プロジェクションマッピングでプログラミングの表現方法を身につける
授業設計を行う際には、さまざまな手法がある。特に、GIGAスクール構想以降は児童生徒に1人1台の端末が行き渡ったことで、ICT活用の幅が格段に広がった。その中で注目されているのがプロジェクションマッピングの活用だ。
プロジェクションマッピングについては、校舎の壁面に映し出したり、プログラミングで作った作品をプロジェクションマッピングとして公開したりと、これまでにも全国の学校でさまざまな実践が発表されている。
2024年3月13日から無償公開されている「プログラマッピング」は、エプソン販売とユニティが共同開発した教育向け映像制作アプリだ。小学校低学年でも操作しやすいビジュアルブロック型のプログラミングによって、プロジェクションマッピングのコンテンツを簡単に制作することができる。監修を放送大学の中川一史教授と佐藤幸江客員教授が行い、複数の小学校における実証授業で改良を重ねてきた。
柏市立土小学校の井上昇教諭は「児童にプログラミングを使って表現する方法を身につけてもらいたい」と考えていた際に、このプログラマッピングと出会った。もともとScratchを使ったプロジェクションマッピングの経験はあったが、「5年生の国語の単元『まんがの方法』における漫画を面白くするための効果と、図工の『空間を生かす』ねらいを教科横断的に組み合わせたら面白い授業ができるのでは」と考え、プログラマッピングを使い、国語と図工を組み合わせた授業計画を立てていった。
井上教諭は「授業を設計する際に『プログラミングをしたい』ではなく、あくまでツールとして『プログラマッピング』が使えるという発想から取り組めたため、教科のねらいを達成しやすかった。表現方法としても、プロジェクションマッピングというコンテンツ自体がとても魅力的だった」と話す。実際にプログラマッピングを使ってみたところ、Scratchでとまどってしまうようなプログラミング初心者の児童でも問題なく進めることができ、プログラミングを得意としない教員でもサポートしやすかったことを利点として挙げている。
全11時間の単元で小学校を盛り上げるプロジェクションマッピング作りに挑戦
井上教諭は授業計画で以下2つのねらいを設定した。
国語
「まんがの方法」とその効果について、自分の考えを持つ。教科書に書かれている7つの漫画の表現技法について学び、その表現方法を自分の好きな漫画や友だちが選んだ漫画に書かれている表現方法と比較し、自分の考えを深めていく。
図画工作
造形遊びをする活動を通して、材料や場所、空間などの特徴をもとに造形的な活動を思いつくことや、構成したり周囲の様子を考え合わせたりしながら、どのように活動するかについて考える。
「児童にとって、自分たちが選んだ『まんがの方法』がどのような効果を示すのかを表現する手段として、プロジェクションマッピングが適している。また、作った作品をプロジェクターで映し出すことは、空間の特徴を取り入れた活動になる」と考えた井上教諭は、国語5時間、図画工作5時間に発表の1時間を加えた、全11時間の計画を立てた。
前半の5時間は国語で授業を実施。最初の授業では、まず学習のねらいを児童に伝えたうえで、「直前に6年生がScratchを使って披露したプロジェクションマッピングを例に挙げ、『自分たちもやってみたい』と思えるように工夫した」という。さらに井上教諭は、5年生はもうすぐ6年生を送り出す立場であること、そして次年度には自分たちが最高学年になるということを改めて意識させ、児童のモチベーションを高めていった。その後、学校として児童に「土小学校を盛り上げるためのデジタルイルミネーションを作ってほしい」と正式に依頼した。結果、児童はとても乗り気になり、授業に取り組んでいった。
2時間目からは「まんがの方法」にどのような表現方法があるのか、教科書や漫画からその効果を考えていく授業を進めた。そして、後半5時間の図工の授業では「図工の目的として『空間を生かす』ことをねらいとしていたので、児童は実際に校舎を歩きながら、プロジェクションマッピングの投影に適した空間を探していった」という。
そうした準備を経て、いよいよプログラマッピングを使い、プロジェクションマッピングの制作を行った。まずは「ふきだし」や「手書き文字」といった漫画の表現方法を取り入れることでどれほどの変化が生まれるかを、児童が実際に実験をして試すところからスタートした。その後、本番投影をするにあたり、実際に自分がイメージしたものを学校内の場所で映すためにはどのようにプログラミングすればよいかを考え、制作していった。
こうした授業の過程で、井上教諭が予想していなかったことが起きた。5年生の76名は、当初個別にアイデアを考えて制作しており、井上教諭も76個の作品ができあがると思っていた。しかし、児童は自然とグループになって活動を始め、結果として16組のグループが誕生した。その際、井上教諭から声をかけたわけではなく、「アイデアが似ているから、協力して面白いものを作ろうよ」といったように児童が声をかけ合い、自然とグループができあがっていったという。まさに、協働的な学びが自然に生まれる時間となっていったのだ。
図書室から階段までフル活用! アイデア満載のプロジェクションマッピング
2024年3月、できあがったプロジェクションマッピングの作品は、土小学校の校舎内のさまざまな場所で披露された。休み時間にはほかの学年の児童も訪れ、作品を楽しんだ。作品に興味を持った6年生からは「どんなふうに作ったの?」と質問を投げかけられることもあったという。
「多様な作品が生まれた。例えば、階段の踊り場にある角の空間を生かし、平面のアニメーションを立体的なピアノの鍵盤に見せているグループもあった。このグループは、自分たちでピアノを演奏して録音し、投影されたピアノが演奏しているような演出をしていた」と、井上教諭は児童の作品を解説する。
ほかにも学校の図書室を使い、実物の本との位置を合わせて、植物の本の中から蝶や蜂が出てくるストーリーを作ったグループもあった。
下級生から人気があったのは「お化け屋敷」だ。土小学校には「ふるさと資料室」と名づけられた資料室があり、「そこをお化け屋敷として使ったら面白いのでは」という児童のアイデアから実現した。
「ここでは血のついた手形を模した絵を障子に映し、『ババババッ』といった効果音を流し、背景は『ドドドドド』と手書き文字の効果を使い表現していた」という凝りようで、怖くて泣いてしまう1年生もいた。しかし、翌日も訪れて「お化け屋敷がまた見たい」とリクエストしてきたそうだ。
プロジェクションマッピングは「相手意識」を持って取り組める
今回のプロジェクションマッピングを使った授業について、校長の梅津健志氏(取材当時)に話を聞いたところ、「児童は、授業のねらいであった『まんがの方法を取り入れて、見ている人の気持ちを引きつける』ということをしっかり理解して取り組み、プロジェクションマッピングで表現しやすい場所を考えながらプログラムを組んでいた。自分は何をしたいのか、そのためにはどのように考え、作っていけばよいのかということを、児童の中でちゃんと一致させた状態で進められていた」と、成果を語った。
また、梅津氏は「プログラミング教育によって、効率よく指示命令を出していくアルゴリズム的な思考を持つことは、大人になってからのさまざまな仕事にも役立つだけでなく、AIやコンピューターが進化するこれからの世の中ではますます重要になる」とし、プログラミング教育の大切さを述べた。
井上教諭は授業を振り返り、「まんがの方法と、図工の教科における『育てたい資質・能力』がベストマッチしていた。授業を進めていく中で、児童から『1年生も見るなら、もうちょっと柔らかい表現がいいんじゃないかな』といった発言が出るなど、相手意識を持ちながら学習に取り組んでいた姿が多く見られた」と話す。
さらに「最初に『自分たちは、誰に見せたいのか』という目的を持たせたからこそ、そうした話し合いが生まれていき、課題解決につながった。自分たちが作ったプロジェクションマッピングを見てもらい、相手に喜んでもらえたことは、作った児童たちにとっても励みになり、非常によい影響を与えた」と、プロジェクションマッピングを発表に活用したことへの意義を語った。
また井上教諭は、プログラマッピングについて「国語や図工との相性がよいので、今回のような実践は多くの学校で取り組みやすいと思う。さらに発展的な活用をするなら、総合的な学習の時間をベースに各教科と組み合わせることをおすすめしたい。例えば『総合と社会』であれば、地域のお店でプロジェクションマッピングを表現するなど、組み合わせることで地域貢献や街作りなどにも活用できる」と話す。
今回の授業の後、児童からは「本気でやったからこそ、本気で怖がってもらってよかった」「いろいろな人が見てくれてうれしかった」といった意見が多数寄せられた。子どもたちが見る人のことを考えて本気で取り組み、結果として誰もが楽しめる作品を作る経験ができる。プロジェクションマッピングは、そんな可能性を秘めた手法のひとつと言えるだろう。