「学校はこんなに楽しいんだ」
田中氏は、フィンランドのオウル大学大学院で学びながら、フィンランド教育サロン「教育秘密基地」を運営している。その一環でインターンをしたという田中氏、4月29日に「フィンランド小中学校・現場勤務リポート!幸福度世界一&生徒が楽しくアクティブに学べる秘密とは?!&学校視察風ツアー付き」というオンラインセミナーを開催し、体験や感想を伝えた。
なお、フィンランドの学校は地域や学校、先生によって、校内の環境や、授業のスタイル、時間割などのルールも異なる。今回はあくまで1つの例として、田中氏のインターン先の学校の様子が詳しく紹介された。
田中氏がインターンをしたのは、オウル市にある公立のインターナショナルスクールOulu International School。国際バカロレア(IB)認定校でもあり、英語で日常会話を行えることが特徴だという(フィンランドの公用語はフィンランド語とスウェーデン語)。
「学校ってこんなに楽しい感じなんだ」――インターンシップで最も印象に残っていることを、田中氏はこのように語る。「子どもたちが動き回っていて、見ていて楽しそうだった。日本ならテストの点が低い勉強が苦手な子たちが、勉強が嫌いになってしまうことがあるが、そういったことが起きにくい先生の関わり方、学び方をしている印象を受けた」という。
田中氏が楽しさにつながっていると分析するのは、1コマ45分の授業の中で、10~15分ごとに活動が変わること、一人よりペアやグループでの学習が多いことなど。「勉強は一人で頑張るものという印象があったので、新鮮だった」そうだ。また、個々に必要なサポートが充実していることや、多様な学び方、自分で考え決める、といった特徴も挙げた。「現場の先生たちは共通認識として『学校は練習する場所、トレーニングをする場所』と口にしていた」という。子どもたちは皆異なる強みを持っており、得意な学び方も環境も異なるという前提があると続けた。
先生の様子については、「リラックスしている」と田中氏。労働時間内でできることに集中し、授業の準備に時間をかけている印象はないという。何事も試しにやってみてうまくいかないことがわかったら変えればいい、といったスタンスで、「先生たちもやりながら学んでいる」と説明した。
自己評価を重視、ICTも使うが紙も活用
田中氏は学校視察ツアーとして、多数の写真とともに学校の様子を見せてくれた。
例えば1年生の教室では、電子黒板と電子教科書を使って算数の授業をしている様子、フィンランド語の授業ではタブレットでアルファベットの練習をしている様子や、先生が廊下に貼ったアルファベットなどの写真を見せた。
1クラスの生徒数は最大24人が推奨されている。制服はなく、持ち物も自由なので、カラフルなバックパックが椅子の背もたれにかかっている。机の形も日本の学校でよくある長方形だけではなく五角形のものも円形もある。
田中氏によると、8時15分が1時間目だが、同校はインターナショナルスクールのため同じクラスでも言語や宗教の違いによって、受ける授業が異なる。全員が同じスケジュールではなく、12時15分に帰る子どももいるという。
なおICTについては、「ありき」ではないようだ。田中氏によると、電子黒板は100%の学校に導入されており、電子教科書もよく活用されているとのこと。低学年ではタブレットがよく利用されるようだが、常にタブレットで勉強しているわけではない。
例えば、小学校1年生で取り組んでいたという、紙のお金を使ったお店屋さんごっこの写真を紹介した。「リアルの生活に結びつけて、手と体を動かしている」と田中氏。4年生になるとタブレットよりもノートPCが利用されており、プレゼン作成などを行っていたと説明した。
なお、フィンランドでは「MOVE」というプログラムを多くの学校が取り入れている。これは、授業中ずっと座りっぱなしではなく、間に体を動かすことで脳を活性化させようというもの。
さらに、学びによく取り入れられているというグループワーク。例えば5年生の音楽の授業では、最初にみんなで歌を歌うなどの活動をした後に、個人やグループワークに移ることが多いとのこと。その時は、教室に制限せず、廊下でグループワークを行うことも多いそうだ。「机がない教室でワークシートを渡していた。床に寝っ転がってシートに書いているチームもあり、私には新鮮だった」と田中氏。
中学生では、家庭科、技術や図工にもしっかりと力を入れていることが紹介された。ノコギリのような工具やミシンなどの機械はどの学校でも整備されており、「実際フィンランド人は、ちょっとした修理やものづくりは自分でやるという人が多い」と田中氏。点数ありきではない教育へのアプローチがうかがえる。