EdTechZineでは、6月11日(日)にオープン記念イベント「『ルビィのぼうけん』で体験する小学校プログラミング教育」を、著者のリンダ・リウカスさんを迎えてマイクロソフト本社にて開催しました。
フィンランドのプログラマーで女性や子どもの教育に力を入れているリンダさんが描いたベストセラー絵本『ルビィのぼうけん』が2016年5月に日本で刊行されて約1年。2017年4月には第2弾『コンピューターの国のルビィ』が刊行となりました。
これまで小学校の先生を中心に多くの方が、子どもたちにルビィと一緒にプログラミングを学んでほしいと授業やワークショップを行ってこられました。EdTechZineの運営母体である翔泳社にも、どのように実施すればいいのかというお問い合わせを数多くいただいています。
本イベントの第1部は、そうした声に応える形で6月1日(木)に発売した『「ルビィのぼうけん」ワークショップ・スターターキット』を使用した、子どもたちのためのワークショップです。
大人が用意した教材に、子どもたちの想像力はどんなふうに応えてくれたのでしょうか。『ルビィのぼうけん』でコンピューターを使わないプログラミング教育を実践しようとしている先生方、ぜひ参考にしてみてください。
プラグラマーやコンピューターになろう――ダンス・ダンス・ダンス
まず、『ワークショップ・スターターキット』の中身を紹介しましょう。
- スタートガイド動画&教材データ収録DVD-ROM
- 書籍『コンピューターを使わない小学校プログラミング教育』
- 書籍『ルビィのぼうけん こんにちは! プログラミング』
- 教材「ダンス、ダンス、ダンス」マグネットシート
- 教材「おしゃれのルール」台紙+服カード
- 教材「こまったこと」ワークシート
- 教材「ルビィのぼうけん」ワークショップふりかえりシート
実際のワークショップ(授業)で使用するのは教材「ダンス・ダンス・ダンス」「おしゃれのルール」「こまったこと」の3点です。このキットには1クラス約40名分が同梱されています(教材データで追加印刷可能)。
ワークショップも、基本的にはこの順番で行っていきます。最初は「ダンス・ダンス・ダンス」です。
これは体を動かすワークで、子どもたちにプログラマーやコンピューターがどういうことをするのか経験してもらうことができます。机などがない、少し広い場所が必要です。ホワイトボードがあるとなおいいですね。
先生は「まわる」「ジャンプ」といった指示が書かれた付属のマグネットシートをホワイトボードに貼りつけます。これらのシートを何枚か並べて命令を作り、子どもたちに実行してもらうわけです。
このとき、シートを組み合わせて命令を出す先生はプログラマーで、それを実行する子どもたちはコンピューターの役。命令を1回(1順)だけ実行したり、あるいは何回か繰り返したり、先生が手を挙げている間だけ実行したりしてもらいましょう。コンピューターが命令を実行する様子を理解できるはずです。
子どもたちにプログラマー役をやってもらうのもいいでしょう。今回のイベントでは4グループに分かれてワークショップを行いましたが、あるグループの男の子がシートをすべて並べて、ずいぶんと長い命令を作りました。それでも、コンピューターは実行するしかありません。
「ジャンプ+キック」という新しい指示を作ったことがおもしろいですね。また、あまり命令が長いとどこでループする(繰り返す)のかわかりづらいという声もありました。
このように、子どもたちにプログラマーとコンピューターの両方の役を体験してもらうことが「ダンス・ダンス・ダンス」の主眼です。
もし雨ならば何を着る? 雨でないなら?――おしゃれのルール
続いては、「おしゃれのルール」。指定された条件に合わせて、ルビィのファッションや持ちものを選ぶワークです。
台紙にはたとえば「雨の日はルビィはなにを着ればいい? 雨でないなら?」「海に行くにはなにをもっていけばいい? 海でなければ?」といった質問が書かれています。子どもたちの手元には服が描かれた小さなカード。このカードから着るべき服を選んでもらいましょう。
雨の日であれば、大人であれば当然レインコートや長靴を選びます。そして雨でないなら、濡れる心配をしなくていい服です。このワークではこうした「○○ならば××、○○でないなら△△」という条件分岐(if~else文)について学ぶことができます。
服カードはたくさんあるので、まずは自分がどんなカードを持っているのか確認するのも大事なことです。どの子どもたちも目についたカードをいきなり置くのではなく、きちんとすべて見てから選んでいました。
しかし、服カードには好きなものがなかったのか、準備してあった鉛筆で直接台紙に書き込む子も。こういうシーンこそ、子どもの想像力が発揮される瞬間です。このワークにはたしかにカードが用意されていますが、そのカードを必ず使わなければならないわけではありません。
自分で絵を描こうとする子を咎めてしまうのはNGです。むしろ、適切な道具――色鉛筆を用意できなかった大人(翔泳社運営スタッフ)の想像力が子どもたちに圧倒されたことを自戒しなければなりません。
繰り返しになりますが、ワークショップでは子どもたちの自発性を促すことが重要です。大人がキットに書かれたルールに縛られすぎたり、子どもたちの一見突拍子もない行動を咎めたりする必要はまったくないのです。それよりも、なぜそうしたのかを訊き、肯定する、あるいはよりよく問題が解けるように誘導してあげましょう。
どの手順が間違っている?――こまったこと
最後は「こまったこと」。日常生活の中でうまくいかない結果になったとき、どの手順が間違っていたのかを探し当ててもらいます。要するに、デバッグを学んでもらうワークです。
誕生日の問題では、一つには以下の手順が示されています。
はじめ
↓
おさらをならべる
↓
スプーンをならべる
↓
おたんじょう日ケーキをテーブルにのせる
↓
テーブルクロスをひろげる
↓
おわり
さて、どこが間違っているでしょうか。小学校低学年くらいの子だと、こうした問題は少し難しいようです。順を追って説明してあげるのがいいですね。
いくつかの手順から間違いを探すデバッグは、プログラムをきちんと動作させるには不可欠です。また、日常生活でも困ったことがあったら、まず何が間違っているのかを特定しなければ問題の解決には至りません。
プログラミング教育というとプログラムやアプリなどに直結して考えてしまいがちですが、普段の頭の使い方や日常生活とも繋がっていることがわかるようになるのではないでしょうか。
何気ない行動も複雑な手順の組み合わせ――歯を磨こう!
イベントでは少し時間が余ったため、全員で「歯を磨こう!(Wash your teeth!)」というワークを追加で行いました。
これは歯を磨くという行為を細かい手順に分解し、コンピューターに与える指示のように書いてもらうワークです。歯磨きと一口に言っても、人によって手順は様々。子どもたちも、普段意識しないからか、楽しそうに手順を書いていました。
コンピューターに何かをしてもらいたいとき、プログラマーは具体的に細かく指示しなければなりません。「歯を磨こう!」では、正しい手順を一から説明できるかどうかが鍵です。
リンダさんが注目した回答の一つに、条件分岐を使ったものがありました。その子は歯を磨いたあと、「きれいならまた終わり、きれいでないならもう1回磨く」という手順をつけ加えていました。習ったばかりのことをすぐに応用してくれると嬉しいですね。
プログラミング力はあらゆる仕事に必要になる
プログラミング教育の議論では既に何度も話題に上がっているかもしれませんが、プログラミング教育をするからといって子どもがプログラマーにならなければならないわけではありません。論理的思考力しかり、リンダさんの言うプログラマー的思考法しかり、考え方を養うことが大きな目的だと言えるでしょう。
とはいえ、今や多くの仕事にプログラミングが必要になっています。ITエンジニアは当然として、ゲーム開発や音楽作曲などもそうです。あるいは科学研究もそうでしょう。プログラミングが必要とされる仕事が増えている中で、小さい頃から接点を持っておくことは大切なことです。
特に、子どもたちがコンピューターやプログラミングに苦手意識を持たないようにしてあげるのが大人の役目。ワークショップや授業でも、嫌なことがあればそれがプログラミングと結びついて記憶されてしまう可能性もあります。
子どもたちにいかに楽しくプログラミングに接してもらうか。『「ルビィのぼうけん」ワークショップ・スターターキット』は、そのための方法の一つなのです。