ICTや生成AIが「公正な学び」実現の鍵になる
冒頭、本イベントの主催者であり、鳥取県民チャンネルコンテンツ協議会 会長/鳥取大学 学長の中島廣光氏が登壇。日ごろより教育現場でICTを活用している現状に改めて光を当てるとともに、これからの教育のあり方を多角的に議論する機会として、本イベントの開催に至った経緯を以下のように説明した。
「私たちは、従来の『平等な学び』という枠組みだけではなく、一人ひとりのニーズに合わせた『公正な学び』の実現こそが、これからの教育改革の鍵であると考えている。ICTや生成AIなどの最新技術は、まさにそのための強力なツールとなる。本日は皆さまとともに、子どもたちが主体的に『考える力』を養い、真に対等な議論の中で学び合う環境を創り出すための契機としたい」(中島氏)

「インクルーシブ教育×生成AI」は何をもたらすのか
続いて、鈴木教諭による「生成AI時代の基礎学力」と題した基調講演が行われた。

鈴木教諭はデジタル教科書を効果的に活用したインクルーシブ教育の実践者としても知られ、多数の関連著書がある一方で、生成AIを活用した先端的な授業にも取り組んでいる。
講演の冒頭で鈴木教諭は、自身も委員として取りまとめに関与し、2024年の年末に改訂版が公表された「初等中等教育段階における生成AIの利活用に関するガイドライン」に言及。小学校における生成AIの活用については「とても、持って回った言い方をしている」とし、全体的に抑制的な印象を与えてしまっているのではないかと指摘する。
さらに鈴木教諭は、このガイドラインのほか、最新の学習指導要領においても、従来の「均一な学び」ではなく、子どもたち一人ひとりの個性や状況に合わせた「公正な学び」を実現するための基盤として、ICTの活用が不可欠とされていることを紹介。こうした前提のもと、まず鈴木教諭は、生成AI以外の「教育におけるICT活用」の意義について解説した。
「なぜ教育現場でICTを活用するのか?」その根底にあるのは、学習の過程で常に繰り返している「入力する→考える→出力する」といった一連の行為において、ICTが最初の「入力する」と最後の「出力する」ことに効果を発揮するという考え方だ。
これらの行為はデジタルだけでなくもちろんアナログの手段もあり、「入力」には教科書や教材のほか、さまざまな提示物が該当し、「出力」にはプレゼンテーションやテスト、レポートなどが該当する。そして、これらの「入力する」「考える」「出力する」のいずれの行為においても、常に苦手意識を持つ子どもが一定数、教室の中に存在する。このうち、ICTは特に「入力」と「出力」の困難さを解消する手段として有効なのだが、それを苦手意識がある児童にだけ適用するのは簡単ではない。

例えば、合理的配慮が必要なAさんのみがデジタル機器等を使おうとすると、周囲から「なぜAさんだけ」という声が上がりがちだ。そこで教師は周囲にAさんが使う理由を説明するものの、結果としてAさん自身が「私だけがそれを使うのは恥ずかしい」と感じ、逆に支援を拒む心理状態に陥ってしまうこともある。それを防ぐために、鈴木教諭は「同じ内容を学ぶ際は複数の学び方を用意し、同時並行で活用することによって、すべての子どもが平等にその環境を享受できる仕組みを作り、それを最大限に活かすべきだ」と指摘する。