「学習者主体」でのICT活用とはどのような状況なのか
まず、どのような状態であれば「学習者主体でのICT活用ができている」と言えるのかを、筆者の考えとして以下に示します。
- 端末を学校生活(授業中、クラブや部活、係・委員会・生徒会活動、自宅での宿題・課題)の中で、どのようなときにどのようなソフトを使って活用するかを、児童生徒がある程度自由に決めることができる。
- 端末の利用ルールを、学級・学年・学校ごとに児童生徒が主体となって決めることができる。
- 新たなアプリやソフトウェアの導入を、児童や生徒が教職員を通じて提案することができる。
- 学習上の支障(フィルタリングや機能制限が厳しすぎて学習に影響がある等)の改善を、提案することができる。
- そのほか、端末に関する約束事を児童生徒が自分たちで定め、また変えることができる。
大まかにこのような状態が実現できると、児童生徒も先生も、お互いの信頼関係の上で端末を利用することになるので、安定的な運用ができるようになります。これらは多くの先進校、かつ積極的に端末が活用されている学校で共通して見られる要素です。
ただ、一読してこれを「理想論」と感じる方も多いでしょう。先進校においても先述の状況が一足飛びで実現したわけではなく、管理職や先生、児童生徒とのさまざまなやりとりを経て、たどり着いたケースがほとんどです。ですが、もし1~5の状況とそれぞれ「真逆」の状況が続くと、さまざまな課題が生まれます。そこで「学習者主体」での活用が教育委員会や学校にとってもメリットになることを、次の3つの観点で示したいと思います。
【観点1】大人たちよりも児童生徒のほうが端末の扱いに詳しい
仮に、1や2の逆で、活用シーンや利用ルールを学校や教育委員会が「全部決める」となると、導入されている端末の機能や導入されているソフトの使い方、どのようなことができるか、不適切な利用が考えられる機能はどこにあるかといったことをすべてを把握しておき「あらゆる児童生徒の操作を想定して、先回りしてルールを定める」ことが必要になります。しかも、端末のOSやソフトは定期的にアップデートされていくので、それを常に追いかけ続けることは、本職のITエンジニアですら苦労していることです。数多くの校務分掌を抱えている現場の先生にそうした対応を求めることには、そもそも無理があります。
何よりも、児童生徒のほうが端末の扱いに慣れていたり、そもそも苦手意識がないのでどんどん試したりして、試行錯誤の中で自然と使い方を身につけていきます。教科の指導内容や生活・進路指導など、先生が圧倒的な経験・知識を持つ領域と異なり、ICTに関しては児童生徒のほうが経験豊富な可能性もあるのです。
そのため、思い切って先生は「児童生徒のICTスキルに良い意味で頼る」ことをお勧めします。操作スキルに長けている児童生徒に「授業の前までにエジプトのカイロの地図を表示しておいてくれる?」と、苦手な操作はお願いしてしまう。こうすれば、自分の操作や知識・経験が足りなくても、助けてくれた児童生徒を承認しつつ、授業など進行への影響は少ないでしょう。早い段階で「先生はICTについては完璧じゃないし、みんなの助けを借りたい」という協調の姿勢を示すほうが、心理的な負担も少なく、児童生徒との信頼関係の構築にもつながります。