1人の高校生に向けた「Wordファイルでのフィードバック」が始まり
──大学進学時も、教育や探究学習について研究することを意識したのですか?
はい。ただ研究したいテーマは、現在と少し異なりました。受験生のときは高校のゼミでも取り組んでいたプログラミング教育をやりたいと思っていて、プログラミング教育のためのシステムやカリキュラムを開発するため、慶應義塾大学の環境情報学部に当時のAO入試を経て入学しました。
ただ、合格後に改めて高校生活をふり返ったとき、プログラミング教育というよりも探究学習として「好きなことに取り組む」こと自体が楽しかったのではないかと思ったんです。その後は「教育」と「探究学習」をテーマに研究することになり、学校に探究学習が取り入れられるきっかけともなった鈴木寛先生のゼミへ入りました。ちなみに、起業したのは大学1年生の9月です。
──入学後、かなり早い段階で起業を決断したのですね。
そうですね。実は大学受験が終わったころに芦野と話す機会があり、「高校の探究学習にはしっかりとしたフィードバックの仕組みが必要だ」とディスカッションしたんです。その後、芦野が探究学習で悩んでいる高校生を紹介してくれて、私がサポートに入ることになり、Wordのコメント機能を使ってフィードバックするようになりました。これがクアリアのサービスの原型になっています。

しばらくして、芦野経由で東京都や福井県の高校の先生から「うちの生徒を何人か見てほしい」と連絡がありました。ありがたいことにその評判がよく、「今度は学年単位で見てほしい」と依頼があり、さすがに私1人ではどうにもならなくなったので、大学生の友人たちと一緒に、3人で100人に対しフィードバックするという活動をしていました。
当初、起業するつもりはなかったのですが、手伝ってくれた友人たちにはお礼を支払う必要があるので、学校から少しお金を頂くことになりました。その後、継続的に活動するには起業したほうがスムーズだと考え、会社を立ち上げたんです。
──最初はWordでのフィードバックとのことでしたが、規模が大きくなった際にシステムも作ったのですか?
はい。幸い私はプログラミングができたので、Web上に作成したフォームに入力された内容からGoogleドキュメントのファイルを生成するシステムを作りました。高校生はフォームに自身の活動について入力し、大学生のサポーターがGoogleドキュメント上でフィードバックするという流れです。
──学校現場からの評判がよかった理由について、ご自身ではどのように考えていらっしゃいますか?
探究学習でよくあるのが、学年の中でもモチベーションの高い10人ほどの生徒が選ばれ、学外の大学生や専門家にフィードバックをもらいに行くといった取り組みだと思います。その取り組み自体を否定するわけではありませんが、私たちは生徒一人ひとりに向き合ってフィードバックすることにこだわっています。生徒全員の自己効力感を上げることこそが重要だと考えているからです。
実際に、あまり熱意がなかった生徒を含め学年全員にフィードバックしたところ、大学生サポーターの熱い気持ちを受けて「意外と面白いかも」「これをやってみようかな」と行動が変容したり、マインドセットが変わったりする様子も見られました。そうした点が先生方にとってもインパクトが大きかったのではないかと思います。
一方で、学校現場の課題として「生徒一人ひとりを見取りたいけれど、やはり忙しくて難しい」という声はよく聞いていました。私たちのサービスであれば、しっかりと一人ひとりに向き合うフィードバックが可能です。加えて、生徒と大学生サポーターがどのようなコミュニケーションをしているのか、生徒の進捗はどうなっているのかなどを先生が簡単に把握できます。そうした要素も評価していただけた印象です。