「普通の学校」で生成AIを活用した学びを実現するために必要なこと
続いて、学校におけるGoogleの生成AI導入事例として、三重県立名張青峰高等学校の情報科教諭である向山明佳氏が登壇。「『普通』の学びがどのように変わっていくのかということを知っていただけば」と前置きし、同校の取り組みを紹介した。

ICTを「文具」ととらえ、生徒が自身の判断でICTを活用することを奨励する同校では、AIも同様に「自分のやりたいことを実現するための道具」としている。
AIの導入においては、保護者や教職員への丁寧な説明のほか、ハルシネーション(AIがもっともらしいウソをつく現象)などの注意点を含めたAIの仕組みに関する理解促進、そして教員間ではガイドラインを策定し、正しく使うための情報を共有するところから始めている。そして、使っていくうちに理解が進み「授業で取り組んでよかったこと」などがあれば、職員会議の中で気軽に共有する時間を設けているという。
向山氏が担当する情報Iの授業において、特にユニークな取り組みが「ハルシネーション探し」だ。生成AIを授業で初めて使う際、「『自分の推しについて教えて』と入れてみるように」と生徒に伝えるという。生徒は「推し=自分の好きなもの・こと」についてよく知っているため、生成AIが出力する内容に間違いがあるとすぐに気がつく。その「間違い」をGoogleフォームで集め、クラス全員で共有することで、たくさんのハルシネーションが出てくることを実感することができる。具体的には、1学年約240人で取り組んだところ、100を超えるハルシネーションが集まったという。そうした気づきを踏まえて、「どのようにAIを使うべきか」を考えることが大切だと向山氏は語る。

同校では総合的な探究の時間においてもAIが活用されている。生徒が探究するテーマは多様なため、教員が一人ひとりをサポートすることは難しいというのが現実だ。そこで、テーマ設定での助言や、どこを深掘りすればよいのかなど、よりよい探究活動へのサポートとして、生徒自身が生成AIを活用している。
一方で、使い慣れていない生徒がゼロからプロンプトを入力することは難しいため、プロンプト集を配信して注意点や効果的に使うためのポイントを共有している。

また、一部の3年生が選択する情報デザインの授業では、向山氏1人が30人以上の生徒のレポートに対し、限られた時間で詳細なフィードバックをすることが難しいという課題があった。そこでGemを活用し、向山氏が設定したルーブリックに基づき、AIが詳細なフィードバックを生成するようにした。これにより充実したフィードバックが可能となり、生徒のアウトプットの質も向上したという。

さらに、GeminiのCanvasを使うことにより、プログラミング知識がゼロの生徒でも、自身のアイデアを具体化するアプリケーションを作成できるようになった。英単語学習アプリや中国語のテスト対策アプリ、四字熟語を覚えるゲームアプリ、メイクの色彩を試すアプリなど、生徒は多様なアプリを作成し、創作の楽しさを体験している。その結果、生徒の創作意欲が向上しただけでなく、プロンプトの教え合いが始まり、個性的な作品がたくさん生まれている。また、生徒はクリエイターとしての責任(正確性、社会性、バグ対応など)についても学ぶ機会を得ているという。

最後に向山氏は、AI時代において、生徒が「自分は何をしたいのか」という問いを持ち、その実現レベルを上げ続けること、そして「普通の学校」であっても創作の楽しさと責任を知ることが重要だと語った。なお、向山氏の授業では最後に「ギモンタイム」という、授業で学び、疑問に思ったことを共有する時間を用意しているが、AIに触れた授業では疑問の量が増える傾向にあるという。
「生徒は生成AIをかなり身近な存在としてとらえており、だからこそ、いろいろな疑問が湧き、可能性や心配事についても考えられる。そして、疑問が湧くことで普通の学びが面白くなる。このような学びが普通の学校でできることが、生成AIの素晴らしいところだと思う」と向山氏は述べ、発表を終えた。