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管理職がブレーキをかけてはいけない――校長含め先生全員がプログラミング教育を楽しむ杉並区立天沼小学校

杉並区立天沼小学校 校長 松野泰一氏インタビュー

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2021/01/15 07:00

 2020年度は新学習指導要領が実施され、小学校では「プログラミング教育元年」として新たなスタートを切るはずであった。しかし、緊急事態宣言にともなう休校措置により授業時間が例年より大幅に減ったことで、多くの学校がその対応に追われ、プログラミング授業を順調に始められなかった学校も少なくない。こうした未曽有の事態の中、プログラミング教育をどのように取り入れていくべきか。そもそもプログラミング教育の目的とは何か。学校管理職の立場から、東京都・杉並区立天沼小学校の校長である松野泰一氏にお話しいただいた。松野氏は、平成30、31年度の東京都プログラミング教育推進校に指定された天沼小学校で先頭に立ってプログラミング教育を実践し、東京都教育委員会研究推進団体である「東京都小学校プログラミング教育研究会(都小プロ)」の会長代行も務めている。

杉並区立天沼小学校 校長 松野泰一氏
杉並区立天沼小学校 校長 松野泰一氏

BASICでプログラムを組んでいた経験も

――最初に、天沼小学校について教えていただけますか? 比較的新しい学校と伺っています。

 杉並区立天沼小学校は統合によって平成20年に開校したため、校舎も比較的新しく、校内すべての場所でWi-Fiがつながるなどネットワーク環境も整っています。児童数は約650名。平成29年に東京都の情報教育推進校、平成30、31年度のプログラミング教育推進校に指定され研究を行ってきました。

 端末の整備環境は、現在、3年生以上に1人1台のWindowsタブレットがあり、1、2年生用にはパソコン室のパソコンをリプレースしたタブレットPCが40台、特別支援学級にはiPadを1人1台用意しています。予備機を含めると500台ほどタブレットPCがあり、GIGAスクール構想前としては整備が進んでいた学校と言えるでしょう。

 私が着任した平成30年度から2年間、プログラミング教育推進校として本格的な研究活動が始まりましたが、推進校になる以前から、天沼小学校は杉並区のICT活用の先進校としてプログラミング以外のICT活用にも取り組んでいました。

 プログラミング教育推進校としては、プログラミング教育の必修化に向けて、どのように取り組むかを研究するパイロット校としての役割を担っていました。2カ年の予算が約80万円あったので、プログラミングロボットや書籍などの教材を整備したり、講師の先生を呼んで研究を進めたりしていました。

――松野先生は前任校でも同様にプログラミング教育を実践されていたのでしょうか。

 いえ、前任校では環境も整っていませんでしたし、それ以前は教育委員会に在籍していた期間も長かったので、実践は本校が初めてです。ただ、自分の趣味の一環として30年以上前にBASIC(注:プログラミング言語の1つ)でゲームを制作した経験や、担任時代にプログラミングで児童の座席指定ルーレットをつくったことがありました。そのため、プログラミングの知識はある程度持っていました。

 また、指導経験はないものの、「micro:bit」などのプログラミング教材にはもともと興味があり、個人的に試すこともよくありました。

プログラミング教育は6年間を通した計画を立てる

――プログラミングのご経験があったことで、抵抗なく取り組めたのですね。天沼小学校では、具体的にどのようなプログラミング教育を行っているのでしょうか。

 プログラミング教育は6年間を通した計画をきちんと実践していくことが大切だと考えています。本校の1、2年生は「プログラミング的思考」の初歩として、コンピューターを使用しない教材を使います。具体的には、ロボット教材の「PETS(ペッツ)」や「True True(トゥルートゥルー)」などで、自分の出した命令通りにモノが動く体験をします。そのほか、絵本『ルビィのぼうけん』や、NHK for Schoolの番組「Why!?プログラミング」を活用した実践も行っています。

 PETSなどのロボット教材の良さは、実物が目の前で命令した通りに動くことです。今の子どもたちは画面上でモノが動くのは当たり前なので、実際のモノが動くことで「おー!」と大きな感動を味わえるのです。

 1、2年生での経験を経て、3、4年生では「Scratch」や「Viscuit(ビスケット)」などのビジュアルプログラミングに入ります。そして、4年生後半から高学年にかけては、ロボットやドローンを動かすプログラミングに取り組みます。Scratchはほかのプログラミング教材と操作が似通っているため、スムーズに移行できますね。

 と言っても、ただロボットやドローンを動かすだけではありません。総合的な学習の時間の単元として、「障がい者に優しいロボットに必要なことは?」「天沼の街を良くするためにできることは何だろう?」などの課題解決を目指します。例えば「ドローンを飛ばして街中をパトロールするにはどうすればいいだろう?」という課題のシミュレーションとして、ドローンのプログラミングを授業に組み込んでいます。

プログラミング教育を後回しにしない

――2020年度は「プログラミング教育元年」と言われていましたが、新型コロナウイルスの影響による一斉休校で本来の予定が大きく変わってしまいました。教育現場には大きな混乱があったと思います。

 本年度は、まずは通常の教育活動に戻すことが優先されてしまいがちで、プログラミング教育どころではない学校が多いのかもしれません。一方で、以前からプログラミング教育を行っていた学校は、すでに教育課程の中に組み込まれているため、6年間の流れの一環としてプログラミング教育を例年通り実施しています。

 本校を例に挙げると、1、2年生でロボット教材を使って体験しているからこそ、3年生でビジュアルプログラミングができるのであって、時間がないことを理由にやらないと、どんどん後回しになってしまいます。高学年になったときに、「身の回りの課題を解決するためのロボットづくり」などができなくなってしまうのです。

――では改めて、小学生でなぜプログラミング教育を実施する必要があるのか。松野先生の考えをお聞かせください。

 まずは「プログラミング的思考」です。よく挙げられるキーワードですが、いまだに「コーディングができる力」のような間違った解釈をされていることもあります。子どもたちの日常生活の中で、実は「順次」や「反復」「条件分岐」はどこにでも存在しています。普段は意識することなく行動していますが、プログラミング的思考を身に付けることで、もっと効率的に考えて実行できる「段取り力」とも言うべき力が育まれます。

 この段取り力はものすごく大事なことです。とある飲食店で、店長さんが「1つ片付けてまた戻るを何度も繰り返すのではなく、まとめて片付けて戻ってくればもっと効率的にできる」ということを店員さんに指導していたのを見たときに、まさに「これだ」と思いました。手当たり次第にやるのではなく、段取りを考えて行動することが身に付くと、日常生活や社会の中で活かせるのではないでしょうか。

 そしてもっと大切なのは、これからの情報化社会において、プログラミングの価値やコンピューターを活用することの良さを子どもたちに学んでほしいということです。

――確かに「コンピューターはこういうものだ」ということを、子どものときに理解しておくことは、今後大切なことですね。

 はい。子どもたちに「コンピューターは、お家に何台ある?」と聞くと、多くの子は1台や2台と答えますが、実は炊飯器や冷蔵庫の中にも入っている。コンピューターの概念が、もっと生活の中に入り込んでいることを意識してほしいのです。例えば「人が部屋に入ると、電気がつく」のもコンピューターの働きであること、それがプログラミングで動いていることがわかるだけで、ずいぶんとコンピューターを身近に感じられるのではと思います。


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著者プロフィール

  • 相川 いずみ(アイカワ イズミ)

     教育ライター/編集者。パソコン週刊誌の編集を経て、現在はフリーランスとして、プログラミング教育やICT教育、中学受験、スマートトイ、育児などの分野を中心に、取材・執筆を行っている。また、渋谷区こどもテーブル「みらい区」を発足し、地域の子ども達に向けたプログラミング体験教室などを開催している。一児の...

  • 森山 咲(編集部)(モリヤマ サキ)

    EdTechZine編集部所属。映像系美大生、組み込み系ソフトウェアエンジニアを経て2016年10月に翔泳社へ入社。好きな色は青色全般。

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