「子どもだけで抱え込まないで」──大人が粘り強くメッセージを伝えていく
──2月末に、こども家庭庁が公表した「こどもの自殺に関する意識調査」では、大人よりも子どもたちのほうが、子どもの自殺について高い問題意識を持っていることがわかりました。ですが、友人から「死にたい」と打ち明けられた子ども自身が深刻な悩みを抱え込む危険性もあります。学校で教えられることは何でしょうか。
自分自身が助けを求める方法とあわせて、友だちから助けを求められたときにどのように対応すべきかを伝える必要があるでしょう。具体的には周囲の大人に共有するように促したり、悩みを相談できる窓口の存在を教えたりといったことです。
──大人への共有はもちろん大切ですが、一方で子ども同士だからこそ話せる内容もあるのではないかと思います。「誰にも言わないでね」と言われ、友だちを裏切ることになってしまうのではないかと、なかなか言い出せないケースも多そうです。また、大人に言いにくい内容ほど、深刻な問題であることも少なからずあるのではないかと思います。
難しいですよね。ただ、相談の内容によっては打ち明けた子と相談を受けた子、2人で困ってしまうこともあると思います。いじめやSNS上のトラブル、犯罪被害など、子どもたちだけでは対処が難しい深刻な問題もあります。そういった場合は自分たちだけで抱え込まず、周囲の信頼できる大人や相談窓口に話してほしいと粘り強く伝えていく必要があると思います。命に関わることですから、周囲の大人が見守り、対応をする必要があります。「子どもだけで対応できないことは大人の力を借りよう。一緒に考えていこう」と、大人から寄り添うメッセージを伝えることが重要です。加えて学校では「あなたのことが心配だから先生に相談したい」といったように、相手の子へどう寄り添うか、言葉の伝え方まで教えてもらえたらと思います。
「子どもの自殺危機対応チーム」を立ち上げた長野県
──子どもだけでなく、保護者とのコミュニケーションも重要となるのではないでしょうか。
そうですね。生きづらさを抱えている子どもの背景には、保護者も生きづらさを抱えているケースがしばしばあります。ですから、保護者も含めた家庭全体をサポートする必要があります。学校は「親御さんも何かお困りのことはないですか」といった姿勢で関わっていく必要があるでしょう。
──家庭全体をサポートするとなると、教育委員会以外の組織との連携もより重視する必要がありますね。
その通りです。自治体の福祉課や保健所、こども家庭センター、そのほかの社会資源との連携は大切です。本来、学校は「学びを提供する場所」ですが、昨今は福祉的な役割まで担いつつあり、学校だけで対応するのは困難な場合があります。ですから、自治体を挙げて連携を進める必要があります。
モデルケースとなりそうなのが長野県の事例です。「子どもの自殺危機対応チーム」を2019年に設置し、学校等を支える仕組みを作りました。チームには精神保健福祉士のほか、心理士や弁護士といった他職種の専門家が参加しています。学校は、子どもの自殺リスクが高まり、対応が困難になった際に、このチームへ支援を要請できます。チームは学校をサポートしつつ、今後の対応策などを一緒に考えます。
さまざまな組織や社会資源と連携し、学校をサポート
──学校もまた、孤立させないことが重要なのですね。
はい。私たちのもとには子どもだけでなく、若年層の大人からも多くの相談が寄せられますが、その中には学校の先生からの「死にたい」というSOSも含まれます。教員のうつ病による休職率を見ても、より深刻化していることがわかります。
先ほどお話したように、近年、学校には福祉的な役割などさまざまな機能が求められるようになりました。当然、人手も足りなくなるので、学校を外部からいかに支えるかという観点も大切になってきています。
学校にはスクールカウンセラーやスクールソーシャルワーカーの方々がいますが、それでも学校だけで対処できない問題が多くあります。繰り返しになりますが、自治体のほかの組織や社会資源と連携し、地域で学校を支えていく必要があるでしょう。
だからこそ、普段学校や子どもたちと接する機会が少ない方々にも、ぜひ「子どもの自殺」という問題に関心を持っていただきたいです。そして、対策に取り組む担い手をいかに増やしていくか、少しでも多くの方々と考えていければと思います。