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EdTechZineオンラインセミナーは、ICTで変わりつつある教育のさまざまな課題や動向にフォーカスし、最新情報をお届けしているWebメディア「EdTechZine(エドテックジン)」が主催する読者向けイベントです。現場の最前線で活躍されているゲストの方をお招きし、日々の教育実践のヒントとなるような内容を、講演とディスカッションを通してお伝えしていきます。

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好事例から解き明かす、大学経営とデジタル人材育成

【高知工科大学】学群の新設と企業との共同プロジェクトによる独自PBLの実践

好事例から解き明かす、大学経営とデジタル人材育成 第2回

運営上の課題と今後の取り組み

 同学群が目指す教育の方向性について、PBLの観点から古澤教授に尋ねた。

 「これまで多くの大学で地域連携を掲げる学部が設立されてきましたが、表層的な取り組みで終わるケースが多く、地域が抱える『泥々とした本当のニーズ』には応えられていないように思います。そのためには、PBLを企業との共同事業として、数年がかりで実施する必要があります。だからこそ、本学群のPBLは1年次から3年次まで継続して取り組みます。アイデアだけで終わらせず、実践と振り返りを繰り返す。PBLだけ見れば、かなりビジネス寄りの内容です。その一方で、授業では『なんちゃってデータサイエンス』にならないよう、学術的なレベルを維持することも意識しています」と古澤教授は語る。

 「その両立は難しいですね」と筆者が述べると、「はい、課題も山積しています」と古澤教授は応じた。

 課題は大きく2つあるという。まず1つ目は、教員の確保と育成である。この解決策として、古澤教授は教員の役割を完全に二分していると説明する。

 「専任教員は研究に十分に時間を割いてもらい、論文や外部資金獲得といったアカデミックな基準で評価します。一方、PBLの運営は、大学独自の評価制度の対象外となる特任・客員教員として、優秀なビジネス経験者を起用し協業体制を強化します。研究者とビジネスパーソンの役割を明確に分け、中途半端を避けることで、それぞれの専門性を最大限に活かす方針です」

 教員について筆者が「PBLは3学年で合計30プロジェクトを常に維持する必要があり、教員の数が足りなくなるのでは?」とさらに質問すると、「将来的には、4年生と大学院生が1~3年生を指導する体制を構築します。これにより、教員の負担を軽減し、学生主体で教育が循環する持続可能な仕組みを作ります」との答えが返ってきた。

 2つ目の課題は、企業との連携、特に共同プロジェクトの開拓である。PBLのためには、常時30件のプロジェクトを維持する必要があり、古澤教授自らが先頭に立って、営業担当として企業周りをしているという。その経験から、DX・AI導入支援ビジネスが隆盛を極める中で、大学の取り組みがその廉価版や劣化版と見なされることを避けるためには、「半歩先のやってみたいこと」を企業と共に構想するという、上述の共同事業スキームが理想形のひとつであるという考えに至ったのだ。

 インタビューの最後に、古澤教授に今後の展望を尋ねた。それは「大学をハブとした、都市圏や海外企業と地域経済との連携モデルの構築」であるという。

 「都市圏企業の地方進出が空回りする原因は地域との『認識ズレ』です。この溝を埋め、双方を結ぶ触媒が地方大学の役割です。人間関係というウェットな部分まで含めて、地域を高い解像度で理解している私たちだからこそ、都市圏や海外の企業にとってかけがえのない羅針盤となれるのです。資本を呼び込む『水先案内人』、戦略を支える『シンクタンク』、ビジネスを共創する『橋頭堡(きょうとうほ)』として企業に貢献し、唯一無二のパートナーとなる。これは県外資本の流入を促し、大学自身の新たな資金獲得にもつながります。『コスト』と語られる地方大学が、地域に価値をもたらす『ベネフィット機関』へと転換する。私たちの学群が、まずこの地域でそのモデル創りに挑戦したいのです」と古澤教授は熱く語ってくれた。素晴らしい構想である。

 高知工科大学 データ&イノベーション学群の挑戦と古澤教授の熱意は、閉塞感のある現代日本、そして旧態依然とした大学組織に風穴を開けてくれるかもしれない。日本のモデルケースとなることを、心から期待している。

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この記事の著者

角田 仁(ツノダ ヒトシ)

 1989年に東京海上火災保険に入社。主にIT部門においてIT戦略の企画業務を担当する。2015年からは東京海上のIT企画部参与(部長)および東京海上日動システムズ執行役員。2019年、博士号取得を機に30年間務めた東京海上を退職して大学教員へ転じ、名古屋経済大学教授や千葉工業大学教授を歴任した。現...

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です


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