
影響力を増す科学技術──大学が果たすべき使命も変わりつつある
──2026年4月、東京理科大学 理学部第一部に「科学コミュニケーション学科」が誕生します。開設の経緯を教えていただけますか。
理学部は本学で最も歴史の古い、伝統的な学部です。現在、基礎系といわれる数学科、物理学科、化学科と、応用系の応用数学科、応用化学科の5学科があります。そして今回、新たに「融合系」として科学コミュニケーション学科を開設することになりました。
東京理科大学はその名の通り、理工系に属する学問領域をすべてカバーしています。「理学の普及を以て国運発展の基礎とする」という建学の精神を掲げ、理系の学問のエッセンスを使って学問体系を成しています。その中で、昨今議論に上ってきたのが「『理学の普及』という大学の使命を果たすために、今の時代の変化に合わせてやるべきことは何だろうか」ということでした。
今、理学を取り巻く環境は激しく変化しており、AIの普及をはじめ、科学技術は影響力を拡大しています。特に、一部では環境問題やワクチンに関する議論などの場面において科学者の話が正しく伝わらず、科学への信頼が揺らぐケースが増えています。また、科学技術の研究・開発によって生じる、倫理的・法的・社会的な課題「ELSI(エルシー)」も無視できません。
現代においては、科学と社会の新しい関係の構築が求められているのです。これまで本学の「理学の普及」は先端的な研究を行うことでしたが、今後は「市民レベルにおいて、理学や科学を普及させるにはどうすべきか」を考えていかなければなりません。
そこで必要となるのが、さまざまな観点で理学や科学を「伝える」「議論する」ことです。現代社会において必要な人材を育成するために、メディアや情報、コミュニケーションについて研究すべきだと考えました。これが、科学コミュニケーション学科が誕生した背景です。
──科学コミュニケーション学科では、具体的にどのような授業カリキュラムを予定していますか?
「科学コミュニケーション」という名を冠するからには、学ぶのは「科学だけ」でも「コミュニケーションだけ」でも不十分です。
学生は、軸足となる専門分野を見つけて研究しつつ、その隣接領域の学問も学ばなければいけません。それに加えて、コミュニケーションについても学べるように、4年間のカリキュラムを設計しています。

1年次には幅広い理学領域を学んだうえで、2・3年次に「情報・データサイエンス」「数理(数学)」「理科(物理学、化学、生命科学)」の3つの専門分野から自分の興味のある領域を専攻してもらいます。
また、全学生がデータサイエンスを学ぶカリキュラムを用意します。ここでは、データサイエンスそのものではなく、データサイエンスを手段として活用するための、目的を持ったデータの取り扱いを学びます。というのも、データサイエンスそのものを学びさえすれば道が開けるわけではありません。あくまでデータサイエンスはツール・手段であるため、軸足となる専門領域が重要です。
コミュニケーションに関しては、理論と実践の両面から学べる授業を想定しています。1年次に理論を習得したうえで、2年次以降は実習として、実際に市民の方々に科学を伝えていく実践的なカリキュラムとなっています。
科学コミュニケーション学科のカリキュラムのほとんどは新設科目で、その授業はアクティブラーニング形式で行われます。インプットした知識を自分で分析したり統合したりしながら、最終的には問題解決や意思決定などのアウトプットにつなげていきます。