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EdTechZineオンラインセミナーは、ICTで変わりつつある教育のさまざまな課題や動向にフォーカスし、最新情報をお届けしているWebメディア「EdTechZine(エドテックジン)」が主催する読者向けイベントです。現場の最前線で活躍されているゲストの方をお招きし、日々の教育実践のヒントとなるような内容を、講演とディスカッションを通してお伝えしていきます。

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EdTechZineオンラインセミナー

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イベントレポート(アクティブラーニング)

社会の「ふつう」とは何か? なぜ従来の教育が変わる必要があるのか? 本質を問い直す

オンラインイベント「社会の『ふつう』をアップデートする」レポート

 社会が大きく揺らぎ、価値観の多様化が加速する今、私たちは子どもたちとどのような学びを共に創っていくべきなのか──。この根源的な問いに向き合うためには、「ふつう」という無意識の枠組みにとらわれず、子どもも大人も「自分ごと」として学びに関わることができる「社会のあり方」も探る必要がある。7月12日に開催されたオンラインイベント「社会の『ふつう』をアップデートする」では、探究学習、インクルーシブ教育、デジタル・シティズンシップの最前線で活躍する3人の実践者を迎え、これからの教育の本質を問い直す対話が繰り広げられた。未来への出発点を共に考える場となった、その模様をレポートする。

登壇者

一般社団法人メディア教育研究室 代表理事 今度珠美(いまど たまみ)氏
今度珠美氏

 19年間にわたり、メディア教育と人権教育の現場で、実践と研究を重ねてきた。年間150校近い学校を回り、外国籍児童が多い学校や特別支援学校など、多様な背景を持つ子どもたちと向き合いながら、デジタル・シティズンシップ、人権問題、AI倫理をテーマにした教材開発・授業実践にも取り組む。教育現場での実体験をもとに、知識だけでなく人権の視点を重視した、情報社会におけるシティズンシップ教育の普及を推進。子どもたちが自らの声を持ち、社会と対話できる力を育む教育を探究している。

一般社団法人「こたえのない学校」代表理事 藤原さと氏
藤原さと氏

 「ふつう」から外れていた子ども時代の経験を原点に、誰もが学び合える環境づくりを目指して活動している。重度障がい児との出会いや、デンマークの学校との交流を通じて視野を広げ、探究学習やプロジェクト型学習(PBL)の推進団体を率いてインクルーシブPBL「FOXプロジェクト」や海キャンプなど、多様な子どもたちが共に活動する場を創出してきた。学びの場における寛容さと自己肯定感の醸成を大切にしている。

中央教育審議会 教育課程特別企画部会委員 野口晃菜(あきな)氏
野口晃菜氏

 一般社団法人UNIVA理事、埼玉県戸田市インクルーシブ教育戦略官を務め、障害科学で博士号。アメリカでの生活経験を通じて、マイノリティを排除する空気感や社会構造への違和感を抱き、インクルーシブ教育の理論と実践を探究。日本におけるインクルーシブ教育実現に向けて、学校のあり方そのものを問い直す視点を提示している。自治体や国レベルでの制度設計と現場の実践をつなぐ活動を展開し、社会モデルの観点から障害や困難を捉える授業開発にも取り組む。「ふつう」の基準をアップデートし、すべての子どもが安心して学べる教育環境の構築を目指している。

※ファシリテーターはEduOps研究所の代表である野本竜哉氏が務めた。

「ふつう」と思われているけれど、そうではないこと

 さまざまな偏見や差別は、その背景に私たちが無意識に抱える「ふつうでない」とみなす感覚から始まることが多い。今度氏は、ヘイトスピーチやAIバイアス、ジェンダーバランスの問題などの根底に「当事者意識」の欠如があることを指摘し、「ふつう」のふるまいが苦手な子どもだった藤原氏、アメリカの白人社会でマイノリティだった野口氏も、それぞれの経験を通じて「ふつう」という概念がいかに人を苦しめるかを語る。

 3人の言葉から浮かび上がってきたのは、「ふつう」とされているものの中にも実は多くの「ふつうではない」現実が埋もれているということだ。それに気づき、問い直すことこそが、今の社会に必要な視点ではないか──。

 ファシリテーターである野本氏の投げかけに対し、まず口火を切ったのは今度氏。今度氏は「ふつうになりたい」と願いながらも、空気を読めず周囲に馴染めなかった中高生時代、その後、美術大学で個性が求められる環境に出会い、「初めて息ができた」と感じた経験を紹介。「学力や容姿など、社会の『スタンダード』によって偏った評価がなされ、多様な才能が埋もれてしまう現実に疑問を感じている」と語った。

 一方で、スタンダードな評価で「よりすぐられた」、トップ校や有名私立校の環境下では、貧困や虐待などの困難にある子ども、障害のある子どもについて想像が及ばないことを指摘。「そうした困難にある子どもとの出会いを通じて、教育の力で将来を支える必要性を痛感した。教材開発にも、現実を知る視点が不可欠だと強く感じている」と述べる。

 一方、野口氏は、インクルーシブな教育環境づくりに取り組む中で、困難さの原因を個人ではなくマジョリティを中心につくられている社会側にある、という「社会モデル」の視点を取り入れた授業開発に力を入れており、子どもたち自身が「ふつうとは何か」を問い直す機会を提供しているという。例えば、左利きの人が右利きに矯正された過去の事例を通して、今の世の中の「ふつう」は誰のためにつくられているのかを考えるというわけだ。

障害の個人モデルと社会モデル
障害の個人モデルと社会モデル

 授業のねらいとしては(1)「ふつう」は人それぞれという理解、(2)自分と世の中の「ふつう」の一致不一致による有利不利、(3)ふつうアップデートの考え方・やり方がわかる、の3点。野口氏は「子どもたちは自分の『困りごと』を起点に、学校のルールや授業のあり方をアップデートする提案を行い、そのうえで誰もが過ごしやすい学校のあり方を模索している。この実践は学校の先生だけでなく、子ども自身がインクルーシブな場をつくる主体であることを示している」と語った。

 そして藤原氏は、自身の「ふつう」が揺さぶられ、インクルーシブな学びの本質に気づいたという、2つの大きな経験を紹介した。ひとつは、自身の子どもがアメリカの公立小学校に通った際、日本の学校で「ふつう」とされる習慣がまったく通用しなかったこと。ロックミュージックをかけて踊りながら始まる学級開き、ユニークなソックスをはくことを競い合うクレイジーソックスデー、お気に入りの枕を持ってパジャマを着て登校し、学校の体育館でみんなで映画を観るパジャマデー、ハロウィンで自分の好きな絵本を持ち、主人公に仮装してパレードをするなど、文化の違いが「ふつう」の概念を根底から揺さぶったという。

 そして、重度の障害を持つ子どもたちや保護者との日常的な対話を通して、世の中の評価や競争のあり方に、むしろ違和感を抱いたことについて話した。そのうえで「すべての子どもに価値があるという信念のもと、偏見やバイアスを取り除いた教育環境の実現を目指し、日々実践を重ねていきたい」と語った。

次のページ
日本と海外の「ふつう」を比較、視点を変えて「ふつう」を見直す

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この記事の著者

伊藤 真美(イトウ マミ)

エディター&ライター。児童書、雑誌や書籍、企業出版物、PRやプロモーションツールの制作などを経て独立。ライティング、コンテンツディレクションの他、広報PR・マーケティングのプランニングも行なう。

※プロフィールは、執筆時点、または直近の記事の寄稿時点での内容です


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