若きクリエータを支援する「未踏ジュニア」
2016年にスタートした「未踏ジュニア」は今年が3回目の実施となる。2018年度は、100を超える応募の中から12のプロジェクトが採択された。採択されたプロジェクトには、未踏プロジェクトのOBOGを含む各界のプロによる指導、50万円を上限とした資金、開発場所や工作機械の貸与といったサポートが提供される。プロジェクトを担当するクリエータたちは、6月以降、会議や合宿、インターネットでのコミュニケーションなどを通じて、プロダクト開発に取り組んできており、報告会ではその成果が発表された。
2011年度の未踏スーパークリエータ認定者であり、現在は未踏ジュニアの代表を務める文部科学省の鵜飼佑氏は、「未踏ジュニアは、周囲からの提案やアドバイスはあるものの、基本的に発案者がやりたいことの実現に重きを置いている点が、一般的なプログラミングコンテストやスクールと違う点」だと話す。その言葉通り、採択されたプロジェクトは、そのテーマも完成形もさまざまだった。この記事では、最終報告会で発表された12のプロジェクトを、テーマ別に大きく4つのタイプに分け、それぞれの内容について紹介する。
「こんなサービスやツールがあったら面白い!」を形に
自分が日ごろサービスやツールを使う中で感じた「こんなものがほしい」「こんな仕組みならもっと面白い」という思いをモチベーションに進められたプロジェクトがいくつも見受けられた。
平野正太郎さんによる「Let'sえいごパズル!」は、液晶画面を埋め込んだ「キューブ」に表示されるアルファベットを並べ替え、PC画面に表示されたイラストに合う英単語を作るパズルゲーム。ハードウェアには、Arduinoの互換基板であるUniversalnoを採用し、キューブとPCとの通信には赤外線通信を利用している。
開発途中では、複数のキューブに対する通信がうまくいかないといった問題に直面したが、インターネット上の情報を探しつつ、通信用のOSSライブラリを独自に改造するなどの方法で解決していったという。試作機を自分が卒業した小学校の生徒たちにテストプレイしてもらい、そこで得られたフィードバックもとに現在も改善を続けている。今後は、より小型化、軽量化を進めると同時に、パズルに使えるキューブの数を増やすことにも挑戦していきたいという。
藤本結衣さんの「メモリーカプセル」は、スマートデバイスの持つ位置情報取得機能を活用し、「自分が投稿した場所でだけ、知人が見られる投稿」を可能にしたSNSアプリだ。自分が実際に訪れた場所にメッセージの入ったカプセルを埋め、後にその場所に来た人が掘り出して中身を見るというイメージになぞらえて「メモリーカプセル」と名付けられた。
「自分がよく知っている人が『今いるこの場所で』投稿した情報を見られる」というのが、メモリーカプセルならではの面白さだという。メモリーカプセルは、既にiOSアプリが開発されており、App Storeで入手して実際に試すこともできる。場所とひも付いた情報発信ツールとして、イベントや旅行での利用など、活用の幅が広がりそうな予感がするプロダクトだ。
柴原佳範さんの「Corkboard」は、「紙のノートの再現と強化」を目指した「自分のためだけのメモアプリ」。紙のメモを書きためていくような感覚で使えることを目指し、検索や自動化といった機能はシンプルなものにする一方で、手動によるメモの「置き場所」の変更や、内容をまとめて「見返す」ための機能など、紙のノートが持つ機能性の再現にこだわっている。また、紙のメモは、書きためたメモの量が「紙の束の厚さ」として表れるが、デジタルメモであるCorkboardでは、そのことが画面上に表示される「森」の変化としてユーザーに示されるという。
残念ながら、Corkboardは期間内に実装にまで進めなかったそうだが、今後も開発は継続していきたいとしている。作者の柴原さんは「ITプロダクトは効率、生産性、自動化ばかりが評価される。中には、人間に寄り添う、もしくは人間の感情のよりどころになるようなソフトあっても良いのではないか。デジタルなアプリにおいても、人間が安心して寄り添うことのできる『空間』を生みだすことを目指し、追求していきたい」とした。