不確実な時代に向け、知識から体験重視の学びへ
「課題解決型学習」とは、アメリカの教育学者のジョン・デューイの学習理論で、知識をただ暗記するといった受動的な学びから脱却し、自ら能動的に問題を発見・解決していく能力を身につけようとする学びのあり方だ。近年急速に注目されているものの、まだ日本の教育界も十分に手法を確立しておらず、どのように取り入れたらいいのか迷う教員も少なくない。正頭教諭自身も、まだ試行錯誤の段階だというが「その中である程度仮説的に見えてきたものがある」と話す。
ただし、課題解決型学習についてはまだ十分に研究し尽くされたわけではなく、効果が称賛されたり、否定されたりする段階にあるものではないという。正頭教諭は「今日は、あくまで私の仮設的な手法・内容に対して、賛同や反論など意見をいただき、試してもらうことでより良い方法を探ることを目的にしたい」と説明し、講演をスタートした。
正頭教諭は英語教育を専門としながら、立命館小学校ではICT教育部長を務め、学校全体のICT教育の推進役を務める。同校は、2012年よりいち早く1人1台のPC配付を実現し、試行錯誤を続けてきた。正頭教諭はその中で得てきた知見やノウハウを、GIGAスクール構想などで悩む学校に共有する活動も行っている。また、教育界のノーベル賞と言われる「Global Teacher Prize 2019(グローバルティーチャー賞)」のトップ10ファイナリストに選ばれたことでも知られている。
正頭教諭は現在の教育の変化について「昔は勉強と言えば『知識を増やす』ことを指し、成績や入試も知識量で測っていた。しかし、今はわからないことがあればスマートフォンですぐに検索する時代。簡単に答えにたどり着けるため、知識の差はテクノロジーが簡単に埋めてくれるようになった。良いか悪いかはともかく、それが現実と言えるだろう」と述べた。
もちろん基礎知識が不要になったわけではない。しかし「知識の詰め込み」の相対的な価値が下がったことにより、その分、学校での価値は「体験」に焦点が置かれつつあるのは明白だ。そして、これからの時代で求められるスキルもまた、知識で問題を解決する力だけでなく、自らの体験を踏まえて問題を発見する力へと変化している。
その理由を、正頭教諭は次のように話す。
「これまでは与えられた問いに正確な答えを導き出すことが重視され、計算力や論理的思考力などが重視されてきた。それは人が生きていく上で問題が多かったため、解決策として発明があり、テクノロジーが進化してきたからだ。しかし、そうやって問題を発明やテクノロジーで解決してきた結果、令和の時代は日常生活における問題がほとんどなくなってきている。そこで、これからは問題を発見する力が必要となる」(正頭教諭)
だが、それでも多くの人が「基礎学力はどう身につけるのか」という疑問を持つだろう。そこで活躍するのが、GIGAスクール構想によって1人1台用意された端末だ。例えば、これまで8時間かけて行っていた内容をテクノロジーを活用して6時間で効率良く学べるようになる。基礎学力が不要なったのではなく、テクノロジーを通じて効率的に習得できるということだ。そして残った時間は新しい教育、すなわち「体験」にシフトさせていくことが重要となる。さらにテクノロジーによって、これまで時間や距離など制約となっていたものが取り払われ、例えば海外と交流するというような「体験」も容易になってきた。
その「体験」について、正頭教諭は「子どもたちが自分で問いを見つけられるような『体験』が望ましい」と語る。「『なぜこうなってるんだろう』とか『実はここが問題じゃない?』といった問題発見力が培われるような体験が非常に重要になるのではないか。恐らく子どもだけではなく社会全体として、例えば企業も『次の時代の困りごとは何か』を考えることが重要になってきている」というのだ。