【パネルディスカッション】多様なアプローチで挑むAI時代の人材育成と実践
最終セッションはフォーラムタイトルでもある「生成AI時代のトランスファラブルスキル育成の視点」をテーマに、パネルディスカッションが開催された。北海道大学の重田勝介氏と学校法人立命館 理事の山下範久氏、アドビのセバスチャン・ディステファーノ氏が登壇し、アドビの小池晴子氏がモデレーターを務め、参加者からの質問に答えるとともに、フォーラムの振り返りを行った。

重田氏は、情報リテラシーやAIリテラシーの学部共通教育についての質問に対し、デジタルリテラシーの全体コンピテンシーリストが「地図」となり、大学の教養として全般に習得すべきものであると語った。そのうえで「デジタルクリエイティブな活動で身につく『表現を振り返り、修正するスキル』こそ、生成AI時代に必要不可欠な汎用的スキルである。教員は、学生が自分の創作物に対して他者からのフィードバックを得て、その表現の効果をメタ的に理解する経験を促すことが重要である」と述べた。

山下氏は、大学ごとの文化やアプローチの多様性を指摘し、北海道大学の着実な取り組みと立命館大学の試行錯誤によるアジャイル展開を対比した。さらに、学びの協働性が、AIをはじめとした「人間ではないもの(ノンヒューマンなエージェンシー)」との協働へと広がり、より本質的な学びにつながると語った。ディステファーノ氏も「AIの影響を無視することはできない、『トランスファラブルスキル』『トランスファラブルラーニング(転移可能な学習)』が普遍的かつグローバルな教育で重要である」と強く訴えた。

大学におけるデジタルツールの導入について、重田氏は「各大学の個性や歴史といった得意分野から、草の根的に短期的なプログラムを導入していくことから始めるとよい」とアドバイス。山下氏は、組織の変化への抵抗を考慮し、新しい取り組みを担う部署や、ゼロから始める「特区」となる場所で先行して成功事例を創出することが、波及効果を生むと助言した。
「使うツールはアドビ製品でなければならないのか」という質問に対しては、講演に登壇した立命館大学の三宅氏が回答。「教育と社会の変革期において、表現の方法やアウトプットが固定されていないからこそ、変化に柔軟に対応し、共に考えてくれるパートナー」として、ツールにとどまらないアドビの存在意義を語った。加えて、重田氏はツール面においても「Adobe Fireflyは、エシカルな出力や著作権への配慮において信頼を置くことができ、教育にも適切な増幅ツールである」と補足した。
総括として、山下氏は「生成AIの登場により、学修者のエージェンシー(主体性)の捉え方が変化し、AIとの協働を通じてメタ認知が深まっていくだろう」と語った。また重田氏は「生成AIとの対話を通して、自分が何をしたいか、何を学んだかを明確に伝えられる『主観性をもって主体的に学ぶ力』が、AI時代のトランスファラブルスキルである」と述べた。最後にディステファーノ氏が「教育においてAIの活用を無視することはもはや不可能」と指摘し、学生たちが日常的にAIを利用する現状において、教育現場もAIを統合して新しい学びの形を追求していくことの重要性が改めて確認された。
フォーラムから見えた可能性「デジタルが触媒となる学び」へ
今回のAdobe Education Forum 2025では、高等教育機関が生成AI時代において、デジタル技術を単なるツールとしてではなく、学びのプロセスそのものを変革し、予測不可能な未来を生き抜くための「トランスファラブルスキル」を育成する触媒として捉えることの重要性が改めて強調された。このイベントをきっかけに、人間とAIが共創する新たな学びが進んでいくことを期待したい。