SHOEISHA iD

※旧SEメンバーシップ会員の方は、同じ登録情報(メールアドレス&パスワード)でログインいただけます

EdTechZineオンラインセミナーは、ICTで変わりつつある教育のさまざまな課題や動向にフォーカスし、最新情報をお届けしているWebメディア「EdTechZine(エドテックジン)」が主催する読者向けイベントです。現場の最前線で活躍されているゲストの方をお招きし、日々の教育実践のヒントとなるような内容を、講演とディスカッションを通してお伝えしていきます。

次回のオンラインセミナーは鋭意企画中です。準備が整い次第、お知らせいたします。

EdTechZineオンラインセミナー

EdTechZineオンラインセミナー

EdTechZineオンラインセミナーは、ICTで変わりつつある教育のさまざまな課題や動向にフォーカスし、最新情報をお届けしているWebメディア「EdTechZine(エドテックジン)」が主催する読者向けイベントです。現場の最前線で活躍されているゲストの方をお招きし、日々の教育実践のヒントとなるような内容を、講演とディスカッションを通してお伝えしていきます。

先進事例紹介(探究学習)

目指すべきは生徒の「生きる充実感」!? 社会と接続しながら、探究を実践するヒント

株式会社ミエタ 代表 村松知明氏インタビュー(後編)

社会との接続機会を提供し、生徒に生きる充実感を

──ここからは、探究学習における「社会との接続」、つまり社会実装の取り組みについてお聞きしたいと思います。生徒からの提案やアイデアを、実際の社会へ届けたいと思う学校も多いかと思います。

 はい。私たちもこれまで本当に多くの生徒さんの素晴らしい企画やアイデアを見てきました。ただ、授業日数などの兼ね合いから「提案で止まってしまう」ことが多いという現状があります。これは探究学習としての効果を考えるともったいないことだと思っています。

 生徒の提案には、実社会の中で活用されたり、誰かの役に立ったり、新しい価値を生み出したりする可能性を秘めたものが数多くあります。そして、アイデアが「誰かに届く」「世の中が少し変わる」瞬間こそが、生徒にとって最も強烈な学びになると感じています。

──確かに、机上の提案だけでは得られない経験がありますよね。

 社会実装ができると、学校現場にも社会全体にも良い循環が生まれます。例えば、生徒自身が「自分たちでここまでできるんだ!」と自信を持てるようになり、その姿を見た他の生徒も「自分にもできるかも」と思えるようになります。教員や大人世代にとっても「若い世代はすごいな」と感じると同時に、いい意味で刺激を受けるきっかけになります。まさに「学びと社会が接続する」のです。

──具体的にはどのような社会実装例がありますか?

 最近の事例として象徴的なのが、福岡県宗像市の産品を活用した商品開発の取り組みです。このプロジェクトは、生徒たちが宗像地域の魅力を掘り下げ、「どうすれば地域の価値をより多くの人に届けられるか?」という問いから始まりました。単なる企画書づくりではなく、実際に地域の食材を使い、ブランドコンセプトを考え、試作品づくりにまで踏み込んだ本物の社会実装です。

──生徒さんたちが商品開発まで携わったのですね。

 さらにこの取り組みが大きな成果につながったのは、JR博多駅でのポップアップ販売にこぎつけ、限定800セットが実際に販売されたことでした。店頭に立った生徒たちは、自分たちの手で開発した商品をお客さまに説明し、購入の瞬間を目の前で体験する。まさに「自分のアイデアが社会に届く」瞬間であり、全員が本当に誇らしげでした。

──企画だけで終わる探究とは違う、現実感がありますね。

 お客さまから「おいしいね」「こういう地域の取り組みは素晴らしいね」と言われる経験は、生徒にとって何よりのフィードバックです。このプロジェクトをきっかけに、「社会の課題に向き合い、自分の力で価値を生み出せる」という実感が、確かな自信につながっていったと思います。

 先生方だけで社会実装の機会を探したり、場を提供したりすることは、先生方の業務負担をはじめ、さまざまなハードルがあるので、地域や企業・団体等、外部とうまく連携して、社会全体で探究を支援できるような基盤がつくれたらと願っています。

先生が没頭する姿を見せてもいい

──探究学習をより深い学びにするためには、どのような視点が大事でしょうか?

 そうですね、少し抽象的な話になってしまうのですが、創業当初から「スキルを身につけること」以上に「自分が何をやりたいのか、に気づくこと」を大事にしてきました。探究学習はもちろんですが、キャリアという広い文脈で見ても、そこが出発点になると思っています。

 社会課題に取り組むワークや、何かをつくるアクティビティはとても大事ですが、それだけでは軸になりません。自分の興味や関心、夢や目標といった志に向き合うこと、それが見えたうえで活動が伴うことで初めて、探究が本質的な学びになり、生きる力として機能していくのではないかと感じています。

──探究の時間は、学校の中で自分自身を見つめ直すための時間でもあるかと思います。探究学習が、生徒の「生きる充実感」につながり始めるポイントはありますか?

 私の視点で一番大事だと感じているのは、先生方が楽しんでいるかどうかです。

 例えば、インドやカンボジアのスタディツアーに先生方と同行したり、インドで面白い活動をしている方とオンラインでワークショップをやったりすると、先生がすごく前のめりになって、「めちゃくちゃ面白いですね、村松さん!」と目を輝かせる瞬間があるんです。私は、この「先生自身が没頭している姿」がものすごく重要だと思っています。

 生徒は本当に先生の姿をよく見ているんですよね。先生が笑顔だったり、夢中になっていたり、何かに心から面白がって取り組んでいると、生徒はそこから「自分たちも夢中になって取り組んでいいんだ」と感じ取ります。

 インドの例に限らず、クリエイターとの授業でも同じです。先生方が何かを楽しんだり、面白がって取り組んだりする姿は、生徒に非常に強い影響を与えますよね。目の前の大人が心から没頭している様子を見ることで、生徒は「これは自分にも関係のあることなんだ」「世の中って案外面白いかも」と感じ始める。これは時間の長さとは関係なく、短い関わりでも十分に起こり得る変化です。

──人生の先輩である先生が熱中している姿から、「これは意味のあることなんだ」と気づく瞬間があるんですね。

 結局、生徒にとって面白いかどうかの最初の模範は、先生なんです。だから、先生が探究を楽しむとき、生徒の「生きる充実感」の芽が育つ。その瞬間をたくさん見てきました。

──学校によって環境がさまざまに異なる中で、どんな学校でも生徒の「生きる充実感」につながる探究を実現することは可能でしょうか?

 先生がご自身の好きなテーマで授業を設計することは一つの近道だと思います。例えば「バックパッカーの経験があり、途上国の課題には関心がある」「城めぐりをよくしていて、日本の歴史・文化が実社会にどう活かされているか、生徒に伝えたい」「授業で動画を活用する機会が多く、クリエイターとの授業をつくってみたい」など、先生が本当に興味を持っている領域だと、外部の講師をお招きする場合でも、自然と前のめりになれますし、授業づくりのイメージも湧きやすい。すでに学校現場で使用されているアプリ開発ツールの企業と連携しながら授業プログラムを企画運営したケースもあります。

 そのようなときの先生の表情は本当に生き生きしていて、生徒の反応も明らかに変わります。つまり、先生自身の「好き」はそのまま熱量になり、その熱量が生徒の「生きる充実感」にもつながるんです。それぞれの学校の事情によりできることは違うと思いますが、ぜひ先生自身が心から楽しめるテーマを取り入れてみてほしいと思います。

 探究学習はまだまだ始まったばかりの分野ですから、学校によっては一部の先生に業務が集中して校内で孤立したり、学校間や教員間での共有の機会が限られていたりすることから、なかなか教育機会として深まっていかない現状があります。社会全体で学校や先生方、そして探究学習を進める生徒の皆さんを支えることで、先生も生徒も熱中できる楽しい学びの場をつくれたらと思っています。

この記事は参考になりましたか?

先進事例紹介(探究学習)連載記事一覧

もっと読む

この記事の著者

株式会社ミエタ(ミエタ)

 株式会社ミエタは、「学びと社会をつなぎ、自分と未来をつくる」をコンセプトに、100 種類以上ある実社会のさまざまなテーマからワークショップ、フィールドワーク、修学旅行等、各校の特色に合わせた探究プログラムを企画・運営・提供しています。ミエタ独自の専門家ネットワークにより、実社会とつながりながら主体...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です


この記事をシェア

EdTechZine(エドテックジン)
https://edtechzine.jp/article/detail/13381 2025/12/24 07:00

おすすめ

記事アクセスランキング

記事アクセスランキング

イベント

EdTechZineオンラインセミナーは、ICTで変わりつつある教育のさまざまな課題や動向にフォーカスし、最新情報をお届けしているWebメディア「EdTechZine(エドテックジン)」が主催する読者向けイベントです。現場の最前線で活躍されているゲストの方をお招きし、日々の教育実践のヒントとなるような内容を、講演とディスカッションを通してお伝えしていきます。

新規会員登録無料のご案内

  • ・全ての過去記事が閲覧できます
  • ・会員限定メルマガを受信できます

メールバックナンバー

記事アクセスランキング

記事アクセスランキング