「好き」と「学び」の接点を探るパネルディスカッション
セッション後半は、参加者からの質問に登壇者3名が答えるパネルディスカッション形式で行われた。教員をはじめとした教育関係者からはエデュテインメントに高い関心が寄せられ、多くの質問が集まった。特に注目度の高かった質問を中心に、登壇者の回答を紹介する。

エデュテインメントの必要性は? 相性のよい教科はあるか。
正頭氏:エデュテインメントとは、ずばりモチベーション。教員であればわかると思うが、授業の成果は内容ではなく、子どもたちのモチベーションによって大きく左右されてしまう。モチベーションはこれまで、教員がコントロールしにくい要素だったが、エデュテインメントを導入することで、学びへの入り口のモチベーションを「やる気いっぱい」の状態で固定できる。これにより、授業者が子どもたちの学びをデザインしやすくなる。そのため、相性のよい教科については、やり方次第といえる。
また、学びにおいては間違えることが非常に重要であるが、今の子どもたちは間違いを恐れる傾向にある。エデュテインメントによる楽しさは、子どもたちを夢中にさせることで、彼ら・彼女らが自然と間違いを経験し、そこから学びを得る機会をつくりだせるというメリットもある。
SDGs教育は2030年がひとつのゴールだが、その後はどのようにするべきか。
岡本氏:SDGsの目標達成は2030年までだが、コロナ禍や世界情勢の影響もあり、達成は難しい可能性がある。2030年以降も持続可能な社会・世界をつくっていくという本質は変わらない。サステナビリティやウェルビーイングといった概念は今後も重要であり、持続可能な社会の担い手を育成する取り組みは継続されるだろう。
GIGAスクール構想で1人1台デバイスの導入が進んだが、アマゾンはデバイス販売の企業として、学校でのデバイスによる学習状況をどのように見ているのか。
丸山氏:GIGAスクール構想が進んだ際、当初は家庭用デバイスの販売減を懸念していたが、実際には学校での経験をきっかけに、家庭でもデバイスを使うことが子どもの成長につながると考える保護者が増えた。「目に悪い」「使い過ぎ」といった心配は依然としてあるものの、教育現場での導入が進む中で、家庭での向き合い方を真剣に考える保護者が増えていることを肌で感じている。
子どもが「好き」「やりたい」ということを楽しく学ばせるか、社会に出るのに必要なスキルや知識を楽しく学ばせるか、どちらに重点を置くべきか。
岡本氏:私自身も親として、好きなことを伸ばしたいという思いがある。多様な子どもたちがいる中で、さまざまなきっかけを通して、自分の「好き」や興味関心を知る機会を提供することが重要ではないか。
丸山氏:アマゾンとしては、子どもの「好き」を大事にすることをミッションとしている。社会で必要なスキルも、まずは好きにならないと身につけにくいと考えており、「好き」を見つけるきっかけづくりが大切だと思う。
正頭氏:個人的な意見としては、100%子どもがやりたいことを伸ばすべきだと考えている。社会で求められるスキルは時代とともに変化するため、それらを身につけさせることよりも、時代に合わせて自分で変わっていける「しなやかさ」の方が重要だ。しなやかさを持つためには、好きなものがたくさんあることが不可欠であり、自分の中にある「好き」を大事にしてほしい。
画面の中で済む学習が増えているが、現実世界に結びつけられるのか疑問を感じている。エデュテインメントから探究に結びつけるにはどうすればよいか。
正頭氏:もし画面やラジオを入り口にしたとしても、その先で子どもたちが「調べたい」「つくりたい」「試したい」という感情に結びつけられるかが鍵。子どもたちはデバイスではなく、その中のコンテンツが好きなので、教員や大人が子どものコンテンツへの興味に対して「調べてみようか」「一緒に試してみる?」「つくってみようよ」といった声かけをすることで、探究への入り口を開けることができる。また、探究に必要な時間と環境の保証は大人が用意してあげること。声かけを工夫することで、日常の行動も学びにつながる可能性がある。

非認知能力、やり抜く力の向上に関心がある。エデュテインメントができることや、具体的な事例はあるか。
丸山氏:子どもが「好き」であれば、段階を踏んで深めていく中でやり切る力もついてくる。「やらされる」と続かないが、Amazon Kids+のようなコンテンツでは、「ここまでできた」「次はここまでやろう」といった、子どもをモチベートする仕掛けを工夫している。こうした工夫がやり抜く力を育む上で重要なのではないか。
岡本氏:月に30冊以上本を読んでいる娘を見ていると、子どもを夢中にさせることができれば結果的にやり抜くことにつながると感じている。社会に出れば厳しい目標達成が求められるが、子ども時代に夢中になる仕組みがその準備段階として必要だ。
正頭氏:非認知能力でもっとも重要なのはやり抜く力だと考える。私自身が実践している「やり抜く力」を育てる工夫は「締め切りをつくること」。子どもに「いつまで」という締め切りを示すことで、意外とそこまでがんばってやり切る。
子どもの「やってみたい」を引き出すエデュテインメント
セッションの最後に、正頭氏は「エデュテインメントはまだ発展途上の分野であり、障壁も多い取り組み」としつつも、「学びは究極的に子どものモチベーションがすべてであるという真実がある以上、『子どもをどう夢中にさせるか』という問いに、教育関係者の悩みは集約されている」と語った。そして「エデュテインメントによって子どものモチベーションを固定できれば、日本の教育はさらに加速する可能性があり、工夫の余地はたくさんある」と伝え、セッションを締めくくった。
本セッションでは、エデュテインメントが単なる流行の教育手法ではなく、子どもたちの内発的な学びのモチベーションに働きかけ、「とりあえずやってみる」のハードルを下げ、探究へとつなげるための有効なアプローチであることが示された。
ゲームやデジタルコンテンツなど、さまざまな「入り口」を通して子どもたちの「好き」や「夢中」を引き出せば、そこから探究や必要なスキルの習得、さらには「やり抜く力」といった非認知能力の育成へとつなげていくことができるだろう。学校現場、家庭、企業などがそれぞれの強みを活かし、連携しながらエデュテインメントの可能性を追求していくことが、子どもたちの学びを切り拓く鍵となっていきそうだ。