そもそも「学習者主体の学び」とは何か?
シンポジウムのスピーカーとして登壇したのは、宮城教育大学教職大学院 特任教授の菅原弘一氏(元仙台市立小学校校長)、東北工業大学 学修支援センター 教授の佐々木克敬氏(元宮城県立高等学校校長)、天童市立干布小学校 校長の多勢弘子氏の3名。
シンポジウムは、コーディネーターの稲垣忠氏が「先生方にとって『学習者主体の学び』とは何か?」と、スピーカーに問いかけるところからスタートした。
教員は子どもの自覚や意思を尊重する
多勢氏は「学習者自身が自覚や意思を持って行動すること」と、考えを述べる。教員の話を聞いて板書を写すだけの授業では、書き写すことに必死な児童が生まれるだけでなく、解説を聞くよりも自分で納得できるまで解きたい児童にとっては苦痛となってしまう。さらに、書字障害(ディスグラフィア)がある児童の中には、タブレットを使ったほうが学びやすい子もいるが、一律の方法を求められる一斉授業だけでは、こうした個別の対応は難しい。
「だからこそ、子どもたちの自覚や意思を尊重し、行動を引き出すことが大切」と多勢氏は語り、子どもが自分で考える時間や方法、場所を用意する重要性を説いた。そのうえで、学習者が自分で達成目標やゴールを決められること、その決めたゴールを達成するために覚悟を決めて取り組む姿こそが「学習者主体」であるとまとめた。
「学習動機」が学びの鍵になる
菅原氏は「『学ぶ』という言葉と『習う・教わる』という言葉があるが、何となく前者のほうが主体的な印象を持つと思う」と、それぞれのイメージを取り上げた。
実際に、前者は具体的な学習内容が決められていない場面で使うことが多く、逆に後者は学習内容があらかじめ決まっていて、相手から指導してもらうことで成立するという側面が強い。しかし、菅原氏は「習う・教わるといった状況でも、学習者本人が『○○をできるようになりたい』と意思を持っていれば十分に主体性はある」とも指摘。
これを踏まえて「大切なのは『知りたい、学びたい、自分にとって学びは大事だ』といった『学習動機』が形成されていること。これにより、授業の中だけではなく、学校外でも継続して探究的に学んでいくことができる。加えて、学校という場では関わり合いも大切にしながら主体的に学ぶことになるのではないか」とした。
振り返りから次の課題につなげるサイクル
佐々木氏は、学習指導要領や大学入学共通テストで変化が起きている背景について、「OECDの調査結果によれば、日本の高校生は規律を守って人の話をよく聞くものの、自分から進んで課題を発見し行動する力が足りないとの指摘がある。このままでは少子高齢化社会や国際社会に対応できないため、主体性や課題発見力を育てる学習が必要とされている」と解説。
これまでの授業では、教員の指示に従って提出課題や問題、実習をこなし、その成果はテストで合格点を取ることで「プラス」となっていた。しかし、ここ数年は個人およびグループで問題を解き、課題を解決するなどして、自らの学習の成果をみんなの前で発表し振り返ることが「プラス」になるという、「価値観の変容」が起きている。この流れを踏まえて「学習者主体の学びとは、学ぶことに興味や関心を持ち、自らのキャリアの方向性と関連づけながら、責任と見通しを持って多面的に取り組み、学習活動を振り返って次の課題につなげる学びである」とした。