本記事は『GIGAスクール構想[取り組み事例]ガイドブック 小・中学校ふだん使いのエピソードに見る1人1台端末環境のつくり方』の「第1部 エピソード編」から一部を抜粋したものです。掲載にあたって編集しています。
01 1人1台端末とプログラミング教育 岡田恵美 教諭/草加市立 西町小学校
本校では、「プログラミング的思考を育む学びの実践~情報活用能力の育成を通したプログラミング教育~」を研究テーマとして校内研修に取り組んできている。これまでの研修では、コンピュータルームにあるPC40台を活用して、教科教育と関連付けたプログラミング教育のあり方について考えてきていたが、台数が限定されており、課題もあった。
しかし、昨年度の3学期に1人1台端末(本校ではChromebook)が導入されたことにより、利用の可能性が広がったため、さっそく、活用法に関する研修をICT支援員の方にお願いすることになった。当日は、情報部の教員とICT支援員を中心にして「授業におけるmicro:bitの活用」をテーマに行われる予定であった。このように、ここまではどの学校でも行われる研修の流れだろう。
しかし、研修準備を進める中でシステム上の問題が生じた。それは、1人1台端末に接続したmicro:bitが起動しないというトラブルである。これまでコンピュータルームのタブレットでは起動していたため、教員もICT支援員も混乱した。原因を調べると、当時1人1台端末には、micro:bitにアクセスする権限がないということであった(市のアクセス制限にひっかかっていた)。本校では、1人1台端末納入後、すぐにこの研修を行う予定であったため、すぐに活用できない不甲斐なさを感じた。
これから全国的に1人1台端末の活用が進み、プログラミング教育はさらに推進されることだろう。もちろん画面上のみで行われるものもあるが、micro:bit以外にも様々な機器を活用していく際には、事前にアクセス権限を確認し、アクセス権限がない場合にはすぐに活用できない可能性があることは忘れてはならない。
本校ではその後、理解のある市の方々が早急に対応してくれたため、活用を進めることができた。今年度は4年生の総合的な学習の時間「ともに生きる」の単元で、福祉をテーマにmicro:bitの活用を進めることができている。Chromebookでできないのであれば、コンピュータルームのPCでもよいのではないかという意見も出ていたが、やはり学年全員が1人1台端末で同時に接続できることで、より児童が共有を自由に行うことができ、発想が広がった。
1人1台端末とプログラミング教育は切っても切れない関係といえる。教員らの中でのICTに対する意識格差が取り上げられることが多く、教員の意識や環境の整備はもちろん必要だ。しかし本事例のように、活用を進めるにあたってはアクセス環境の整備も、教員とICT支援員とで協力して進めなければならないのだと感じた。
02 導入したばかりのタブレット 壊れてよいといわれたものの…… 津下哲也 教諭/備前市立 香登小学校
数年前、着任したばかりの学校で4年生を担任することになった私は、始業式の日に校庭の桜の花が散りかけていたのを目にした。そこで、理科の授業で校庭の桜の写真を撮らせようと考えた。
当時は1台ずつのケースがなく、端末はむき出し状態。児童は恐る恐る端末を抱え、落とさないように慎重に歩き、昇降口に向かう。運動靴に履き替えるために、端末を少しさびた鉄製の下足箱の上に置く。そっと置いても少し衝撃があり、画面に亀裂が入りそうになる。桜のある校庭までの道はアスファルト。落とした瞬間アウトである。撮影を終えて教室に戻るまで、緊張の連続だった。
「壊してしまいそうで、使いにくいです!」。管理職にそう訴えると、「保険に入っています。壊れても大丈夫なので、どんどん使ってください!」との返答。ヘチマを植えては撮影し、生き物を追いかけては撮影し、生物単元では、ほぼ毎時間使った。
6月に入り、児童たちは、自分が植え替えたヘチマを、畑の畝に入って撮影した。ある児童が自分のヘチマを撮影している横へ、反対側から撮影したいと移動してきた別の児童が接近。足が当たって端末が地面に落下。衝撃は小さかったものの、画面には見事にひびが入っていた。管理職に端末が破損したことを報告した。
その後も端末を使い続け、翌年担任した3年生では、社会の学区探検へ端末を持参した。この年は、自作の簡易ケースを作成して持っていかせていたが、写真撮影のため、ケースから端末を取り出した児童が、手を滑らせて地面に落としてしまう。またしても、画面にひびが入ってしまった。
「安心して使うには、やっぱりケースが欲しい!」。1年目から出していた要望が叶い、着任2年目の夏、待望のソフトケースが整備された。少し厚手のソフトケースは、ケースのまま写真撮影ができ、肩紐の着脱も自在。安心して使えるようになった。このころから、他の学級でも活用頻度が少しずつ増えてきたように思う。
今では当たり前のソフトケースも、数年前は当たり前ではなかった。1つ1つのことを手探りでやってきた試行錯誤の連続が、今日の活用につながっている。
03 教員同士の学び合いでトラブルの解決を図る 立石喜美子 教諭/金沢市・私立 北陸学院小学校
2020年度、4月の休業中に学校と児童、保護者をつないでいたものは郵送物と電話連絡だった。学校からプリントを郵送したり、各家庭に1週間に2、3回電話連絡を取りながら家庭での様子をうかがったりしていた。
翌月の5月、全校児童約110名分のGoogleアカウントを発行し、郵送物と電話だった連絡ツールにGoogle Meet(以下、Meet)やGoogle Classroom(以下、Classroom)が加わった。休業中であっても顔を見てコミュニケーションがとれるようになった。
2021年3月、Chromebookを全校児童に配付し1人1台端末の環境が整った。2020年5月の連休明けに遠隔授業を開始することを目指して、休業中に準備を進めていった。どこから、どう始めていったらよいか、知識が足りないことがトラブルだった。4月のひと月は、ClassroomやMeet、その他のアプリをどのように児童に使わせたらよいかを試用する、実践的な研修の毎日だった。
教員はそれぞれでClassroomを作成し、他の教員のClassroomでは児童となって、どうしたらより使いやすくなるか、様々な機能を使ってみた。また、それにより知り得た情報は、共有ファイルに書き込み、周知しながら準備を進めていった。
このころ、接触をできる限り避けるため、教員は各教室にPCを持ち込んで仕事をしており、会議も各教室からリモートで行っていた。機器操作がわからなければ、わかる教員が教室に行って対処しながら使い方を練習した。マイクのオンオフ、カメラのオンオフ、共有ファイルの表示など、全教員が同じ建物内にいたため、不明な点があっても、すぐに解決ができた。
長期の休業で、なんとか学習保障ができる体制を整えようとClassroomの使用から始まり、2021年3月には、1人1台の端末を配付した。教員にとっても、児童にとっても、初めてのことばかりだったが、できることから始め、教員が共通理解を持って取り組んでいくことで一歩一歩解決を図っている。今後も、教員がよりよい使い方を学び合い、児童がより深く広く学習できるよう、端末の用い方を追究していきたい。
04 タブレットでScratchの落とし穴 星尾尚志 校長/京都市立 八瀬小学校
5年算数「正三角形をかくプログラム」の授業に初めて取り組んだときである。端末はタブレットPCで、プログラミング教材はScratch(スクラッチ)を使用した。四角形を描くためのブロックはあらかじめ用意しておき、児童たちは手順を考えてブロックを並べ、スタート。「おおっ、正方形が描けた」とあちらこちらで歓声が上がる。
ここからが本番。「では、正三角形を描くにはどうすればいいだろう」と発問する。児童たちは「回す角度を変えればいいんじゃない」「何度にすればいいんだろう」などいろいろ考える。「では、自由に試してごらん」と試行錯誤を促す。
「さて、みんなどんな活動をするかな」と楽しみに見回っていると、「先生、数字が打てません」と何人もの声が聞こえてきた。「えっ、どういうこと」と一瞬とまどったが、画面を見て「ああっ、そうか」と納得した。児童たちが『○度回す』のブロックの数字を変えようと数字をタッチするとソフトウェアキーボードがニュッと出てきて、画面の半分ほどを隠してしまっていたのだ。
そのときにはキーボードの用意がなかったのでこの授業はここでストップしてしまった。これは教材研究を自分のPCでやっていて、授業で子どもたちが使うタブレットPCで試さなかったために起きたトラブルであった。
現在、学校で使えそうなプログラム教材はたくさんあるがそれぞれに特徴がある。たとえばWeDo 2.0やViscuitなどはタッチ操作で使いやすいように作られているので、タブレットとペンとの相性がよく、一方、 Scratchなど画面上に情報が多く、文字や数字を入力することが必要なプログラミング教材では画面が大きくて、キーボードが使えたほうが便利である。Scratchを使うときにソフトウェアキーボードが表示されれば画面が隠されるなんて少し考えればわかりそうなものだが、見事に落とし穴にはまってしまった。