「顔」と「声」が伝わる読み聞かせ動画で信頼関係を維持
今回お話を聞かせてくれた先生は、欧州の大学で幼児教育を学んだ後、幼児教育の世界に。現場で約25年の経験を積み、働きながら教育学の修士号も取得した。しかし、ICTを使った幼児教育は手探り。自身も必ずしもICTを得意とはしていないが、学校がタブレットなどの機器を支給しており、事務作業のICT化は進んでいるといった素地もある。学校にはICT担当者が4人(そのうちの1人は教職と兼任)おり、Seesawの使い方などを聞くことができる。
「これまでの教材作りとは異なり、コンピュータに向かう時間が長くなった」と先生は言う。春休みを間に挟んだがすでに休校状態は1か月以上続いている。さすがに慣れてきたが、オンラインで感じるのは「創造性が要求される」ということだ。動画や素材は学校が提携しているサービスもあるが、最適なものを求めてインターネット上にある教育用のものを自分で探している。当初はコンテンツは学校に出勤して作っていたが、現在は先生も全員在宅となった。オンとオフの境が付きにくいのもストレスといえばストレスだ。
コンテンツを作る際に配慮している点は、「手や体を使う作業」を取り入れること。例えば課題は、Seesaw上でデジタル的にやってもらうこともできる。だが、あえて家の中のものを集めたり、プリントアウトして色を塗ったり切り取ってもらう作業になるように心がけている。普段から手を使うことを大事にする教育方針であるだけでなく、「子どもたちは4~6歳。保護者の多くが画面で長い時間を費やすことを危惧している」と話す。
もう1つ気を配っているのが、「つながり」だ。教育は信頼関係が土台にあってこそ。オンラインで信頼関係を維持できる方法の1つが、顔と声でのやりとりだ。そこで有効と感じたのが、読み聞かせ動画だ。当初は自分が絵本を読み聞かせる動画を作ることに抵抗があった。だが休校状態が長引きそうだと感じたことから、やることにした。最初は同僚に教えてもらいながらだったが、毎日作成している。その甲斐あってか、保護者からのフィードバックでは最も評価が高いコンテンツだという。なお、子どもたちからSeesawで課題を提出してもらった時のフィードバックも、必ず声で送るようにしているという。
この学校が利用しているSeesawは、米国を中心に多数の導入実績を誇る教育プラットフォームだ。無料版と有料版があり、有料版はすでに数千校が利用しているという。Seesawを使う先生たちのコミュニティが生まれており、5万点近くのアクティビティが共有されている。共同創業者Adrian Graham氏は、「先生たちが新しくデジタル的な方法を学ぶのではなく、すでにやっていることを簡単にできるようにしたい」と狙いを説明する。例えば、Seesawを使って生徒が紙の上に描いた絵をキャプチャし、音声で説明したり、考えたことを録音したりする。先生はそれを児童生徒の保護者とSeesaw上で共有できるので、帰宅後すぐに学校でやったアクティビティについて家族で話ができるという。
なお、課題の提出は必須ではない。「働いているので子どもと一緒に作業ができない保護者もいれば、休校になったことで別の託児サービスに預けている家庭もある」ためだ。また、休校になってから定期的に郵送でも、Seesawとは別の作業コンテンツを送っており、Seesawを使いたくない家庭に選択肢を提供しているという。電話でのやりとりも行っている。
子どもの年齢が低ければ低いほど対面が大事であることに変わりはない。それでも、「今はデジタルでできることをやるしかない」と先生は語った。