はじめに
Code.orgは毎年、Hour of Codeに向けてさまざまな企業とコラボレーションを行い、学校での1時間の授業でコンピュータサイエンスの入門として使えるプログラミングの教材を開発しています。筆者も、昨年Minecraft Educationチームでプログラムマネージャーをしていた際、Code.orgと共同でMinecraft Hour of Code Designerという教材を開発する機会に恵まれました。今回はそういった私自身の体験も交えながら、まず前編ではアメリカにおけるコンピュータサイエンス教育(CS教育)について見ていきたいと思います。
さらに、なんとこの記事の最後(後編)には、Code.orgの創業者兼CEOで、Hour of Codeの提唱者でもあるHadi Partoviから、この記事の読者の皆さまや、Hour of CodeとCode.orgに興味関心を持っていただいた日本の教育関係者の皆さま、そしてプログラミング教育に関心があるエンジニアの皆さまに向けて、ビデオメッセージをいただきました。楽しんで、最後までお付き合いください。
アメリカにおけるコンピュータサイエンス教育(1)
2016年1月30日、当時のオバマ大統領はCS教育を国として支援する計画、「Computer Science for All Initiative」として、総額40億ドル(約4000億円)の各州への支援、および1億ドル(約100億円)の学区レベルへの直接支援といった、巨額の投資への要請を発表しました。また、つい先日2017年9月25日には、トランプ政権がCS教育に関して、年間最低2億ドル(約200億円)の直接支援の要請を含む覚書を発表しています。
アメリカでは、国だけでなく州や市、学区がそれぞれの学校の活動に対して強い力を持つことから、CS教育への取り組みは遅れるとみられてきましたが、ここ数年ものすごい勢いで制度が整ってきています。2013年時点で、コンピュータサイエンスの授業が高校の卒業単位に含められているのは、わずか12の州だったにもかかわらず、現在では34の州(+ワシントンDC)で認められていることからも、変化が大きいことが分かります。これらの動きには、さまざまな要因が複雑に絡み合っているので、簡単に説明をさせてください。
1.経済を支えるエンジニアの不足
まず1つ目の大きな要因には、これまでアメリカ経済を大きく下支えしてきた、スタートアップを含むIT企業において、エンジニアが不足していることが挙げられます。さらに、それに伴う企業から政府へのプレッシャーの存在も要因となっています。
ホワイトハウスによると、2015年にはIT業界において、給料の良い60万人分もの仕事が、良いエンジニアを見つけられなかったために埋められず残ってしまいました。特に、シリコンバレーがあるカリフォルニア州や、MicrosoftやAmazonが本社を構えるシアトルにおいては、エンジニアの争奪戦になっていて、どの企業も良い人材の確保にかなり苦労しているのが実情です。
政府としても、今後も大きく成長が見込めるIT産業において国際競争で勝つためには良い人材を育てることが重要である、といった認識が強くあります。そのため、イングランドを含めた他の国々と比べると、「エンジニア、プログラマが必要だから養成する」ことを、CS教育の目的として大きく押し出しています。