「教えない」ことで自律的に学ぶようになる
「きっかけは、2011年の東日本大震災だった」――セミナーの冒頭、山本教諭は自身の教育に対する考え方が大きく変えたエピソードを語った。
山本教諭は震災後、仙台の海岸線沿いを歩きながら次のように考えた。「人間はゼロからスタートしなければいけないときがある。大人ができることは、それほど多くない。大人がいなくても学び続ける生徒を育てなければいけない」。この経験をもとに「教えない」スタイルの教育を始めたという。
『なぜ「教えない授業」が学力を伸ばすのか』『学校に頼らなければ学力は伸びる』といった書籍を執筆する山本教諭だが、「決して教えることや学校を否定しているわけではない」と話す。教員が「教えない」選択肢を身につけることで「教える」という行為の深みが増し、「教えない」ことで生まれる生徒の自律的な学びを期待しているという。さらに「学校やサービスに依存するのではなく、それらがなくても学び続けられる生徒を育てたい。コロナ禍でも同様に、生徒がより良い学び方を手に入れて、自律して学び続ける『ライフロングラーナー』になっていくことが大事」と思いを伝えた。
「自律型学習者」を育てる新渡戸文化学園の目標
では、自律型学習者を育成するため、必要なことは何か? 山本教諭はまず「学校は何のためにあるか」と問いかける。
その上で「気候変動やAIといったIT技術の進歩、価値観の多様化により、社会が大きく変わりつつある。しかし学校は変わらず、時代の変化に追いついていないことが問題となっている」と解説。「学校が未来の社会をつくる」「今の社会の変化を学校に取り入れる」という2つのベクトルの必要性を説いた。
そして、日本財団による2019年度の18歳意識調査の結果を紹介し、「日本は『自分が責任ある社会の一員である』という回答の割合が少ない。『自分たちが社会をつくっていく』といった意識に変えていきたい」と語り、「個人的にも社会的にも幸せに生きるための教育を実現することは、すべての国で、教員だけでなくすべての大人が目指さなくてはいけない」と訴えた。
これらを踏まえ、山本教諭は自身がデザインする新渡戸文化中学・高等学校の教育カリキュラムを紹介。同校は「Happiness Creator(ハピネスクリエイター)」を教育シンボルとし、すべての教育活動において「自分が幸せになるだけでなく、幸せをつくりだす」人材を育てることを目指している。
その上で「より良い世界、幸せな世界をつくるためには、まずは自分でより良い選択ができなければいけない」として、自律型学習者の育成を目標としている。山本教諭は、自律型学習者に必要な要素である「自分をコントロールする」「他者とつながる」「新しい価値を創造する」の3点を紹介した。