校務DXの現状と課題
まずは、現在の校務情報化の問題・課題について、「働き方改革」「データ連携」「レジリエンス」の3つの観点に分けて10項目の問題を整理していきます。(参考:文部科学省「GIGAスクール構想の下での校務DXについて~教職員の働きやすさと教育活動の一層の高度化を目指して~」)
働き方改革の観点:5つの問題
(1)校務処理の多くが職員室に限定され、働き方に選択肢がない
多くの教育委員会では、情報の秘匿性や強固なセキュリティ環境構築のため、校務システムを自前サーバーに構築するオンプレミス形式で構築し、職員室に設置された校務用端末からアクセスする形で運用しています。
そのため、教職員は場所に縛られ、柔軟に校務を処理するのが難しく、災害や感染症などで出勤が制限されるような緊急時の校務継続が困難です。
また、校務支援システムで行う文書決裁処理を校外で行うことができないため、管理職の出張中は校務が停滞してしまいます。そのほか、軽微な校務処理のために長期休業中も出勤するなど、ライフスタイルに応じた柔軟な働き方が求められている現状にそぐわないものとなっています。
これらに加えて、職員がUSBメモリを校外に持ち出すことで情報漏洩のリスクが高まってしまうことや、持ち帰り仕事の実態を確認できず、健康管理・勤務時間管理が困難になるといった問題もあります。
以上のことから、適切な勤務時間管理等を前提とした校務のロケーションフリー化により、働き方の選択肢を増やし、安全かつ働きやすい環境を実現することが求められます。
(2)紙ベースの業務が主流
多くの学校では、校務に関わる文書や通知表所見などを校務用端末で作成した後、 印刷して決裁を受け、手書きでの修正指示を再度反映するなど効率が悪い運用をしています。
校務のクラウド環境を整備することで教職員間での共同編集が可能となれば、文書の修正プロセスを大幅に効率化し、各自の時間を有効活用できます。
(3)既存システムと汎用のクラウドツール機能の整理
現状、汎用のクラウドツールを十分に活用できていない学校や、セキュリティポリシーがクラウド活用に対応していない自治体も数多く存在します。既存の統合型校務支援システムの中で提供されてきたグループウェア機能や、学校の管理運営に関する業務については、汎用のクラウドツールにより代替・実施が可能になっています。この汎用のクラウドツールには、職員室以外の場所からでもアクセス可能であり、幅広い支援スタッフや学校関係者との連絡にも利用できます。
このように、汎用のクラウドツールは既存の統合型校務支援システムにはない利点を持っているため、それぞれの機能を整理し、積極的に活用していくことが有効です。
(4)教育委員会ごとにシステムが大きく異なり、人事異動の際の負担が大きい
市町村教育委員会では、それぞれ異なる校務支援システムを導入している例が多いのが現状です。そのため教職員の異動が発生すると、新しいICT環境や、校務処理の手続きなどの業務フローに対応するための負担が大きくなっています。
(5)校務支援システムの導入コストが高く小規模な自治体の教育委員会で導入が進んでいない
校務支援システムを自前サーバーに構築するオンプレミス形式は、初期の導入コストが高いと言われています。さらに多くの場合、学校数に応じてシステム利用料が設定されます。
そのため、小規模校を多く抱える教育委員会では導入コストを上回るメリットが感じられにくく、結果として校務の情報化の恩恵を受けることができていません。
また、小規模自治体にとっては導入に関する事務手続きの負担も大きくなっています。
データ連携の観点:4つの問題
(1)帳票類の標準化が道半ば
一般財団法人 全国地域情報化推進協会(APPLIC)の取り組みにより、校務支援システムが扱うデータの一部は、システム間で移行を可能とする標準化が行われています。
一方で、各教育委員会・学校が 帳票等を過剰にカスタマイズした結果、標準化されたデータの互換性が失われ、転校時などに児童生徒のデータを引き渡すことが難しいケースが多く生じています。
また、通知表などの公簿ではない帳票もカスタマイズにより調達コストが増え、校務支援システム入れ替え時のデータベース移行が困難になっています。
(2)学習系データと校務系データとの連携が困難
現在、GIGAスクール構想の実現やクラウド活用により膨大な学習系データが生成されています。しかし、学習系と校務系ネットワークが分離されている場合、円滑なデータのやり取りができず、データを活かした教育の高度化が難しいのが現状です。ネットワーク間に中間サーバーを設置した連携方法もありますが、コスト負担が大きく、リアルタイムの連携も困難です。中間サーバーは特定のデータのみを通す前提で構築するため、対象となるデータを追加するためにはシステム変更が必要となります。
また、校務系と学習系の端末を使い分ける場合が多く、整備コストや業務負担増加の一因となっています。
(3)教育行政系・福祉系データ等との連携が困難
文部科学省では、教育委員会や学校がオンラインで調査に回答できるシステム「EduSurvey」や児童生徒がオンラインで学習やテストを受けられるプラットフォーム「MEXCBT」の開発・運用など、教育データの標準化を行っています。
今後は、それらのシステムから生成されるデジタル情報と校務支援システムの連携について検討する必要があります。
また、首長部局が保有する福祉系データと連携して、支援が必要な児童生徒の早期発見・支援につなげることも困難です。
(4)ほとんどの自治体で学校データを教育行政向けに可視化するインターフェイスがない
ほとんどの自治体で、教育に関するさまざまなデータを学校レベルで統合・可視化するダッシュボードがなく、校長の学校経営改善や、教育委員会による学校経営指導などを高度化・効率化していくうえで課題となっています。
レジリエンスの観点:大規模災害により業務の継続性が損なわれる危険性が高い
最後の問題として、校務支援システムは災害対策が不十分な自前サーバーで稼働しており、大規模災害により業務の継続性が損なわれる危険性が高いことが挙げられています。
ICT基盤がオンプレミスで構築されている場合、大規模災害によって学校施設や教育委員会の庁舎などが損壊した際に、校務系データが喪失する危険性が高く、災害後の学校再開の妨げになります。
実際、東日本大震災の被災地域における学校の一部(30校)への調査[※1]によると、そのうち40%が震災によりデータを損失したということがわかっています。
[※1]出典:総務省「災害時における情報通信の在り方に関する調査」(平成24年3月7日)