新学習指導要領で、中学「技術」と高校「情報」は何が変わったのか
──2021年度施行の学習指導要領により、中学校の「技術」におけるプログラミング学習が拡充されました。具体的にはどのように変わったのでしょうか。千石:技術・家庭科の技術分野は4つの内容に分かれています。木材を中心とした加工などを学ぶ「A 材料と加工の技術」、作物を適切に育てる方法などを学ぶ「B:生物育成の技術」、電気を中心としたエネルギーによってさまざまなものを動かし、その仕組みや安全な利用方法などについて学ぶ「C:エネルギー変換の技術」、そしてコンピュータやプログラミングについて学ぶ「D:情報の技術」です。
A・B・Cの内容については、平成20年告示の学習指導要領と、現行の新学習指導要領では順番や内容が変更されています。そして、情報教育に関する「D:情報の技術」には特に大きな変更が加えられました。
具体的な変更点を説明します。中学校の先生はご存じかと思いますが、平成20年告示の学習指導要領でも「プログラムによる計測・制御」の項目で、プログラミングには取り組んでいました。しかし、この10年でスマートフォンが急速に普及し、子どもたちは日常的にSNSやオンラインゲームを扱うようになりました。そうした中、中学校の情報教育はこれまでの内容で十分なのかと議論され、今回の学習指導要領で拡充されることになりました。
最も大きな変更点は「ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミングによる問題の解決」という項目が登場したことです。この項目は以前の学習指導要領になく、本格的にネットワークとプログラミングについて学ぶ項目が追加されたことになります。
──追加の理由としては、やはりインターネットが私たちの生活に欠かせないものとなり、その仕組みを中学生の段階から学んでおく重要性が高まったからでしょうか。千石:そうですね。以前の教科書にもインターネットを使った情報の検索や、簡単なホームページをつくる題材は載っていました。しかし今、子どもたちは当たり前のようにYouTubeを視聴したり、LINEやTwitter、InstagramなどのSNSを使ったり、オンラインゲームで離れた友だちとゲームを楽しんだりしています。それらのサービスについて、コンピュータとサーバーのやり取りなど、仕組みを理解した上で利用したほうが、トラブルを回避する力が高まります。また、仕組みを学んだ上で自分たちでプログラムをつくり、課題解決を行うのが「ネットワークを利用した双方向性のあるコンテンツのプログラミングによる問題の解決」の項目の考え方です。
──高校でも2022年度から新学習指導要領がスタートして「情報I」が必履修科目となるなど、大きな変化がありました。具体的な変更点を教えてください。永野:教科「情報」自体は2003年度から必修でしたが、「社会と情報」「情報の科学」の2科目から選択する形で、プログラミングは「情報の科学」を履修した生徒しか体験できませんでした。今回の新学習指導要領で新設・必履修となった科目「情報I」の内容にはプログラミングが含まれており、専門学科も含め、今回の改訂で初めてすべての高校生がプログラミングや、さらにデータの活用についても学ぶことになりました。
テクノロジーの進歩によって、そのような技術面を学ぶことが重要視されているのは間違いありませんが、一方でそれだけが教科「情報」の本質ではありません。問題解決やコミュニケーション、情報デザイン、情報モラル・リテラシーを含めて、非常に広い意味での「情報」を扱う点が大きな特徴と言えます。「問題解決能力の育成」は新学習指導要領の中で特に強調されている部分で、「プログラミング」や「データ活用」といった学んだことを手段として用いて、問題の解決につなげることをねらいとしています。
──「情報」という観点を通して、社会をよりよくする方法を学ぶということでしょうか。永野:その通りです。これからの社会においての「問題解決」は「プログラミング」「データ活用」といったテクノロジーと切り離すことはできませんから、エンジニアに限らず、すべての人が学んでおくべきことです。そうした背景もあって今回の必履修につながりました。