生するんですが、これを乗り越え、通り抜けた先にこそ、実際にモノが作られていくわけです。このプロセスはどんなことにも共通する、そんな考えに出会いました。

大事なのは「take action」 そのためのツールがプログラミング

 もともと私は日本が大好きでした。『ポケモン』を遊んでいましたし、日本の人たちが持つクリエイティビティに一種の憧れがありました。ただ、自分はそれなりの年齢なので、今から日本語を学び直したり、日本でビジネスをしたりするのは無理があると思っていたんです。

 でも、ヘルシンキで行われたあるカンファレンスで、司会者に「今まで様々な活動をして成功を収めていますが、これからの夢はありますか?」と訊かれたとき、咄嗟に「日本の幼稚園で先生をやりたいです」と答えてしまいました。なんと、たまたまそこに日本人の方がいらっしゃって、その方が日本のフィンランド大使館の方に連絡してくださったんです。フィンランド大使館から「本当に日本の幼稚園の先生になっていただけますか?」と問い合わせをされました。

 それがきっかけで日本の方々と繋がりができて、『ルビィのぼうけん』を出版してくれた翔泳社さんに出会ったり、Rails Girlsの日本支部の方に会ったりすることができました。出版から3年後には、日本の幼稚園や小学校などの教育現場で本書が使われる状態にまで至りました。

 私が絵本を出版して学んだのは、自分の夢を恥ずかしがらずに発信すること、話すことがとても大事だということです。日本の方は恥ずかしさもあってあまり自分の夢を周りに話さないかもしれません。ですが、話してみれば、もしかしたら誰かがそれを聞いてくれていて、助けてくれるかもしれません。

 たしかに、夢を語るとリスクが生まれます。リスクは避けなければいけないことだと考えられていますが、ではリスクを避けて何もしない、関わらないとなると何もしないことになります。最悪、誰にも何も気づかれないことにもなってしまうでしょう。だから、失敗を恐れずに行動する、「take action」が最も大事なことなのかもしれません。

 私が今考えているのは、もっと世界中のいろんな分野の人に、プログラミングは自分を発信するツールであるということをもっと知ってほしいということです。コンピューターサイエンスは目の前にある課題を解決するツールです。だから、もっと多くの人にプログラミングというものを知ってほしいと思っています。

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修正履歴

  • 2019/01/25 16:37 誤表記を修正させていただきました:アル・ゴア元大統領⇒アル・ゴア元副大統領

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