早稲田大学大学院スポーツ科学研究科の内藤隆氏、早稲田大学スポーツ科学学術院の石井香織教授、および岡浩一朗教授らの研究グループは、短時間(3分30秒)の運動プログラムを開発したことを、12月11日に発表した。同プログラムは、1回の実施で子どもの認知機能と気分を一時的に高めることができる。
なお同研究の成果は、12月5日に『Scientific Reports』に掲載されている。
運動が認知機能を高めることは、20年以上前から研究によって明らかになっており、これまでにも数多くの研究が蓄積されてきた。さまざまな研究結果をまとめて検証する「メタ解析」の方法でも、1回の運動および習慣的な運動とも、認知機能によい影響を与えることが示されている。
しかしながら、これまでの研究の多くはランニングやスポーツといった中強度・高強度の運動や、20〜60分程度の比較的長時間の運動が中心となっていた。より取り組みやすい短時間かつ低強度の運動を扱った研究は十分ではなかったという。
内藤氏らの研究グループは、子どもたちが少しでも体を動かして座りすぎを軽減するとともに、認知機能と気分の向上にも効果がある、短時間の低強度運動プログラムを開発した。
さらに、小学5年生から中学2年生の計31名を対象にした実験を行っている。実験では、安静条件(15分間を安静な座位で過ごす)と運動条件(座位での休憩の合間に3.5分間の軽運動を行う)という2つの条件を、すべての対象者が実施。安静条件および運動条件の各前後に、認知機能と気分(快適度・覚醒度)を測定した。
認知機能の測定では、「カラーワード・ストループ課題」という認知課題を行って、反応時間などで抑制制御を評価している。気分の測定では、二次元気分尺度(TDMS)という質問紙を使用して、対象者の快適度および覚醒度を評価した。
運動条件で用いた3分30秒の低強度運動プログラムは、ストレッチ・片足バランス・手指の運動といった、誰もが取り組みやすい種目で構成される。特別な道具や準備の必要がなく、教室環境でできる内容としている。この運動プログラムは、同研究グループが前頭前野の血流を増加させやすい低強度運動種目として、以前の研究(Naito et al., Scientific Reports, 2024)で特定した内容を元に作成された。
実験結果としては、運動条件では運動後に認知課題(不一致課題)の反応時間が有意に短縮した。一方で、安静条件では有意な変化はみられなかった。
さらに、運動条件では運動後に快適度が有意に上昇。一方で、安静条件では有意な変化はみられなかった。安静条件では15分の座位の後に覚醒度が有意に低下したものの、運動条件では覚醒度が維持されている。
これらの結果から、3分30秒の低強度運動プログラムによって、抑制制御が高まるとともに快適度が向上することが示された。また低強度運動プログラムにより、座位安静による覚醒度の低下を防げることも明らかになった。
学校や塾における授業開始時や授業の合間などに、今回の運動プログラムを取り入れることで、子どもの心身の健康と学習効率が高まることが期待される。その際、動きのあるストレッチや手指の運動、バランス運動で構成された、低強度ながら一定の身体的・認知的負荷がともなう運動が推奨されている。
今後は、対象を小学5年生から中学2年生以外の子どもに広げて検証する必要があるとしている。さらに、1回ではなく習慣的に軽運動を行った場合の、認知機能や気分に及ぼす影響も検証する必要がある。あわせて、学校や塾における軽運動プログラムの実践を広めるべく、動画やWebサイトといった教育現場で実践しやすいツールの開発が求められる。
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