【さとえ学園小学校】失敗から生まれた「レベルアップ型ルール」
さとえ学園小学校は、埼玉県さいたま市にある私立小学校で、「人間是宝」の建学の精神のもと、正課授業とアフタースクールの融合による複合型の教育を行っている。同校でカリキュラム・マネージャーを務める山中昭岳教諭は、セミナーの冒頭で「共育」というキーワードを挙げ「共育の『共』は、情報共有」というメッセージを伝えた。
同校はGIGAスクール構想に先駆け、2018年から全学年で1人1台のiPadを所有し、活用を始めた。「世界的に見ても学習への活用が遅れている日本のICTに『光』をあてよう」と始めたが、当初は失敗も多かったという。
山中教諭は「iPadとの上手なつきあい方を身に付けることを目指し、当初は児童が自らルールをつくるなど、滑り出しは非常に良かった。しかし、1カ月の間にクラスがゲームセンター化したりするといったさまざまな問題が起き、iPadは遊び道具になってしまった」と振り返る。そこで考案されたのが同校独自の「レベルアップ型ルール」だ。
このレベルアップ型ルールには、最高レベルの「ゴールド」から「レッド」まで5段階のレベルが存在する。「グリーン」からスタートし、児童のスキルやモラルによって上下する仕組みだ。レベルの判定は定期的なチェックテストのほか、教員や保護者による他者のチェックによっても判定され、レベルに応じてiPadの壁紙の色が変わり、一目でわかるようになっている。
「免許証をヒントにしたこのルールではスキルやモラルが身に付き、レベルが上がるほど自由度が上がり、逆に守れないとダウンしていく。スキルやモラルは一覧表にして、保護者ともポータルサイトで共有している」(山中教諭)
レベルアップ型ルールは2018年9月に開始され、2020年12月時点で全校児童のレベルはブルーが62%、グリーンが34%で、もっとも自由度の高いゴールドはわずか4%だという。なお、イエローとレッドはスクリーンタイムによる制限が大幅に入り、最低限のアプリしか使えなくなる。
「チェックテストはオンラインで一斉に行い、合格した児童には『壁紙贈呈式』で新しいレベルの壁紙が贈られる。周りにブルーの児童が増えると、グリーンの子は焦るという『ピア・プレッシャー』もねらっている」(山中教諭)
日本のICT力を、保護者から上げていく
レベルアップ型ルールで大きな効果を得た同校は、次のステップとして、2021年度よりCYOD(Choose Your Own Device、提示された端末・条件の中から自由に選んで購入し、使用すること)をスタートした。山中教諭は「保護者にも『日本のICT力を、保護者から上げよう』という大きなビジョンを共有した。本校の1人1台の仕組みが日本のモデルとなるよう、ICTは文房具であるからにはまず『個人で管理できる』ことを目指している」と語る。
さらに同校は、保護者とともにICT活用を進めていく上で「組織論」を採用。「チーム“さとえ”づくり」として、保護者に「意識改革をしましょう」と訴えかけるだけでなく、実際にシステムをつくり、行動を変えることで意識を変えていく方法をとった。
システムをつくる上でのキーワードは「全員が同じ情報を共有する」こと。「『頭・心・体』という組織論があるが、考えが一緒になること(頭)で、思いがひとつになり(心)、動きだすことができる(体)」とし、具体的には以下のようなシステムを用意した。
保護者用ポータルサイト「さとえ学園Help Desk」を設置・運営
「保護者サポートセンター」やFAQで、お悩みをオープンにすることで不安を解消。
保護者向け研修会
4月から3~4回開催され、教員によるサポートが受けられる。
ICTゴールを設定
「子どもよりさらに上のスキルを身に付けよう」という目標を保護者全員で共有する。
「保護者が常に端末を使う機会をつくったことで、以前はICTを苦手に感じていた方も、設定などをすべてフォローなしでできるようになった。結果として、今年の夏休みはiPadに関する問い合わせがほとんどない状況になり、保護者もレベルアップしたことを感じた」と山中教諭は述べた。