生活者視点で、豊かな情報の学びが広がる
実際に同校は、情報関連でどのような授業を展開しているのだろうか。例えばティーファブワークスの支援で行った、マイコンボードを使ったプログラミングでは、「自分の生活の中の困りごとを解決するしかけ」を作った。「身近なことを自分がシステム化できるとなると、シンプルなものでも発想がとても豊かで、面白いアイデアがたくさん出ました。発表は大爆笑で盛り上がり、とても楽しそうでしたね」と福井先生は話す。
具体的には「お兄ちゃんが勝手にアイスを食べちゃうから、冷凍庫を空けたら『1つまでだよ』と言う」「洗濯物の外干し中に雨が降って水を感知したら『取り込みます』と声をかける」「ゴミ捨て場にカラスが来たら、LEDがピカピカ光って音を出して威嚇する」などのアイデアが出た。また、家庭科で行った高齢者体験を元に「段差がある場所に人が来たら、音を出して気をつけるように知らせる」というアイデアもあったそうだ。
いずれも生活に根ざした自然な発想で、家庭科の教員が授業を行うからこそ引き出された発想のようにも感じられる。
また、プログラミング導入以前から行っている情報リテラシーに関する学びでは、「ゆで卵の殻をうまくむく方法」をWebで検索し、実際にゆで卵を作り検証して発表するという授業を行っている。これも課題設定が生活者目線で非常に面白い。
一般的にプログラミングを含む情報の授業では、生徒がテクノロジーを「自分ごと」として捉えられるような状況設定に苦労しているケースが多いと感じているのだが、同校の学習ではそれがとても自然に実現できていて、視点の置き方として学ぶべきことが多い。
なお、新しい技術の学びにも積極的で、2023年度からみんなのコードによるカリキュラムにより、3年生では生成AIを活用した学習も行っているということだ。
「女子はプログラミングが苦手」なんてことはない!
プログラミングを学ぶことは「試行錯誤して問題解決をする力」が身につくのはもちろん、身近な技術に気づく機会にもなる。「例えばエアコンのリモコンをピッと押したら電源がつくような、普段の生活では当たり前で気にしないことの裏側を知るきっかけになり、『なぜつくのだろう?』という見方が育つと感じています」と堀場先生は指摘する。
プログラミングに対する生徒の反応は非常に良いという。マイコンボードを使ったプログラミングでは、教員が教えなくとも、LEDを光らせる場面で生徒が自主的にどんどんアレンジしてクリエイティビティを発揮し、Scratchでのプログラミングでは授業で基礎的なことしか扱わなかった場合も、得意な生徒が自主的にゲームを作る姿が見られるそうだ。先生方は生徒の様子を次のように語る。
「得意な生徒が1人いると『わぁすごい! 何それどうやるの?』と周りが聞いて、できる輪が広がっていくんですよね。学校という場での学びは教員だけが教えるものではなく、生徒たちから作られていくことを体感しました」(福井先生)
「3年生の授業で、Scratchを使ってじゃんけんゲームを作る長いプログラムを扱った際、授業をやる前は、きっと『できない』とか『嫌だ』と言う生徒がいるだろうと勝手に想像していたんです。でも、実際にやってみるとみんなできるし、楽しそうに取り組んでいて驚きました。教えた以上のことをやっている生徒もいて、周りも『やってみたい!』と遊び感覚で学び合っていました」(堀場先生)
「プログラミングを楽しみにしている生徒もいて、『次回はプログラミングだよ』と言うと『やった!』『何をするんですか?』という声が上がります。生徒自身はあまり情報分野にジェンダーギャップを感じていないんですよね。むしろ教員側が感じているのだと思います」(遠山先生)
中には苦手意識がある生徒もいるそうだが、小学校など過去にうまくできなかった体験が原因であることが多く、中学校でわかりやすく楽しく学び、達成感を得ることにより、その意識が変わるきっかけになっているようだ。