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教育現場でのICT活用事例紹介(小学校)

夏休み短縮に対応すべく「オンライン通学」を実施――継続的な運用も目指す千葉大附属小の挑戦


 全国一斉休校によって、多くの学校で行われたオンラインでの学び。現在、多くの小学校は通常登校となり、オンラインによる授業から対面の授業に切り替わっている。しかし、千葉大学教育学部附属小学校では、例年は夏休みとなる7月中旬から「オンライン通学」を実施し、来年度以降も引き続き、オンライン学習と対面指導とを組み合わせた「ハイブリッド」の学びを実現すべく試行錯誤を重ねている。今回は、副校長の大木圭氏とICT担当の小池翔太氏に、同校がめざす「ハイブリッドの教育課程」から、with・afterコロナ時代の教員の働き方改革までを聞いた。

千葉大学教育学部附属小学校 副校長 大木圭氏(左)、同校 教諭 小池翔太氏(右)。小池氏はICT主任も務める。
千葉大学教育学部附属小学校 副校長 大木圭氏(左)、同校 教諭 小池翔太氏(右)。小池氏はICT主任も務める。

「Teams」は昨年度から活用――もともとは生徒指導のツールだった

――千葉大学教育学部附属小学校は休校中のオンライン活用が素晴らしく、内外で大きな反響があったと思います。ICTの整備状況を含めて、学校の紹介をお願いします。

大木氏(以下敬称略):千葉大学教育学部附属小学校の児童数は640名で、1クラス35名、各学年3クラス、4年生以上は帰国児童学級が1学級あります。

 旧パソコン室にあったコンピューターはOSがWindows7だったため、2020年1月にマイクロソフトのサポートが終了しました。従来であればパソコンを入れ替えて維持するのですが、今回はこれを機にタブレットへ移行し、現在パソコン室は別室登校する児童のための「自学室」として活用しています。これまでは登校が難しい児童に対して保健室登校という形で対応していましたが、養護教諭の負担が増えるため、昨年度より自学室の利用を試行し、今年度から本格的に運用しています。

小池氏(以下敬称略):現在校内にある端末は、タブレットPCなどが合計100台程度で、学校全体としては約「6人に1台」で使用する予定でした。具体的には、iPadが約80台、WindowsのタブレットPCが約45台です。1学年ギリギリ使えますが、1人1台にはまだほど遠い状況で、現在整備を進めています。

――オンライン学習については休校前から導入されていたとお聞きしましたが、どのような形で行っていたのですか。

大木:昨年度から「Microsoft Teams」(以下、Teams)を使い、教室には行けないけれど登校はしている児童が授業を遠隔で見ることで、結果的に教室に戻ることができたという実績がありました。これを、コロナ禍の休校でも活用できないかと考えたのです。

 ただし、昨年度の時点では、Teamsは学習指導ではなく、どちらかと言えば生徒指導用のツールとして活用していました。それに加えて、それまでメールで行われていた教員同士のやりとりもTeamsに移行していく計画がありました。

――そして実際休校になったことで、学習面でもTeamsを活用されたのですね。

大木:はい。今年に入ってからはいつ休校になってもおかしくないと考え、児童全員のアカウントが取得できるように休校前の2月から小池先生に準備をしてもらっていました。

Teams導入までのスケジュール

  • 2月26日:大学へアカウント発行を申請。
  • 2月27日:政府より全国一斉の休校要請。
  • 2月28日:10時の時点で発行完了、資料の印刷。13時より説明を兼ねた全校授業(15分間)。
  • 3月2日:休校。オンライン課題、Teams運用の開始。

遅れていたICT環境を現状に沿った形へ

――校内のICT化や、オンライン学習の実現に向けては、お2人が主導したと伺っています。ICT主任の小池先生が担っている、具体的な役割について教えてください。

小池:私は昨年度から、担任の先生と一緒に情報を教えていく「準専科」の役割を担っています。これは情報専科の教員とは異なる役割です。昨年度は2年生以上の17クラスで、担任の先生と共に週に1時間、コンピューターを使った授業を行いました。本年度は帰国児童学級の担任も兼任しているため、4年生以上の10クラスを受け持っています。

 またICT主任として、情報教育の視聴覚部分や校務分掌を担っているほか、環境面で遅れている本校のICT化について、大木先生と話し合いながら推進しています。

――校内のICT環境はどのように計画し、整備を進めているのでしょうか。

小池:現在、国立大学は予算が削減されており、希望してもすぐに端末が揃えられるわけではありません。そこで、大木先生に提案して研究費として外部予算を組んだほか、タブレットについては、民間企業の支援などをいただきました。また、PTA予算で積み立てていたパソコン室のリプレイス用の予算で、各教室に大型プロジェクターを導入していただきました。

休校初日からTeamsを導入、でも無理に使わない

――そのような中、3月から始まった休校初日からTeamsを活用していらっしゃいます。そこに至った経緯や具体的な活用例を教えていただけますか。

大木:2月の時点では、休校後の先が見えない状況でした。そこで、まずは子どもたちをつなぐことができるツールとしてTeamsを使おうと決めました。以前から「1人1台でできれば……」と夢のように語っていたことが、決して良い形とは言えないものの「今回の休校で実現できるのでは」といった思いもありました。通常であれば、家庭でのインターネット環境についての事前調査を行うなど、準備なしでの導入は難しいのですが、緊急事態だからこそご理解いただきやすいと考えたのです。

 そして職員会議を開いて話し合い、各学年の課題を学校のWebサイトにアップすることにし、同時に同じような境遇に立ってしまった全国の小学生に使ってもらえるよう、内容はオープンにしました。本校の教員には「毎朝10時に課題をアップしてください」と伝え、本校の児童に対しては、課題に対するレスポンスができるツールとしてTeamsを活用しました。

――3月の間は全員の使用は必須でなく、コミュニケーションに重きを置いた使い方をされたと伺っています。

大木:はい。学習面で本格的に導入したのは4月からです。4月には1年生もオンライン上で入学し、各ご家庭や私たち教員もTeamsにある程度慣れてきていました。とは言っても、異動してきた教員にとっては初めての経験なので、4月12日までは学年ごとに運用方針を議論し、4月の2週目から本格的に導入しました。そして、分散登校の始まる6月までTeamsを活用していきました。

3月、5年生では卒業生に向けた合唱練習のために、伴奏のデータを自主的にアップした児童も
3月、5年生では卒業生に向けた合唱練習のために、伴奏のデータを自主的にアップした児童も

オンライン学習は保護者の負担増が大きな課題

――休校直後は必須ではないとは言え、ご家庭だけでなく先生方にもTeamsに対して苦手意識がある方が多く、スムーズに進まない部分もあったかと思います。

大木:はい、そのため「Teamsがないと休校期間を過ごせません」といった説明はしませんでした。ご家庭の事情によって、どの程度参加できるか未知数だったため、あくまで家庭学習をメインにして「Teamsも活用できますよ」といったスタンスにとどめました。

――実際にTeamsを使用できないご家庭も多かったのでしょうか。

大木:ばらつきは当然出ました。誰がどれだけログインしているかはこちらで把握できるため、1週間で一度もログインしていない児童に対しては、電話で安否確認を行いました。

 反省点としては、オンライン学習によってご家庭に負担を強いたことです。特に、共働きのご家庭や低学年のご家庭には大変な負担となったことは大いに反省するところです。

 学校側としてはリアルタイムで参加しなくても問題がないように配慮しましたが、子どもはオンラインでみんなが集まっていれば加わりたくなるのは当然のことです。そして保護者の方は、「子どものためになんとかしたい」といった思いから、お仕事にしわ寄せがいってしまう。本当に、そこは反省すべき点でした。

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夏休みは試験的に「オンライン通学」を実施

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この記事の著者

相川 いずみ(アイカワ イズミ)

 教育ライター/編集者。パソコン週刊誌の編集を経て、現在はフリーランスとして、プログラミング教育やICT教育、中学受験、スマートトイ、育児などの分野を中心に、取材・執筆を行っている。また、渋谷区こどもテーブル「みらい区」を発足し、地域の子ども達に向けたプログラミング体験教室などを開催している。一児の...

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森山 咲(編集部)(モリヤマ サキ)

EdTechZine編集長。好きな言葉は「愚公移山」。

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