セミナー参加者の半数が「現役のICT支援員」
一般社団法人日本教育情報化振興会(JAPET&CEC)は、教育工学の知見をもとに、教育の情報化に関する研究開発と、その成果の普及推進活動、提言・提案活動を行っている。その中の教育ICT課題対策部会は、今学校現場で起こっている課題を取り上げ、解決に向けて、学校や企業、団体の垣根を越えて解決策を考え、実現の主題を模索する部会である。
今回のオンラインセミナーで司会を務めた、株式会社ハイパーブレイン 取締役の大江香織氏は「現状、学校でのICT活用の最前線にいるICT支援員に新しい知見を届ける術がほとんどない。ICT支援員の仕事がもっと評価され、環境を整える必要がある。今回は400名ほどあった申し込みの半数以上がICT支援員からだった。関心が高いことを肝に銘じて開催する」と、セミナーの冒頭で趣旨を語った。
さらに、国際大学GLOCOM 主幹研究員/准教授の豊福晋平氏がコーディネーターを務め、ICT支援員の課題解決に取り組む3人の講師として、合同会社かんがえる 代表の五十嵐晶子氏、株式会社NEL&M 代表取締役の田中康平氏、株式会社ラインズオカヤマ 営業企画本部長の難波真由美氏を紹介した。
ICT支援員を取り巻く3つの大きな課題
セミナーでは最初に、田中氏がICT支援員を取り巻く現状を解説し、問題を提起した。
田中氏はまず、現在進行中のGIGAスクール構想に触れ「全体像の中で、ICT支援員として果たすべき役割、業務、領域を考えていきたい」と提案した。GIGAスクール構想以前のICT支援員の業務は、教員への研修や情報提供、学習者である児童生徒への研修や操作サポートなどだった。しかし、1人1台環境が整備された後、ICT支援員に求められる守備範囲は大きく拡大した。田中氏が問題として挙げたのは「スキルと業務のアンバランス」「育成や管理体制の不備」「ICT支援員への給与や待遇に関わる予算」の3点だ。
「1人1台環境が全国に広がったことで、ICT支援員配置のニーズが高まり、業務委託をする自治体が増えた。しかし、育成やマネジメントが後手後手になり、ICT支援員が苦しい思いをしている一方、学校もどのようにコミュニケーションをとればよいのかわからないといった問題も多発している」と現状を訴えた。
予算については「一部の理解ある自治体以外、現在のICT支援員の雇用条件は、業務内容に給料が見合っていない」ことを問題とした。また、1年間の嘱託職員や期間限定の非正規雇用という枠組みで採用するケースがあるため、労働環境の面でも多くの問題が発生しているという。
田中氏は、こうした課題の背景として「全体像を見てマネジメントできる人がいない」と指摘する。その上で「学校のICT支援に対して必要なスキルが評価されておらず、現在まで業務の量と範囲だけが足し算され続けている。嘱託職員や非正規雇用職員に準ずる給与水準で本当に妥当か冷静に考えてほしい」と、採用する行政に向けて伝えた。
また、受託事業者のマネジメント能力も課題のひとつだ。学校文化や教育課程に知見のない営業担当者が主導する場合、安請け合いしてしまうことも多々あるという。その上、1人1台環境における教育現場のニーズが多様化されたことで、本来の学習者である児童生徒の目線からの考察が欠けており、現場もニーズを把握していないといった問題もある。
さらに、GIGAスクール構想環境特有の課題として、田中氏は「ICT関連領域が広範囲化・高度化したことで、昔の常識が通用しなくなった。各領域に専門スキルを持った人や組織を配置し、役割を分担することが必要だ」と語る。そして「子どもたちの発達段階や認知特性などを考慮し、教育に関する専門的な知見を踏まえなければ、効果的にICT活用をすることはできない」と続けた。
学校現場におけるICT活用は、教育ICT関連のソフト・機器の販売事業者の提案や知見よりもどんどん先に進んでいる。「だからこそ、適切な観点と経験を持ち、客観的に把握しているICT支援員がいるなら、生かすべきだ」と田中氏は訴えた。