図書室から階段までフル活用! アイデア満載のプロジェクションマッピング
2024年3月、できあがったプロジェクションマッピングの作品は、土小学校の校舎内のさまざまな場所で披露された。休み時間にはほかの学年の児童も訪れ、作品を楽しんだ。作品に興味を持った6年生からは「どんなふうに作ったの?」と質問を投げかけられることもあったという。
「多様な作品が生まれた。例えば、階段の踊り場にある角の空間を生かし、平面のアニメーションを立体的なピアノの鍵盤に見せているグループもあった。このグループは、自分たちでピアノを演奏して録音し、投影されたピアノが演奏しているような演出をしていた」と、井上教諭は児童の作品を解説する。
ほかにも学校の図書室を使い、実物の本との位置を合わせて、植物の本の中から蝶や蜂が出てくるストーリーを作ったグループもあった。
下級生から人気があったのは「お化け屋敷」だ。土小学校には「ふるさと資料室」と名づけられた資料室があり、「そこをお化け屋敷として使ったら面白いのでは」という児童のアイデアから実現した。
「ここでは血のついた手形を模した絵を障子に映し、『ババババッ』といった効果音を流し、背景は『ドドドドド』と手書き文字の効果を使い表現していた」という凝りようで、怖くて泣いてしまう1年生もいた。しかし、翌日も訪れて「お化け屋敷がまた見たい」とリクエストしてきたそうだ。
プロジェクションマッピングは「相手意識」を持って取り組める
今回のプロジェクションマッピングを使った授業について、校長の梅津健志氏(取材当時)に話を聞いたところ、「児童は、授業のねらいであった『まんがの方法を取り入れて、見ている人の気持ちを引きつける』ということをしっかり理解して取り組み、プロジェクションマッピングで表現しやすい場所を考えながらプログラムを組んでいた。自分は何をしたいのか、そのためにはどのように考え、作っていけばよいのかということを、児童の中でちゃんと一致させた状態で進められていた」と、成果を語った。
また、梅津氏は「プログラミング教育によって、効率よく指示命令を出していくアルゴリズム的な思考を持つことは、大人になってからのさまざまな仕事にも役立つだけでなく、AIやコンピューターが進化するこれからの世の中ではますます重要になる」とし、プログラミング教育の大切さを述べた。
井上教諭は授業を振り返り、「まんがの方法と、図工の教科における『育てたい資質・能力』がベストマッチしていた。授業を進めていく中で、児童から『1年生も見るなら、もうちょっと柔らかい表現がいいんじゃないかな』といった発言が出るなど、相手意識を持ちながら学習に取り組んでいた姿が多く見られた」と話す。
さらに「最初に『自分たちは、誰に見せたいのか』という目的を持たせたからこそ、そうした話し合いが生まれていき、課題解決につながった。自分たちが作ったプロジェクションマッピングを見てもらい、相手に喜んでもらえたことは、作った児童たちにとっても励みになり、非常によい影響を与えた」と、プロジェクションマッピングを発表に活用したことへの意義を語った。
また井上教諭は、プログラマッピングについて「国語や図工との相性がよいので、今回のような実践は多くの学校で取り組みやすいと思う。さらに発展的な活用をするなら、総合的な学習の時間をベースに各教科と組み合わせることをおすすめしたい。例えば『総合と社会』であれば、地域のお店でプロジェクションマッピングを表現するなど、組み合わせることで地域貢献や街作りなどにも活用できる」と話す。
今回の授業の後、児童からは「本気でやったからこそ、本気で怖がってもらってよかった」「いろいろな人が見てくれてうれしかった」といった意見が多数寄せられた。子どもたちが見る人のことを考えて本気で取り組み、結果として誰もが楽しめる作品を作る経験ができる。プロジェクションマッピングは、そんな可能性を秘めた手法のひとつと言えるだろう。