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前回記事:総務省が標準仕様を策定する「教育クラウドプラットフォーム」を有効活用する手法とは? 先導的教育システム実証事業の総括および3地域での取り組みを紹介
「フルクラウドモデル校」での各校の成果に手応え
フルクラウドモデル校における実証事業として、柏市立田中北小学校、小金井市立前原小学校、箕面市立箕面小学校、倉敷市の小中学校4校(倉敷市立連島北小学校、倉敷市立連島東小学校、倉敷市立多津美中学校、倉敷市立福田中学校)、多久市立中央小中学校の担当者がそれぞれ発表を行った。
千葉県 柏市立田中北小学校
柏市立田中北小学校からは西川真吾氏が登壇した。フルクラウドには、いつでもどこでもインターネットが使えることを期待し、3~6年生の児童84名に対して1人1台Chromebookを支給。多彩なGoogleアプリを活用して、個々に合わせたドリル学習や家庭での反転学習、複数での協働学習などを行った。
コンテンツの活用としては、体育の授業で手本として「ウチダDVC(デジタルビデオクリップ)」を使った動画の閲覧や、「ニューコース学習システム」を用いたドリル・振り返り学習などが紹介された。また家庭における反転学習では、授業支援アプリ「テックキャンバス」を用いて、家庭で撮影した写真と手書きのデータを共有。授業中にはGoogle音声検索で情報を調べたり、「NHK for School」の教材を使用したりした。また、Chromebookのカメラ機能はノートの共有や野外観察などに使われた。
西川氏は「一人ひとりの実態に応じて使用できた」と評価し、特に音声検索などのGoogleアプリの活用や、反復学習の状況把握などに効果があったと語った。その一方でインターネットにつながらない、止まるなどの不具合が生じたこと、教員がChromebookやGoogleアプリの操作に慣れておらず対応が難しかったこと、そして一部アプリに不具合があったことなどの課題を指摘した。
東京都 小金井市立前原小学校
前原小学校では松田孝氏が校長に着任した約1年前からICTの導入を進めてきた。現在は各教室に無線アクセスポイントが設けられ、どこからでも自由自在にインターネットに接続できる環境が整備されている。
実証事業の実施にあたり、松田氏は「この時代にクラウド活用、マルチOSは当たり前」という前提で積極的な取り組みを進めてきた。総務省の「教育クラウドプラットフォーム」のメリットとして、学校・学科・学年・個人に合わせて自由にカスタマイズができることをあげ、「現場でさまざまな挑戦もしやすくなり、先生や児童が楽しみながら学ぶことができるのでは」「レビューを実施したり、活用法がさらに共有したりできれば、より活用しやすくなる」と語った。中でも授業支援システム「schoolTakt」や「アプリゼミ」を高く評価し、プレゼンテーションや英語、プログラミングのコンテンツも多く活用した。
課題としては、学校公開日に500人以上の児童がWi-Fiアクセスポイントに同時接続する可能性があったため、クラスを半分に分けたり、SIMでモバイル通信を併用したりと工夫したことを紹介。「回線の許容量は今後の課題になる」と評した。
松田氏は最後に「今後は児童たちが興味関心を持ち、自発的にクラウドにアクセスして学ぶといった、新しい学び方のスタイルを獲得していくだろう」と語った。
大阪府 箕面市立箕面小学校
箕面小学校 校長の松山尚文氏は冒頭で、「クラウドが当たり前になる時代を実感した。ネットワークの存在を全く意識せずに、ICT利用ができた」と振り返った。
箕面小学校ではICT機器を活用する上で、次の4点を重視して授業が組み立てられた。
[1]情報活用能力の向上
調べ学習やプレゼンテーション、アウトプットの道具として活用した。Windows10の端末を利用したことについては、教員も慣れていたため「指導がしやすかった」といった声が多かった。協働学習では学習支援ソフト「schoolTakt」を活用し、教諭内での評価が高かった。
[2]情報モラルの育成
デジタルタトゥーのリスクや、なりすましやフィッシング、情報の信憑性などについてもレクチャーした。
[3]個別の補充学習
NPO法人eboardの強力を得て放課後学習を実施。4~6年生の30名弱が参加し、自学力の育成を図るべく単元の復習を行った。
[4]プログラミング的思考力の育成
Microsoftの「Minecraft」を活用し、4年生のクラブ活動でプログラミング学習を実施した。
松山校長は最後に「児童の情報活用能力の向上が見られ、情報モラルについても具体的に説明することで効果があった」と成果を報告。その一方で、教諭によって情報やスキルの格差があったことや、そのキャッチアップのために情報カリキュラムを充実させる必要があることを課題としてあげた。
岡山県 倉敷市の小中学校4校(連島北小学校、連島東小学校、多津美中学校、立福田中学校)
倉敷市の小中学校4校で行われた実証事業に関しては、倉敷市立連島小学校の情報学習センター主任である守谷和幸氏が代表して発表を行った。
連島小学校では4~6年生40人と教員にWindowsタブレットを1人1台用意。校内のWi-Fi回線および校外のLTE回線から「教育クラウドプラットフォーム」に常時接続が可能である、安定した環境下で実証事業が行われた。
校内でのタブレットの管理は名前を書いて各自で行った。通常の授業では「Schoool Takt」が用いられ、「eライブラリ」を用いた放課後個別学習や体育や理科の観察など、教室外でもタブレットは使用された。週末には家庭学習用に持ち帰り、自発的な反転学習に活用された。
課題は職員を中心に、慣れるまでに少し時間がかかったこと。それも含め、早急な「担い手の育成」が不可欠との指摘があった。
佐賀県 多久市立中央小中学校
多久市からは多久市立中央小中学校の学校教育課 指導主事 柴村直美氏が登壇。2017年4月に同校は義務教育学校に転換したが、ここでは前年に行われた、多久市立中央小学校での実証事業の結果が発表された。各教室にWi-Fi環境が整う状況下で、「(1)別室登校児童または特別支援学級を対象にしたeboardを活用した個別学習」「(2)プレゼンテーションの資料をつくる協働学習および市長に対する遠隔プレゼンテーション」の2点が実施された。
(1)の個別学習については、主に「総合的な学習」の時間にタブレットが活用された。校内で情報の検索に使われるだけでなく、校外の学習では「OneNote」に写真を貼り付け、コメントを挿入することを行った。そして(2)の協働学習では「市長さんへのプレゼン」をテーマに「PowerPoint Mobile」で資料を協働編集し、「Skype for Business」を使い遠隔で市長宛にプレゼンテーションを行った。
柴村氏は「個別学習では集中できない児童でも、ヘッドセットを使って自分のペースで学習を進められるなど、個々の進捗に応じた学習が可能になった。また、協働学習でも積極的な児童の様子が観察できた」と評価。「義務教育学校になり9年間子どもの成長を追うことができる。今後はさらに連続した取り組みを行っていきたい」と発表を結んだ。
総務省が実施する「先導的教育システム実証事業」について、フルクラウドモデル校とドリームスクール実践モデル校の担当者が成果を発表
平成29年度 総務省「教育の情報化」フォーラムレポート 第2回
2020年、「教育の情報化」を100%実現することを目標に、総務省では平成26年度より「先導的教育システム実証事業」および「若年層に対するプログラミング教育の普及推進事業」を実施・展開してきた。その平成28年度事業の成果発表・情報共有が、5月16日の「教育の情報化」フォーラムにて行われた。本記事ではフルクラウドモデル校、ドリームスクール実践モデル校での「先導的教育システムの実証事業」における成果発表についてレポートする。
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- この記事の著者
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伊藤 真美(イトウ マミ)
エディター&ライター。児童書、雑誌や書籍、企業出版物、PRやプロモーションツールの制作などを経て独立。ライティング、コンテンツディレクションの他、広報PR・マーケティングのプランニングも行なう。
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